記者の目

2005/10/27

日管協「中国賃貸住宅管理視察研修会」レポート(前編)

勢い衰えぬ「上海不動産バブル」

 (財)日本賃貸住宅管理協会は、10月18日から21日の4日間にわたり、「中国(上海)賃貸住宅管理視察研修会」を実施。記者も参加させていただいた。  今回の視察では、21世紀の中国躍進の原動力となっている上海の不動産市場、とくに投資家や富裕層、海外駐在員向けの「サービスアパートメント」を中心とした賃貸管理市場に着目。一行は現地不動産仲介会社の訪問や、物件視察などを精力的に行なった。市場経済導入以後の不動産価格の高騰ぶりに、中国政府も慌ててようやく抑制策を打ち出したが、5年後の万博開催を前にした上海では、不動産バブルの勢いは一向に衰えを見せない。「バブル崩壊」を危ぶむ声も、街中の至る所から聞こえてくるクレーンの騒音にかき消されているようだ。

上海では、分譲マンションの多くがサービスアパートメントとして賃貸されている
上海では、分譲マンションの多くがサービスアパートメントとして賃貸されている
上海の勢いを象徴する「リニアモーターカー」。最高速度はなんと、飛行機の離陸速度とほぼ同じ時速430km
上海の勢いを象徴する「リニアモーターカー」。最高速度はなんと、飛行機の離陸速度とほぼ同じ時速430km
高層マンションが林立する上海
高層マンションが林立する上海
上海市中心部では高級分譲マンションが多数建築されている
上海市中心部では高級分譲マンションが多数建築されている
視察団が訪問した日系不動産会社「ベターハウス上海」の奥村尚樹社長
視察団が訪問した日系不動産会社「ベターハウス上海」の奥村尚樹社長
「中国(上海)賃貸住宅管理視察研修会」視察団一行
「中国(上海)賃貸住宅管理視察研修会」視察団一行

「勢い」の象徴、リニアモーターカー

 上海の「勢い」は、浦東空港を降り立った瞬間にわかった。1999年開設の新しい空港だが、決して狭くはない入国手続きブースが、中国人はともかく、日本人や欧米人で溢れかえっていた。記者は以前北京にも行ったことがあるが、北京は中国人がほとんど。上海の雰囲気は、むしろ「香港」に近い。
 街に出れば、人と自転車、車の大洪水。中国では都市交通のルールがいまだにあいまいで、基本的に自動車が一番偉い。クラクションを鳴らしながら、人ごみをかき分け走っている。上海VWや広州ホンダといった現地資本との合弁自動車メーカーにより、自動車はリーズナブルになった(日本円で100万円から300万円)が、自動車があまりにも増え過ぎ、政府がナンバー交付を制限している。そのため、ナンバープレートが「競売」されているというから驚きだ。

 視察団が注目する不動産も、いまや上海全土が高層建物に包み込まれるのではないかと思えるほど、マンションやオフィスの高層化と増殖が進んでいる。景観保全として政府から保護されている一部のエリアを除き、古くからあるレンガ造りの低層住宅は一夜にして更地と化し、次々に高層マンションが建築されている。その流れは上海中心部にとどまらず、どんどん郊外へと広がっている。

 話は横道にそれてしまうが、上海の「勢い」の最も象徴的なものとして、「リニアモーターカー」を紹介したい。浦東空港から上海市郊外の龍陽路までの30kmを、わずか7分で結び、その最高速度は時速430km(飛行機の離陸速度並み!)。視察団も試乗したが、その異次元の速さに声も出なかった人がほとんど。横揺れが激しいことや、その加速のため後向き乗車で気分が悪くなるなど、まだまだ未成熟のリニアだが、「勢い」だけで近未来の乗り物を実用化してしまうのが、いまの上海の持つ底なしのエネルギーといえる。

