筆者が住んでいるシンガポールでは、政府により風水が都市計画に取り入れられています。意外と知られていない側面として「風水都市」という性格を持つシンガポールは、東京23区より約1割大きい程度のコンパクトな国土でありながら、経済的に大きく発展した国でもあります。その成功の秘密には、風水が関係しているかも?そのように想像してしまうほど、街の中に風水が溶け込んでいるのです。シンガポールの都市計画を通じて風水が持つ意味を知れば、私たちの身近な生活にも生かせるのではないでしょうか?
成長する街は「気」をデザインしている
シンガポールは多民族国家として知られています。ですが、実際には人口の74%が中華系、マレー系が14%、インド系が9%という構成です。そして、その数字を反映するように経済や政策に影響を強くもたらすのも中華系の人々。彼らが主導権を持って造られた街ですから、いたるところに風水が施してあるというわけです。ですが、表向きには多民族国家と言っているため、香港や上海が風水都市として知られているのに比べ、シンガポールは風水都市としてほとんど認識されておりません。
2010年代、マリーナベイ・サンズの完成をきっかけに、シンガポールは世界から注目を集めました。この時期以降の都市開発では、建物単体のデザインだけでなく、街全体の配置・高さ・水の扱い方が極めて重視されています。シンガポールでは施主や投資家の要望により、設計の初期段階から風水コンサルタントが入るケースも珍しくないといいます。風水は「後付けの演出」ではなく、建築計画そのものに組み込まれているのです。
不動産価値を左右する「数字」の力
シンガポールにおいて最強の吉数は28です。2は両(りゃん)とも呼びます。両は文字通り「つがい」の意味で増え続けると言う意味です。8は日本でも八は末広がりで吉数ですが、中華文化圏においても八は音が「発」の音とも同じ事もあり「万物が生まれる」と言う意味になり最も尊い数字です。この二つの組み合わせがシンガポールにおいては最強の吉数と考えられております。この28を応用した建築はたくさんあります。まずは高さです。シンガポールで最も高い建物は長いこと、ワンラッフルズ(丹下健三設計)、レパブリックプラザ(黒川紀章設計)、UOBプラザ(丹下健三設計)でした。どれも日本人の設計ですが、建物の高さは280メートルで揃っています。
そのためシンガポールでは、
・建物の階数
・ユニット番号
・重要なフロアの配置
などに「28」を意識的に取り入れるケースがあり、実際の建築設計にも反映されているのです。単に「8が良い」というレベルではなく、「人の縁×経済的成功」を同時に意味する数字として28が扱われているのです。
合理性やプロポーションを考えると風水的な要素を入れることで破綻する場合もあるので、そこは設計上の駆け引きが必要です。特に吉数と水に関する要素は重要になります。吉数のある階、8の付く階と9の付く階は景観が多少損なわれても面積が広い部屋を設けることが多々あります。
28を用いた代表的な作品は、マリーナ地区にあるシンガポール・フライヤー(黒川紀章設計)という世界で二番目に大きい観覧車です。2008年に開業し、28個のポッドがあり、それぞれに28名乗れます。しかし、完成年がリーマンショックと重なっており、吉数どころかシンガポールは塗炭の苦しみを味わいます。風水師がこの観覧車を診断したところ、観覧車が回転する方向が「外向き」だったのでマリーナ地区に溜まっていた富が外に流れ出したと言われました。至急、回転方向を「内向き」に変更すると、途端にシンガポール経済は回復したというエピソードがあります。
シンガポール人の数字へのこだわりについてもう一つ。筆者が携帯を購入した時に末尾「90」を選んだところ、店員から「本当にその数字でいいのか」と止められました。9→0は、運気が急降下する数字だというのです。「末尾28の番号が使える。それで決めるか」と、訊かれ、その通りにしました。今も、末尾28の番号を使っていますが、シンガポールの経済発展の様子を見ていると強運の番号を味方につけるのも「アリ」ではないかと思えてきます。
栗尾モカ(くりお もか)
東京・シンガポールを拠点に活動するライター。JETRO発行「Singapore Style」執筆。現地居住経験をもとに、建築・都市計画・食文化を中心に取材。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「 海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito. com/)会員。
