





アートキャンプの「シェイクラグ・ワークショップ」は、夏休み中で空いている校舎とキャンパス内施設を利用したユニークな試みで大人気(www.shakerag.org)。
例年6月にテネシー州で1週間ずつ計2回行なわれ、大人のみが対象。参加者は合わせて100人以下の小規模なキャンプではあるが、講師陣は国際的に活躍するアーティスト達で、参加者も全米各地や海外からもやってくる。1週間泊まり込みで、講師、参加者、スタッフ共々アートをキーワードに、充実した時間を美しいキャンパスで過ごす。
夏休みになると、子供達は一斉にキャンプに参加して日常とは違う体験をするが、同様にこのような大人のキャンプも全米各地で開催されるのである。
有名アーティストを講師に、1週間みっちり、楽しく…
アートと一口に言っても、授業科目は陶芸、写真、絵画、染色、ペーパーメーキング、金工、キルト、フェルト、デジタルアートやサイト&サウンドなど多彩に渡り、毎年各分野のアーティストが講師として選ばれ、8科目提供される。
生徒は各クラス数人から多くても16人と少ない。毎日顔を合わせていると親密になるけれど、1週間後に授業が終われば各地に散ってゆく。期間限定の家族のようだ。
参加者によって、そして講師(アーティスト)の個性によって、クラスの雰囲気がダイナミックに変化するのも面白い。技法を基本としてまず学ぶが、そこから一歩進んでかなりの冒険も許容され、こういう機会でしかできないような実験的な制作を試みる生徒も。
何しろスタジオは期間中24時間使用できるので、納得がいくまで制作する時間がある。参加アーティスト達の作品を展示したギャラリー、図書館、そして毎晩夕食後にはアーティストによるスライドレクチャーなど、創造意欲を刺激する環境が作られている。
学生の寮を開放。参加者の宿泊施設に
このアートキャンプは、私立中学高校「セントアンドリュー・スワニー」の施設を2週間のあいだ借りて行なうのだが、同校はキリスト教の聖公会(Episcopal Church in the U.S.A.) による全寮制の学校で、テネシー州ナッシュビルから2時間離れた美しいスワニー村にある。
広大なキャンパスには教会はもちろん、ダイニングホール、体育館、講堂、教室などの建物がなだらかな芝生の丘や森の間に点在する。ワークショップの期間中講師達や参加者が滞在するいくつかの寄宿舎は、いずれも花壇に囲まれ、ポーチにはロッキングチェアーが置かれて、一見、ごく普通の一戸建て住宅である。普段は5寝室に中学高校生徒が共同で住み、シャワーや洗面所は共有、そして「両親役」を務める教師が2階に住むそうだが、夏休みには全員が出て新学期の9月まで空。いいタイミングでシェイクラグ・ワークショップが行なわれるというわけ。
パワフルな女性ディレクター、クレア・リーシュマン
シェイクラグ・ワークショップのディレクターはクレア・リーシュマン。セントアンドリュー・スワニー校の英語教師である。キャンパスのすぐ近くに教師のご主人と住むが、クレアは週に数回乗馬を楽しむタフな女性。フォックスハンティングの乗馬クラブに属し、会員達は狐ではなくコヨーテを30匹の犬達と共に野を越え山を越えて追う。
クレアは3頭のサラブレッドを飼っている、…と言うと富豪のように聞こえるが、とんでもない。ケンタッキーやテネシーではサラブレッドは5歳になるとお役御免で処分されるそうで、そのような馬をクレアは3頭もらい受けたのである。最年長の愛馬チェットは18歳というから、3頭共々命を拾って幸せな馬達だ。
クレア宅の背後は教会所有の土地だが、一面に葛が生い茂っていた広大な土地を馬達の為に使わせてもらえないか、と教会側に聞いた所、葛を始末すれば年に1,000円程度の賃貸料でOKと言われ、なんと2年間かけて毎日葛を根気強く自分の素手で除去!目出度く馬場が誕生した。
クレアにまつわるエピソードは数限りなく、驚かされるばかり。今回、講師達とスタッフとの40人くらいのパーティがクレアの広大な自宅で行われ、秘蔵のバーボン(テネシー州のバーボンは有名)をクレアのご主人がバーテンダーとして皆にふるまい、おつまみとバーボンで皆の口もなめらかになったあと、チーズスフレ、大きなかたまりの肉料理、サラダ、野菜の煮込み(ラタトゥーユ)、そしてシャーベットとチョコレートタルトが振る舞われたが、すべてクレアの手料理であった。
さまざまな人々との貴重な出会いの場にも
1週間のあいだ、典雅なダイニングホールでの食事は楽しい。朝昼晩とバイキング形式の食事で、シェフはシェイクラグ・ワークショップのため、特別に地元で収穫された新鮮な有機野菜を使って世界各国のベジタリアン料理に腕を振るう(勿論肉や魚の皿もある)。毎回違うデザートも楽しみのひとつで、新鮮なミントピーチティーを飲みながら隣にすわった人とおしゃべりを楽しむ機会でもある。
大学を出てこれからの方向を探している若い人々や、元気なお年寄り、忙しい仕事の合間に休みをとったキャリアウーマン、引退した教師など、さまざまな背景や経験を持つ人々。アメリカ人は開放的で率直、おしゃべりが大好き。その賑やかなことと言ったら!笑い声が高い天井に大きく響き渡る。
旅や本や最新のテクノロジー、文化、そして普段は話題に上がらない政治の話まで広がるのはアートキャンプならでは…。外界から隔絶された別世界でアート制作に集中し、美味しい食事や珍しい話を新しい仲間達と分かち合う何と贅沢な1週間であろうか。
Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。