記者の目

2005/8/29

ついに開業「つくばエクスプレス」

沿線に眠る不動産需要どこまで掘り起こせるか

 2005年8月24日、つくばエクスプレス(TX)が開業した。「常磐新線」として計画されてから20年。都心直結としてはおそらく最後で最大の新線だ。首都圏北東部の鉄道空白地帯を貫き、秋葉原-つくば約60kmをわずか45分で結ぶTX。その「スピード」が生み出す経済効果はもとより、沿線一帯で進む20もの土地区画整理事業と、その周辺部まで含めた、計画人口10万人に対する不動産需要にも強い期待がかけられている。  早速、秋葉原からつくばまで試乗し、鉄道施設と沿線の街並みを眺めてきた。

2005年8月24日に開通した「TX」は、秋葉原-つくば約60kmをわずか45分で結ぶ
2005年8月24日に開通した「TX」は、秋葉原-つくば約60kmをわずか45分で結ぶ
TXの都内始発駅「秋葉原」駅周辺では、大規模ビルが相次いで供給され、高稼動している
TXの都内始発駅「秋葉原」駅周辺では、大規模ビルが相次いで供給され、高稼動している
広々とした「秋葉原」駅コンコース(上)。TXは完全バリアフリー。ホームと電車の段差もほとんどなく、フラット(下)
広々とした「秋葉原」駅コンコース(上)。TXは完全バリアフリー。ホームと電車の段差もほとんどなく、フラット(下)
サラリーマンで混み合う車内(上)。「つくば」駅改札でもサラリーマンの姿が多くみられた(下)
サラリーマンで混み合う車内(上)。「つくば」駅改札でもサラリーマンの姿が多くみられた(下)
「万博記念公園前」駅(上)。東武線でも新駅を設置した「流山おおたかの森」駅(下)
「万博記念公園前」駅(上)。東武線でも新駅を設置した「流山おおたかの森」駅(下)
「つくば」駅前では新築マンション建設ラッシュ(上)。区画整理の開発はまだまだ続く(下)
「つくば」駅前では新築マンション建設ラッシュ(上)。区画整理の開発はまだまだ続く(下)

●「快適」「快速」45分の小旅行

 TXの都心ターミナルは「秋葉原」。再開発により誕生したビル群の一角に、JRと共用の駅前広場が設けられている。地下4階のホームまでは、JR各線からだと5分はかかるが、コンコースやホームはゆったりとした造りで、朝のラッシュ時でもそれほど苦痛は感じないだろう。
 駅周辺まで含めた施設は完全バリアフリー。ホームと電車の段差もほとんどない。ワンマン・高速運転の安全性を確保するためホームドアがあり、電車の発着に合わせ開閉される。電車は、20m・4ドアの6両編成。車両限界一杯に幅が取られており、快適。快速系に使用される編成は、中間車両がクロスシートとなっており、さらに快適だ。
 ダイアは、朝のラッシュ時がほぼ5分おき、昼間が7分おき。昼間は30分の間に、「守谷」止まりの普通が2本、秋葉原-守谷間快速の区間快速が1本、つくばまで45分の快速が1本。守谷以遠は15分ヘッド(快速の止まらない駅は30分ヘッド)と、首都圏の鉄道に乗り慣れているとイライラするかもしれないが、ライバルの高速バスの本数を考えれば充分かもしれない。

 記者が試乗したのは、台風近づく25日の昼。開業直後ということもあり、やはり「鉄道ファン」が多かったが、スーツ姿のサラリーマンが予想以上に多く驚いた。ひとしきり構内を見学した後、最速の「快速」に乗り込んだ。北千住までの都心部は、すべての電車が各駅に停車していく。
 速い。それにしても「速い」。地下区間でさえ、普通に時速100km近いスピードを出す。だが、そんなスピードを出しているにもかかわらず、つり革につかまっていれば立っていてもほとんど揺れを感じないのにはびっくりした。ちなみに、TXは地下走行中も携帯電話・メールが受信可能だ。無線LANも利用できるようになるらしい。

