記者の目 / 開発・分譲

2005/5/20

蘇った「同潤会のコミュニティ」

旭化成ホームズ(株)「アトラス江戸川アパートメント」が完成

 (財)同潤会の「江戸川アパートメント」建て替え事業として進められてきた旭化成ホームズ(株)「アトラス江戸川アパートメント」が完成。6月1日の入居を前に、報道陣に公開された。「東洋一」と謳われた同マンションの建築構成や、コミュニティへの考え方を最大限踏襲し、現代最高水準の建築物として蘇らせている。「21世紀の集合住宅のモデルにしたかった」という開発担当者の想いが、建物の至る所に感じられる“逸品”だ。

コートハウスは、メゾネットタイプ7戸で構成される戸建の集合形式を提案
コートハウスは、メゾネットタイプ7戸で構成される戸建の集合形式を提案
旧同潤会で使用されていた六角面格子を各棟階段室のモチーフとして転用再生。アールデコ・スタイルを演出
旧同潤会で使用されていた六角面格子を各棟階段室のモチーフとして転用再生。アールデコ・スタイルを演出
陶芸用の電気炉を装備するアトリエに、旧同潤会を象徴する共用部分の階段と手摺を一部再生。階段を上がり切ると、同じく転用再生されたステンドグラス丸窓が目にとまる(写真右上)
陶芸用の電気炉を装備するアトリエに、旧同潤会を象徴する共用部分の階段と手摺を一部再生。階段を上がり切ると、同じく転用再生されたステンドグラス丸窓が目にとまる(写真右上)
敷地内樹木は4千本。右側の枝垂れ桜は、桜守である佐野藤右衛門氏16代目をつとめる京都の「植藤造園」に依頼したもの
敷地内樹木は4千本。右側の枝垂れ桜は、桜守である佐野藤右衛門氏16代目をつとめる京都の「植藤造園」に依頼したもの
各住戸のキッチンや浴室の水栓はデンマークのダミクサ社製、ドイツのグローエ社製
各住戸のキッチンや浴室の水栓はデンマークのダミクサ社製、ドイツのグローエ社製

 「同潤会アパート」は、関東大震災による住宅不足を解消するために作られた、わが国の近代集合住宅の始祖ともいえる建物で、都内16ヵ所に建設された。「江戸川アパートメント」はその集大成として1934年に建てられた最後の同潤会アパート。総戸数は260戸。家族向け住戸と独身者向け住戸が用意され、居住者はバラエティに富んでいた。ラジオ・電話、エレベータやセントラルヒーティング、浴室などを装備。西洋式庭園や社交室などが備わったモダンな建物は「東洋一のアパート」と呼ばれ、著名な第一級文化人によるコミュニティがあったといわれている。
 老朽化が進んだ同潤会アパートは、昭和40年代から建て替えや取り壊し問題が持ち上がり、代官山アパートメントは超高層マンション「代官山アドレス」となり、青山アパートメントは森ビルと安藤忠雄により、新しい姿に蘇ろうとしている。江戸川アパートも、昭和47年から建て替え事業が検討されてきたが、その度に立ち消えになっていた。
 旭化成が同マンションの建て替え事業に参画したのは2001年。市街地再開発等の実績を積んできた同社は、それまでの事業者がなぜ失敗してきたかを正確に分析した。
 「彼らは組合の役員としか話をしてこなかった。地権者1人1人とのコミュニケーションを怠った」(同社都市開発部長・関根定利氏)。地権者230名全員と話し合い、時間をかけて合意形成を図った。2002年、旧区分所有法での建て替え決議がなされ、翌2003年から解体・着工された。
 「ただ単に、地権者に権利分の床面積を還元するという考えではなく、この建物が持っていた素晴らしいコミュニティを何とか引き継がせたかった。そのため、採算など度外視している」(関根氏)。
 建物は、敷地を取り囲むように6棟配置。容積確保のため高密化しているため、東西方向に雁行し角部屋を増やしている。東側には単身・小家族向けの低層住戸のアネックス棟、斜線制限のある北側にはスキップフロア・2.5層構造のコートハウスを配置している。各棟の1階部分は3ヵ所以上の通り抜け空間を設け、風の通り道としている。南棟とアネックス棟はブリッジ等で結ばれ、7階レベルで、屋上庭園を中心とした遊歩道となっている。
 外壁タイルは、縄目模様の入ったレンガ調。大谷石、カリン材といった天然素材が、いたる所に採用されている。社交室や応接室、アトリエ、階段室には、旧江戸川アパートメントに用いられていたステンドグラス、階段手すり、家具、面格子が移設され、人工とぎ石の床・蹴込などは「施工の竹中工務店に、わざわざ職人を探してもらい」(関根氏)当時のものを再現。敷地内は、既存樹も含めた大小4,000本の木々に彩られている。その風格は、竣工したてのマンションとは、一線を画すものだ。
 住戸数は233戸で、地権者分を除いた105戸が販売された。プランは57タイプ。専有面積30~107平方メートルと、単身者からDINKS、ファミリー向けまで幅広い住戸を設けた。
 4戸・5戸で階段・エレベータを共有することで、エレベータホールでのコミュニティ形成を意識。住戸は、ワイドスパンを基本とし、開口部を数多く設けた。フローリングは幅広のカリン材。住戸扉や建具は、全て突き板仕様。東・北側住戸は、採光面を床からガラスブロックにするなど配慮したほか、天井高3.2mを確保し立体的なゆとりをもたせている。アトリエでの陶芸教室開催など「従前の居住者と新しい居住者とのコミュニケーション支援をしばらくの間続けていく」(関根氏)という。価格は、2,200万円から8,300万円。平均坪単価は258万円。内容を考えれば、割安感さえ感じる。
 最後は、このマンションの素晴らしさを証明するエピソードで締めくくりたい。旭化成はマンションの供給戸数が少なく、その販売力はお世辞にも強くない。このマンションも昨夏から販売を開始したが、これだけの内容を持ちながらつい最近まで30戸も売れ残っていた。ところが、竣工間近となり全体像が見え出した途端、瞬く間に25戸が売れていったという。「百聞は一見にしかず」--このマンションには、言葉だけでは伝えきれない何かがあるということだ。(J)

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