





新築及び改築された一戸建て住宅を眺めると、住宅内に大きな車庫を含む建築デザインが目につく。多くは家全体の雰囲気に合わせ、違和感のないように設計されているのが特徴。車が数台入る大きな車庫スペースも新しい傾向だ。
アメリカは広い国だから住宅の敷地面積も道路も広い。車庫がなければ家の前の通りに駐車する人も少なくないが、建物内に車を保管する設計を主眼に置いた増築・改築がここ数年顕著になった。
この変化はなぜ起きているのだろうか?
車社会とともに変化してきた住宅
アメリカは車社会である。都心か電車の駅から近い所に住む、あるいは自転車で職場に通うなど、車なしの暮らしを意識的にしている人もいるし、バスを利用するお年寄りもいるけれど、車が便利、という現実を認めないわけにはいかない。
1950年代から1960年代にかけて車が一般にゆき渡ると、家からバックヤード(庭)をはさんで1台分の車が入る車庫つきの一戸建て住宅がどっと供給され始めた。出かけるには住まいから庭を横切って車庫へ行き、裏通りから運転して表通りへ合流する。このタイプの車庫を持たない当時の家庭では、家の前の道路か、家の横(=ドライブウェイ)に乗り入れ駐車した。
近年は車の構造が変わり、車内にさまざまな高価な機器が取り付けられるようになった。そのため、道路に駐車していて車の頭脳であるコンピューターを盗まれた、という話も…。タイアのホィールキャップか、小銭程度だったら盗まれてもまああきらめもつくが、車全体を司るコンピューターを盗まれたらたまらない。贅沢な車もリース車(賃貸)利用ドライバーも増え、車を盗難や傷つけられるのから守るためには、シャッターつきの車庫に保管するのが一番となってきたわけだ。車庫の周囲数カ所に防犯カメラを備えた家も少なくない。
1世帯に2.28台
1世帯あたりの車保有台数が増えた点も車庫を改築、増築する傾向をあおっている。エクスペリアン・オートモーティブ社の調査では、アメリカの自動車保有率は1世帯につき2.28台だそうだが、周囲を眺めても納得できる数字だ(www.autospies.com/news/Study-Finds-Americans-Own-2-28-Vehicles-Per-Household-26437/)。
女性の多くが働き、職場へ夫婦別々に車で通う社会事情の変化も車保有率の増加に拍車をかける。子供達は16歳になれば自分の車を欲しがる。以前のように一家に1台どころか、近い将来には一人1台になってしまうかもしれない。その結果、通や家のわきでは駐車しきれず、増築改築を望むようになる。
敷地を増やすわけにいかない改築の場合は2階建にしたり、バックヤード(裏庭)をつぶしたり、これまで使っていた単独の車庫をつぶしたりして居住面積を増やす。だから建物内に車庫を取り入れる建築仕様は合理的な解決策とも言えよう。
外気に触れることなく乗り降り
より快適な暮らしを望むアメリカ人の性格も、建築内の車庫増加の要因として加えたい。道路に駐車すると夏は車の中が暑くなり、冬は冷凍庫だ。特に雪が降り寒いシカゴなどの地域では、まずフロントガラスの氷をかき取り、雪にうずまったタイア付近の雪かきをしてから車を出さねばならない。家とは別に単独に建てられ庭を隔てた車庫の場合でさえ、歩いて(とはいっても十数歩なのだが)車までたどり着かねばならず、数秒間寒い外気にさらされる。雨降りだと歩く間にぬれてしまう。
その点、住まいの中にある車庫なら室内の一部なので、冬は暖かく夏は涼しいままで車に乗り込み、コントローラーで車庫のシャッター開閉をして出かけられる。このような快適な車庫から車を運転し、出勤前にスポーツクラブやトレーンングジムに寄って、トレッドミルで歩いたり走ったり、プールでひと泳ぎするアメリカ人達が増えてきているという現状がある。
賃貸住宅でも、車庫事情が重要ポイントに
賃貸住宅ビジネスにおいても車庫の有無や駐車場状況は、顧客を引きつける重要な点であり、駐車場対策に真剣に向き合わざるを得ない。住宅開発業者側でも、車庫に関してはすでに敏速に対処しているようだ。建物内の1フロア全体を駐車場のスペースに用いるのは無論だが、通常地下に設ける駐車場を3階に持ってきた新しい高層集合住宅がある。居住している友人から、地下より明るいし、住まいの階に上がるにも便利で喜んでいる、と聞いた。
特に目を惹く一戸建て住宅やタウンハウスを注意して観察すると、車庫を含めた外観全体を十分に考慮しているものが見受けられる。設計プランは建設着工以前に市に提出し、美観も含めて審査されるが、街全体の雰囲気を壊すような設計だと却下されてしまう。また、建物内に取り込まれる車庫の多くは正面に設けられるため、通りから見ると住宅の「顔」でもあり、一戸建て住宅やコンドミニアムを供給する事業者も賃貸業者も車庫のデザインにも気を配らざるを得ない。その点も車庫の進化に貢献していると言えようか。
Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。