 地上に出て北千住に到着。さらに多くのサラリーマンが乗ってきた。座席は、ほぼ満席となり出発。ここからが、「快速」の本領発揮だ。するすると加速し、フルスピード(時速130km)のまま走り続ける。駅前で大型マンション建設が進む「八潮」、「三郷中央」もあっという間に視界から消えた。
 ほぼ中間に位置する「流山おおたかの森」まで、わずか25分。東武野田線と交差し、野田線も新駅を開業させた。先行の普通電車を追い抜く。このあたりから、沿線風景から住宅が少なくなってきた。快調に飛ばしながら守谷に到着。半数の電車は、ここで折り返していく。関東鉄道と交差するからか、3分の1くらいのお客さんが降りていった。区画整理が先行していた街で、結構な数の戸建住宅が立ち並ぶ。TX開業を受け、ちょっとした土地バブルが起きており、区画整理地も売れ行きがいいと、地元業者は言う。

 守谷からつくばまではノンストップだ。ここまでくると、沿線からは建物が消え、田んぼばかりの風景となる。電車は高架や掘割区間を淡々と飛ばし、地下に潜ったと思ったら、もう終点のつくば駅に到着。45分という時間はほとんど感じさせない快適さだった。降りるお客さんの半数以上がサラリーマン。「通勤新線」の面目躍如といったところだろう。駅に隣接したショッピングセンターも、平日とは思えない賑わいだった。

●沿線開発にも求められるスピード

 帰りは、主だった駅に途中下車しながら、駅周辺の開発状況を見ていくことにした。TXは、いわゆる「宅鉄法」に基づいて用地取得を進めて行った。「宅鉄法」は、区画整理により鉄道用地を生み出し、同時に沿線の街づくりを進めるための法律。だから、TX沿線には大小20もの土地区画整理事業が進んでいる。
 結論から言えば、どの駅も、駅前の最低限のインフラ整備が終わっているだけで、あとは広大な空き地が広がっているというのが正直なところだった。一応、街としての形ができているのは守谷くらい。とくに、守谷以遠の区画整理地は、全く手付かずの感を強い。よほど特色のある街づくりをして、安価な住宅を早期に供給できなければ、都心部の利便性のいいマンションやミニ戸建てに太刀打ちできないだろうと思った。

 地価が右肩上がりの時代なら、土地区画整理事業はいくら時間をかけてもいい。だが、今は違う。時間がかかればかかるほど、地価は下がり事業費を捻出するのが困難になってくる。エリアの核となる区画整理事業が失敗すれば、その周囲の宅地開発も引きずられてしまうだろう。万が一頓挫すれば、目も当てられない。TXの事業収支にも影響してくる。施行者の都市機構や自治体は、民間活力を積極的に導入するなどして、スピード感ある事業推進をしていかねばなるまい。

 もちろん、ポテンシャルの高そうなエリアもたくさんある。秋葉原とつくばは別格としても、街並みが整っている「守谷」、三井不動産主導で開発が進む「柏の葉キャンパス」、新たな交通の要衝となった「流山おおたかの森」、駅前で大規模マンション・ショッピングセンターを核にした整備が進む「三郷中央」や「八潮」、大規模再開発が進む「南千住」などは数年後にはがらりと変わった街並みになっているに違いない。

 鉄道に限っていえば、やはり運賃の高さが気になる。秋葉原-つくばの1,100円、秋葉原-守谷の700円あたりは妥当だと思うが、秋葉原-八潮の450円や秋葉原-三郷中央の500円は明らかに高い。それまでのバス便時代と比べれば安いというのだろうが、定期券を持たない主婦や学生が都心を頻繁に往復するには結構な負担となるはずだ。
 ただ、その速さだけは文句無く魅力的だ。TXの速達性は、交差するJR武蔵野線や東武野田線、関東鉄道、そしてJR常磐線沿線にも波及効果をもたらす。今後、こうしたエリアの不動産市場が一気に活気付くに違いない。TXの「速さ」と沿線開発の「早さ」がリンクしたとき、TXは相乗以上のポテンシャルを発揮するだろう。(J)

※おことわり 取材当日が荒天だったため、文中写真は一部開業前のものも使っています。

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