





言語を幼児教育のもうひとつの柱としているアンヌリース校。ドイツ語、スペイン語、イタリア語、フランス語、中国語、日本語などを幼少時から学び、それぞれの国の伝統的な工芸や音楽、演劇など、各国の文化も共に勉強する。
前回、園芸プログラムを通して環境保全を学ぶアンヌリース校の教育内容を紹介したが、言語教育も同様に他国や他民族への理解を深め、将来、「地球人」として生きるべく、その責任と自覚を育てる点にかなりの比重を置いている。
幼児のうちから外国と触れ合う教育
幼稚園から小学6年生まで毎日わずかの時間であるが、外国語の勉強がある。外国語で歌を歌ったり、その国の挨拶など、毎日繰り返して行なわれる。
“数多くの外国語を幼児のうちから学ぶことは児童の知性に大いに貢献する。具体的には想像力を育み抽象的な考え方を助け、認識力を伸ばし増進させる。外国語を身につけることと、他の国々の文化を理解することは、生徒達が21世紀の地球規模の世界に生きて働く準備段階として必要な技能であろう”と、アンヌリース校の教育方針は世界に目を向け躍動的だ。
筆者が訪れた時、教室の隅にスーツケースやバックパックが小山のように積み上げられていたので、「これらは何?」と聞いたところ、「クラスでエルサルバドルへ遠足に行く支度です」との返答。
生徒の家庭から不用の服などを集め、それらを携えて現地を訪れ寄付するのだそうだ。確か小学4年生のクラスだったが、スペイン語の日常会話をすでに学んでおり、土地の気候や地理、文化なども勉強している。
旅費は寄付金集めをして賄うと聞くが、言語の勉強が机上の学問に終わらず、こうして実際的な体験へと結びつき、実際的だ。
生徒の個性を伸ばすための創造的な環境づくり
アンヌリース校は、保育園、幼稚園、小学校までの私立校で、50年前にアンヌリース・シメルフェニィグ (Anneliese Schimmelpfennig) により設立された。
“どの子供もそれぞれ独自の才能を持って生まれてくる。才能は一人一人違うが、教師はその潜在的能力を見つけ出し、生徒が自力で開発する助けをする。そのためには愛情に満ちた豊かで創造的な環境を作り出し、その中で勇気づけながら才能が花開く機会を持つ”というのが、アンヌリース校の信念。
創造的な環境作りの例として、学校の門がまず印象的だ。通常のコンクリートや鉄の味気ない灰色の校門とは全く違う。明るい色彩にあふれて楽しく、思わず校内へ誘い込まれてしまう。
言葉の学習だけでなく、その国の工芸品づくりも
孔雀、アヒル、カモなど鳥小屋の隣にヒツジ、ヤギ、ロバ、アルパカを飼っている。年に1度アルパカの毛を刈り取る体験も。原毛を洗って整毛し、糸を紡いで織り機にかけ、小さなタペストリーを織り上げるが、気の遠くなりそうに手間のかかる工程だ。
スペイン語を習いつつ、スペイン語圏のペルーやグァテマラの文化へと目を向け、現在でも伝統に従い作られている工芸品を自分たちで体験してみると、一層その国の文化への理解が深まるのではないかと思う。
インディアンのテントのわきをトロッコで土を運んでいる生徒が通りかかる。井戸で水を汲み上げ、畑に水を撒いている生徒も見かける。藤棚の下、戸外で授業を受けているクラスもある。
アンヌリース校は競争を奨励しないためか、生徒達はおっとりしている。アメリカは苛烈な競争社会、という筆者の思い込みが変化してゆく。
月謝は高め。富裕層の子供向け
いいことずくめの学校と思われるかもしれぬが、しかし私立校は月謝が高く、誰もが通えるわけではない。
シカゴ市に比べてカリフォルニア州は物価も土地も高い。特に西海岸に沿った地域は富裕層が住んでおり、ラグナビーチ市も例外ではない。太平洋を見下ろす高台の一戸建て中古住宅は小さい家でも2億から3億円と言われる高級住宅地。アンヌリース校の月謝は幼稚園や小学校の学年によって違うが、小学1年生を例にとると、だいたい月に16万円くらいだそうだ(annelieseschools.com/enrollment.cfm?section=enrollment_tuition)。
親達が各種イベントを頻繁に催し、募金集めをして、できる限り月謝を抑えたりその他の出費を最小限にする努力をしている様子だが、それにしても経済的にかなり豊かな家庭でない限り負担が大きい。ちなみに公立の幼稚園や小学校は、月謝は無料である。
「自由で楽しい学校」を夢見たドイツ人創業者
ドイツで生まれ育ったアンヌリースは子供の頃、学校の授業内容に疑問を持ち、いつの日か、もっと自由で楽しい学校を作りたいと夢見て成長したという。
教職に就くべくミュンヘンで勉強中、彼女はアメリカ人学者ポール・シメルフェニィグと出会う。プリンストン大学から奨学金を受け、ドイツで勉強中であったポールはその後カリフォルニア大学助教授として教職に就き、アメリカへ戻る。二人は結婚し、アンヌリースは故国ドイツを離れてアメリカへ渡る。
長年の夢であった学校設立は、カリフォルニア州ラグナビーチ市の小さなガレージで保育園として出発した。その後50年間にキャンパスは3ヵ所、生徒も400人余りに増え、地元で人気が高い学校になった。
現在は娘のリサが取り仕切っているが、元気なアンヌリースは時折りキャンパスに顔を出し、子供達とおしゃべりを楽しむそうである。
Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。