公園、道路脇など、都市のあちこちでコンポスト(堆肥)ボックスが目につくようになった。公有地のボックスには普段は鍵がかかっているので、中身を見られないが、蓋を開ければ、生ごみと粉砕した乾燥植物片が入っている。数ヶ月置くと、堆肥として使える。

法律で生ゴミ削減を強化
コンポストが広まったのは、2024年1月1日に、家庭の生ごみ、飲食店や給食から出る残飯、園芸で出る有機ごみ(刈った芝生、伐採した枝など)の分別を義務づける法律が発効したからだ。資源の無駄をなくし、循環経済を確立するための「無駄防止法」の一部を成す法律である。フランス人は1年に254kgのごみを捨てており、その3分の1が生ごみだ。全国住宅情報局(ANIL)によれば、生ごみの8割は水分でできており、焼却には多くのエネルギーが必要だ。生ごみや園芸ごみなどの有機ごみを分別すれば、温室効果ガスを80万トン節約できるという。飲食店や給食から出る残飯は専用車で収集してメタン化し、市バスに使うガスなどに循環させているが、市民には家庭で出る生ごみのコンポスト化を推奨している。ごみの焼却量を減らすことは、自治体の経費節減にもつながっている。
必要物資は無料で供給
具体的にコンポスト事業を推進するのは、自治体と市民グループだ。筆者が住むパリ近郊セーヌ・サンドニ県のモントルイユ市では、県内東部の9市で構成する公的機関「エスト・アンサンブル(東・共同で)」がコンポスト事業を担い、希望する個人や集合住宅、企業に必要物資を供給する。台所に置いてコンポスト場まで生ごみを運べるフタ付き小バケツの他、一戸建てには家庭用コンポストボックスを、集合住宅や企業、団体には木製の大きなコンポストボックスを供給する。生ごみと一緒にボックスに入れる粉砕した乾燥植物片(枝、葉など)も、注文を受けて配送する。必要物資は全て無料で、管理は市民がボランティアで行う。

講習を受けて管理に臨む
一般的に行われているのは、ミミズと微生物の力を借りて有機物を分解する「ミミズコンポスト」だ。ミミズを導入する必要はなく、堆肥化する段階で自然にどこかからやって来る。ただ、上手に堆肥化するには知識が必要なので、パリを含むイル・ド・フランス地方の公的な廃棄物処理機関が無料で1日講座を開いている。マンションのコンポスト係の筆者も受講し、コンポストの仕組みと管理方法、情報の発信の仕方を学んだ。

地区住民の交流を促進
2024年秋、筆者の住む地区の公有地に、地区住民のためのコンポスト小屋ができた。週1回、決められた時間帯のみオープンし、その時は必ずボランティア2人が立ち会う。ボックスが満杯になると、別のボックスにコンポストを移して熟成させる。リーダーはおらず、名簿を共有するだけのゆるいグループで、コンポストのボックス移動などを共同で行う。そうした特別な日は飲み物やお菓子を持ち寄って、作業が終わった後、その場でちょっとしたパーティをする。そんな日でなくても、世間話をして長居したりと和気藹々の雰囲気で、コンポストを持ち寄るのが、寄り合う口実になっているのではないかと思えるほどだ。コンポストは市民の交流を深める手助けにもなっている。

コンポスト場でパーティ
2025年4月、モントルイユ市の公園にあるコンポスト場が開設15周年記念のパーティを催した。コンポストという言葉すら知られていない時代に、イル・ド・フランス地方に初めてできた地区住民のためのコンポスト場だった。始めた当時は4~5人だったが、今では毎回60~70人が参加する。主催者は来た人々にパネルでコンポストを説明し、他の地区の実践者たちと交流し、手作りのケーキや軽食を振る舞った。音楽隊の演奏後、市長が週末のラフな装いで訪れて祝辞を述べ、このコンポスト場を作った人々を「パイオニア中のパイオニア」と褒め称えた。こうしたイベントは市民を惹きつけ、「コンポストは楽しい」という印象を与える。エコロジー意識が高まる中で、コンポスト人口は増え続けるだろう。


在仏35年のライター。居住するマンションの管理組合の理事で、緑地とコンポストを担当する。地区のコンポストにも参加。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員