世界最大級といわれるルブアルハリ砂漠をはじめ、国土の9割近くを砂漠が占めるアラブ首長国連邦(UAE)。野菜は実らないだろうから、農業とは無縁の地なのでは?と思うなかれ。実は首都アブダビやドバイの郊外にはいくつかの農場があり、きゅうりやトマトなどの農作物が育てられている。なかには中心部から車で1時間ほどの場所にある農業もあり、週末には一般の人々へ開放され、ファームツアーやワークショップも開催される。収穫体験や家畜への餌やりなどはファミリー層に人気だ。

食糧自給率の向上へ
食糧の90%近くを輸入に頼るUAE。大きすぎるこの食料輸入依存度を下げるため、近年、アグリテック企業への支援を加速させている。2018年に「食料安全保障のための国家戦略」を発表して以降、農業分野の拡大を支援するため4,100万ドルの助成金や5億4,500万ドル相当の奨励金を用意。特にオートメーション化、ロボット工学、温室栽培やバーティカル・アグリカルチャーといわれる垂直栽培へのアプローチなど、食糧自給率を上げるためのアグリテックのスタートアップ事業に数千万ドルを投資している。
投資家も熱視線
「観光」「ICT」「金融サービス」など、さまざまな成長産業で投資戦略を推し進めるUAEアブダビだが、「アグリテック」はその中でも特に注力している分野だ。少ない人材や資源で可能なバーティカル・アグリカルチャー(垂直農業)は、従来型の農法とは異なり、文字通り作付面積を上に「垂直に」伸ばしていくスタイルで、基本的に建物の屋内で栽培する。水耕栽培というとイメージがしやすいだろうか。水分使用量を従来農法の10%で生産できるフルーツや野菜を生産している。

実際、昨年Forbs社が発表した中東北アフリカ経済圏(MENA)で最も資金を集めたスタートアップ企業TOP50では、17年創業のUAEを拠点とするアグリテック・スマートファーム企業のPure Harvest Smart Farms社がその他のフィンテック企業などを抑え、総額3億8700万ドルの資金を集め22年のトップとなった。
輸入した作物を「地元」で生産
UAEアグリテック投資で注目されるバーティカル・アグリカルチャー。このスマート農法には、施設の建築など莫大な初期投資が必要だ。日光の代わりになるLEDライトや、受粉システムの整備など、従来農法よりコストがかかる。しかしこれまで食糧の9割を輸入に頼ってきたUAEにとって、天候に左右されず安定した生産ができるメリットは大きい。年間20日前後しか雨の日がないUAEの豊富な太陽光は勝算の一つでもある。太陽光をエネルギーに変換して収穫量増へつなげ、販売単価を安定させる。
輸入した作物を「地元」で生産することで、生産地と消費者の距離を縮め、さらにはCO2の削減にもつながる。農薬を減らし水やエネルギーの効率的な活用ができるのもこのエコシステムも魅力だ。前述のPure Harvest Smart Farms社では、従来農法と比較して、1平方メートル当たり約10倍から15倍の収穫量を達成しながら、水の使用量は1/10~1/7だという。


11月には「COP28」開催へ
今年2月、持続可能な農業への取り組みをさらに加速させるべく、アブダビに世界最大となる6000平方メートルの研究開発センターが開設された。世界的にも有名なアグリテックスタートアップ企業であるAeroFarms AgX研究開発センターは、ウォルマートやアマゾン傘下のホールフーズを含む米国の大手小売店でさまざまな野菜の販売を手掛けてきたAeroFarmsを母体とする。
同センターには、エンジニア、科学者、遺伝子組み替え作物、オートメーション、ロボットによる栽培研究を行う専門家を配置されている。また、食品の収穫量を増やし、農産物の栽培に必要な資源を削減することを目的としたロボット工学の開発研究にも力を入れ、砂漠や乾燥した気候の中での農業の問題解決を目指し、地元の企業や大学と提携して研究プロジェクトを行なう予定だ。
11月には地球温暖化を防ぐための枠組みを議論する国際会議・COP28がUAEで開かれる。開催ホスト国として、革新的で地球にやさしいサステナブルな農業を探究し、この分野での存在感を増していく狙いだ。


シュハリ マキコ
UAE在住ライター。海外での教育事業やリテールプロダクト関連ベンチャーを経て、現在はSDGs分野でのコンサルティング業にも従事。今ハマっているのは自家製みそや納豆作り。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。