日本から約2,600km離れた南国リゾートのグアムでは、四半世紀ほど前に日本でよく見かけた軽トラックなど、いわゆる「右ハンドル」の車が人気を博している。
軽自動車は「日本の国民車」
日本には現在約800万台の軽自動車が保有されているというデータがある。しかし2020年12月に政府が発表した「カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で、50年を目処に軽自動車を含むすべての新車を電動化(EV)するという目標を立てている。公共交通機関が乏しい地方都市を中心に広く普及する「日本の国民車」ともいうべき軽自動車が、将来的には消滅してしまう可能性もあるかもしれない。
燃費の良さからグアムの大人気

そんな中、「ガラパゴス車」として独自の進化を続けてきた日本の軽自動車が今、手頃な価格で手に入るクオリティの高いコンパクトカーとしてグアムで絶賛されている。軽自動車のタンク容量は平均8ガロン(約30リットル)といわれており、1ガロンで40マイル(1リットルで17km)走行できる燃費の良さが最大の魅力となっているようだ。
米国の法規制により、グアム島外から輸入できる車両は「生産から満25年を過ぎているもの」という条件があるため、島内で走行する日本車のほとんどは、96年の9月以前に生産された軽トラックやミニワゴン(ワンボックスカー)だ。
独特なフォルムも人気の要因
グアムでは軽自動車愛好家によるソーシャルメディアグループがいくつも立ち上がっているほか、軽自動車の輸入や修理、顧客のニーズに合わせた改造を行なう業者も存在する。約3年前から軽自動車の輸入代理店Isla Imports(イスラ・インポーツ)を運営するゲイブ・ベーカー氏によると、「98年までに生産された規格変更前の日本の軽自動車は頑丈な造りで、かつ現在の自動車にはない独特なデザインが多い」という。
また、一般的なサイズのトラックが約2万5,000ドル(約190万円)するのに対し、軽自動車は6,000ドル(約77万円)と半額程度で購入できる点も人気の要因だ。
「骨董品」扱いで保険料は高額に…
しかし90年代に製造された日本の軽自動車にはシートバッグが装備されておらず、米国連邦車両安全基準(FMVSS)の適合外となるため、賠償責任保険以外の保険に入れない。いわゆる「骨董車」扱いとなり保険料も高額になるわけだ。また修理が必要になった際は、パーツの入手が難しいという問題点もある。
こうしたデメリットがあるものの、日本製の軽自動車の人気は冷めやらず、照会数は前月比の4割増(2022年3月時点)になっているそうだ。
日本国内で廃車に回っていたはずの軽自動車の多くが、JDM (Japanese domestic market)としてグアムをはじめとする異国の地に輸出され、 大切に使われている。また昨今のコロナ禍の影響を受け、日本でも、ハイゼット(ダイハツ)等の軽トラックやエブリイ(スズキ)等のミニワゴンが改めて人気を博していると聞く。コンパクトなボディで抜群に使い勝手の良い軽自動車は、日本が生んだ世界に誇るべき製品といってもいいだろう。

陣内 真佐子(じんない まさこ)
文筆家。1996年3月より家族と共にグアムに移住。グアム大学で3年半の学び直し生活を送った後、2000年にグリーンカード(米国永住権)を取得しグアム政府観光局などに勤務。10年に取得したグアム政府公認ガイドの知識を生かし、15年から国内最大手の旅行情報誌のグアム特派員としてブログ活動や各種雑誌やウェブ記事の執筆や翻訳を手掛けている。海外書き人クラブ会員。