







暮らしを簡素化するベビーブーマーズ(団塊の世代)がますます増えてきた。持ち家を売り、暖かい地域へ引っ越す。手入れが楽なコンドミニアム、あるいは車しか交通手段がない郊外から都心部へ住み替える。
アメリカのベビーブーマーズの大半はローンをすでに払い終えた持ち家に住んでいる。住まいを変えるにはまず持ち家を売らねばならない。現在の不動産マーケットでは、買い手の主流は20代から30代のミレニアル世代。彼らは家の好みも物件の探し方もベビーブーマーズとは違ってきている。
では、売り手のベビーブーマーズがミレニアル世代(つまり買い手)を惹きつける作戦はあるのだろうか?
なんでもネットで購入のミレニアル世代
ミレニアル世代は売り物件に出向く前、インターネット上ですでに充分リサーチ済みである。例えば、自分たちが望む家のイメージ、どこに住みたいか、予算内でどれ位の物件の入手が可能かなど。
あれもこれもなんでもネットで入手する傾向がある若者世代だから、そのうち不動産物件までネットで購入する気になるかもしれない。だからコンピューターが苦手なブーマーズであっても、家を売る際にネットに載せるのは絶対条件だ。物件のセールスを不動産エージェントに依頼すると不動産会社側は写真をつけて物件を売り出してくれるが、それでも「自分の財布をはたいてでも写真家を雇って撮影してもらうべきだ」と、20年近く不動産ビジネスを行なっているぺージ・エリオットさんは注意をうながす(12/11/2016 Chciago Tribune newspaper) 。
若者層を惹きつけるには高品質の写真やビデオ画像が効果的であり、携帯で手軽に撮るような写真では充分な効果が期待できないと、最近は不動産会社側も認めるようになってきた。
ドローン映像が急速に普及
部屋数が多く庭も広い一戸建て住宅では、物件全体を掴むためにドローン映像が大活躍する。ドローンとは小型無人飛行機を指し、元来は軍事目的で開発されてきたが、現在では写真を空から撮る「空撮」や農薬散布、工事現場の軽量化など幅広い用途で使用されている(www.pocket-lint.com/news/130253-drone-aerial-photography-explained-here-s-what-it-is-and-how-to-do-it)。
アマゾンがドローンを使って注文の品を30分以内に依頼主に配達する、というアイディアを打ち出し、ドローンは一躍の注目を集めた。カメラドローンは簡単に入手でき、価格も4,000円台から数万円までさまざまあるが、もしも自分で物件の空撮をするつもりなら、その区域それぞれに航空管制管理局の規制があるので事前に調べ許可を得る必要がある。
航空管理局によると、不動産ビジネスがドローンマーケットに占める割合は2020年までに全米で22%にのぼるだろうと予想している(12/11/2016 Chciago Tribune newspaper) 。
不動産物件専門の写真家が活躍
こうした風潮を背景に、不動産物件を専門に扱う写真家の活躍が近年めざましい。
「スペースクラフティング」や「VHT スタジオ」はドローン映像を効果的に使ってビデオで空からの俯瞰図やフロアプランを全体から細部に至るまで捉え、ミュージックビデオやビデオゲームなどバーチュアルリアリティ感覚に慣れた若者世代の要望に応えている。
特にスペースクラフティングのホームページを見ると、自分がその場にいて部屋を次々と歩いているような錯覚を覚える。そして次第に画像は空からの俯瞰イメージに変わってゆき、物件の全体像が掴める仕組みで切れ目がない。よどみのないその巧みな誘導には、さすがプロの仕事と感心してしまった。ぜひ見ていただきたい。
「ステージャー」が若者向けに住宅を演出
このほか、若者世代を惹き付ける手法として「ステージャー」と呼ばれるインテリアデザインの専門家の活用がある。ステージャーは買い手が物件を見に来る前に家の内部をより魅力的に整えておく。室内をステージ(舞台)として考え、観客、つまり買い手の興味を引くように舞台装置を演出するのだ。
部分的にカーペットを敷いてアクセントとして使ったり、ランプを置き、明るさと暗さの階調をつけたり、さりげなく食器類をテーブルに整える、写真立てを並べるなど、見せる焦点を絞り劇的な空間を演出するのである。
買い手がまず目にする玄関周りにも注意をはらい、ドアを若者世代が好むタイプのドアに変えたりもする。古いカーテンは絶対に取りはずす。時代遅れの壁紙ははがしてペンキを塗り替える。色彩は若者に人気のあるカフェに行って見学するのが一番だそうだ。
以上、いくつかの例をあげてみたが、魅力的なネットでの写真、ドローン映像、外回りと内部の家のデコレーションの見直しなど、若者層を惹きつけ、少しでも早く高く売るためのヒントになりそうだ。
心当たりの方はいくつか作戦を立ててみたらどうであろうか。
Akemi Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。