住宅価格の高騰で政府が抑制策

 では、上海不動産市場の現況を、視察団が訪問した日系不動産会社「ベターハウス上海」(奥村尚樹社長)のレクチャー、データ等をもとに解説したい。
 結論から言えば、上海中心部の住宅価格は、2003年から05年の3年弱で、ほぼ倍に跳ね上がった。売れ筋の専有面積100平方メートルの2LDKでいえば、発売当時2,000万円程度のものが、3,000万円~4,000万円で売買されているというわけだ。日本で言うなら六本木ヒルズに相当する「新天地」エリアでは、1年間で価格が倍になるケースもあったという。
 不動産投資に係る規制がほとんどなく、世界のあらゆる国からマネーが流れ込み、「契約書」の転売で価格がどんどん上がっていく。人件費や建築費も安かったため、ディベロッパーは我先にと高層マンションを建築し続けた。需要も旺盛で、モデルルームに希望者が徹夜で並ぶ光景も珍しくなかったという。

 だが、あまりに性急な価格上昇により投資利回りは低下、マーケットを無視した大量供給も、放置すれば需給バランスの崩壊から売れ行き低下、価格下落の悪循環が目に見えている。そこで中国政府は今年、主要都市に対して不動産価格を抑制し、市場をソフトランディングさせるべく動き出した。
 まず、1人でいくつもの融資が受けられた住宅ローンについて、1人2本までの規制を設けた。次に、これまで認められていた「契約書売買」が禁止された。そして、キャピタルゲイン課税復活などの不動産新政策を打ち出した。
 今年6月から、外国人個人が「非普通住宅」(いわゆる投資用の豪勢なコンドミニアム)を売却する場合、購入後2年未満であれば売却価格の5%、2年以上であれば売却益の5%が「営業税」として課せられる。ただし、不動産取得税は上海では依然免税だ(税制は都市ごとに違う。北京や広州は課税される)。

2000年以来はじめての価格下落

 この新政策の影響で、上海の不動産市場はやや落ち着きを取り戻した。上海の新築価格は、キャピタルゲイン課税が復活した今年3月から下がり始め、8月には年初価格を6ポイント以上割り込んだ。03年は33%、04年も17%と急激な価格上昇を続けてきた住宅価格が、2000年以来初めて調整局面に入ったのだ。
 中古価格も同様で、昨年1年間で約20%上昇した価格は、今年6月から前月比を割り込み、前年比30%上昇ラインで安定している。今年第2四半期でみると、新規供給面積は前期比15.8%と依然増加しているが、成約面積は48.4%ダウン、成約率も15ポイント近く下落し63%となっている。
 ただ、新政策により不動産市場がただちに縮小に向かうとは思われていないようだ。奥村社長もこう話す。「この秋がターニングポイント。例年秋口から旧正月にかけて不動産需要が活性化します。ディベロッパーも、それに合わせて販売活動を活発化します。新政策の影響はありますが、05年も9~10%程度の価格上昇にはなるでしょう」。

 投資マネーの市場注入による大量供給と価格の上昇、それを押さえ込むための融資規制と課税強化--。上海不動産市場を取り巻くこれまでの流れは、まるで日本のバブル時代と同じだ。上海市当局やディベロッパーも、日本の二の舞だけは避けたいと考えているようだ。依然上海では5年後の万国博覧会を睨んで高層オフィスや巨大マンション群の建設ラッシュが続いている。需要も堅調で、サービスアパートメントとして転貸しても、外国人駐在員や富裕層といったテナントニーズは旺盛だ。しかし、価格の上がりすぎた上海から資金を引き上げ、北京や広州に投資マネーが移す投資家も増えてきているようで、その行方は予断を許さない。(J)
(後編につづく)

後編を見る>>

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年5月号
住宅確保要配慮者を支援しつつオーナーにも配慮するには?
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/4/5

「月刊不動産流通2024年5月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年5月号」の発売を開始しました。

さまざまな事情を抱える人々が、安定的な生活を送るために、不動産事業者ができることとはなんでしょうか?今回の特集「『賃貸仲介・管理業の未来』Part 7 住宅弱者を支える 」では、部屋探しのみならず、日々の暮らしの支援まで取り組む事業者を紹介します。