






独立記念日はアメリカ合衆国の誕生を祝う国民の祭日だが、BBQ(バーベキュー)と歴史的なつながりはない。しかしBBQ(バーベキュー)は独立記念日の定番であろう。学校はすでに夏休みに入っている。梅雨はなく夏はまっさかり、とてもじゃないが室内にこもっていられない。
厳しく閉鎖的な冬の反動か、誰もが戸外に出て家族や友人隣人達を招いたり招かれたり…、社交に忙しい時期だ。
とりわけ7月4日の独立記念日は会社も店も休みになり、ピクニックを楽しむグループで公園や湖岸は賑わい、あちこちで料理しているバーベキューの香りと煙が漂ってくる。
なんといっても、「オトコ」が主役
BBQはオトコの領分。家庭的なBBQパーティに招ばれて行くと、エプロンをかけたお父さんかご主人かボーイフレンドがグリルの前に仁王立ちで大活躍している。
庭仕事の道具かと見紛う程大きな鉄のフォークを右手にかざし、分厚い肉をダイナミックにひっくり返す。そして箒のようなブラシに持ち替えてソースを肉に塗りたくる。モクモク煙が出るわ、油やソースははねるわで豪快な光景である。
冷やしたビールをラッパ飲みし、山盛りのチップスをつまみに談笑。得意のジョークを飛ばし合い終始笑いが絶えない。
料理はオトコ連にまかせて女性は飲んだり食べたりおしゃべりを楽しむ。紙皿や紙ナプキン、紙コップを使って後片付けは簡単。紙皿や紙ナプキン、テーブルクロスや風船やリボン、ケーキやクッキーに至るまで赤と青と白だが、これらは星条旗にちなんだテーマ色である。
家庭用の使いやすい調理器具で気軽に
BBQという言葉はスペイン語から転訛したらしい。豚を丸ごと長い時間かけて蒸し焼きにし、家族だけでは食べきれないので近所の人たちを呼び集めて共に味わったのが発祥と聞いたことがある。
BBQ器具の下部に燃料を置いて火を熾し、その上に鉄網を置き、肉を乗せて蓋をかぶせて焼き上げる。燃料は炭が多い。しかし日本の炭とは違って燃えやすく加工してあり、小さめのたどん(古語?)位の大きさ。紙袋に入ってあちこちで売られている。
「チムニー」(煙突)と呼ばれる桶にゴロゴロと二十個位炭を入れて火をつけた新聞紙を入れるとすぐに火が熾きる。燃えさかったところでこれらの炭をBBQグリルに移す。近年、点火が簡単なのでガス(多くはプロパンガス)をつかうBBQ器具が出回っている。
味付けは母国風にさまざま
スペアリブ(骨つきの豚肉)、ステーキ、鶏肉、羊、ソーセージ、ハンバーガー、魚や貝、野菜など食材は幅広い。ソースは食材にあらかじめ下味をつけておいたり塗りながら焼いたり。自分で調合する人もいて、ソースの配合はケチャップをベースに甘さと酸味のバランス、そして各種のスパイスが決め手。粉状のスパイスを肉に手で直接擦り込んでから焼く人も。
お国自慢も各地にあって、テキサス味、南部の味、中西部ではカンサスシティ味が有名で、全米コンテストもあるほど。
市販のソースは20種類はゆうに出回っている。何せBBQはオトコの出番なのだ。さまざまな工夫や秘密があるらしい。例えば、香り付けにヒッコリーやシュガーメープルの木片を30分水に浸けておき、それを炭の上に乗せて焼くと水分を含んだ木片はすぐに燃え尽きず、木片から出る煙で食材が燻され肉など香り高く仕上がるそうだ。
パンやポテトサラダ、コールスロー(キャベツサラダ)がそえられる。デザートは色鮮やかに赤と青と白に塗り分けたケーキやクッキーだ。
裏庭、パティオ、ベランダ、屋上、公園…、思い思いの場所で
家庭でのパーティは裏庭(バックヤード)にBBQグリルを置いて周囲にテーブルや椅子を配する。パティオとかポーチ、ベランダでBBQをする家庭もある。集合住宅だとベランダで小さめのBBQ器具を使う人もいるし、アメニティとして住居者達のために屋上にBBQグリルを備えたコンドミニアムもあって、人気が高い。
多くの公園ではBBQグリルが設置されている。人々は食材と飲み物、燃料を車に積み込みやってくる。シカゴはさまざまな国からやったきた移民達が多いので、東ヨーロッパ風のBBQ、韓国風BBQ、メキシコ風BBQなどお国柄があらわれ、さながら世界地図を眺め歩くよう。
パレード、花火、コンサートと、国中が盛り上がる日
1776年、アメリカ東部13のイギリス植民地住民達は英本国の帝国主義的で独善的な支配にたまりかねて独立宣言書を本国イギリス政府につきつけ、10年近く続いた独立戦争の後にイギリス軍の降伏でついに独立を勝ち取った。
独立宣言の草稿はトーマス・ジェファーソンを中心にジョン・アダムス、ベンジャミン・フランクリンなどによって1776年7月になされたが、憲法にはヨーロッパの古い慣習から解き放たれ個人の自由と平等の権利が高らかにうたわれ、それが現在でもアメリカ社会の基盤となっている。
初代大統領となったワシントンはアメリカ独立戦争の司令官であった。独立記念日には当時の軍服を着てのパレードが行なわれたり、国歌を斉唱する町や組織が多い。
パレードや山車(だし)が賑やかに街中を行進したり、コンサートや野球の試合も催される。夜はミシガン湖上をはじめ、あちこちで花火があがる。昼間から陣取り合戦がはじまり、湖畔や公園に続々と人々が集まってくる。
BBQはいたるところで行われ、独立記念日はどこも活気で盛り上がりわくわくする夏の祝日なのだ。
/en.wikipedia.org /wiki/Independence_Day_(United_States)
Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
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コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。