記者の目 / 開発・分譲

2005/12/16

常識を捨て、考えて住む家

三鷹天命反転住宅~In Memory of Helen Keller~

 岐阜県養老郡養老町にある「養老天命反転地」をご存知だろうか? 県営の養老公園内にあるテーマパークで、広さ1万8,000平方メートルの敷地を持ち、高低差が25m、しかもすべて斜面で構成され「平らなところのない」不思議な空間だ。この養老天命反転地を手がけた現代芸術家の荒川修作氏とパートナーのマドリン・ギンズ氏(以下、荒川+ギンズ氏)が制作した分譲集合住宅が、東京都三鷹に誕生した。  この“芸術作品”とも言える住宅についてレポートする。

三鷹天命反転住宅外観
三鷹天命反転住宅外観
玄関を入ると、「囲炉裏」的なリビングがあり、その中央にキッチンがある
玄関を入ると、「囲炉裏」的なリビングがあり、その中央にキッチンがある
床には凹凸があり、傾斜もつけられている
床には凹凸があり、傾斜もつけられている
家具を置くスペースの代わりに天井には大量のフックが。「キッチンの上に野菜を吊すというのもあるでしょう」(松田氏)
家具を置くスペースの代わりに天井には大量のフックが。「キッチンの上に野菜を吊すというのもあるでしょう」(松田氏)
円球状の部屋。中で声を発すると共鳴してとても不思議な感覚だ
円球状の部屋。中で声を発すると共鳴してとても不思議な感覚だ
インターフォンは、カメラも斜めにしているため、映る画像は垂直である
インターフォンは、カメラも斜めにしているため、映る画像は垂直である

●その名は「三鷹天命反転住宅」

 その話題の住宅は「三鷹天命反転住宅~In Memory of Helen Keller」。「ヘレンケラーが身体を使い、自然と環境・人間の関係を知ったように、あなたの身体のもつ大いなる希望を見つけ、生命の無限の力を体験できる、まったく新しい住宅であり、命の器」(パンフレットより)というこの物件は、JR中央線「三鷹」駅・「武蔵境」駅からバスで10~15分程度の立地にある。東八道路という幹線道路沿いに建つその外観は、レゴブロックを組み立てたよう、と言うのだろうか、子供の頃に遊んだジャングルジムを彷彿させると言ったらいいのだろうか…とにかく今までの「住宅」という概念を吹き飛ばす建物である。
 外観ですでに衝撃を受けた記者であるが、専有部分に入ってさらにびっくり。玄関を入ると台所が中央に鎮座、そこを取り囲むように部屋が配置されていて、さらに床には山道のような凹凸がある上に、傾斜がつけられているのである!

 売り主である(株)ABRFの松田剛佳氏が「この家づくりは、常識から解放されることをコンセプトのひとつとしてスタートしました。荒川+ギンズ氏は頭で考えるのではなく、体感できる家を造ろう、ということを強調していますので、作り手であるわれわれも、これまで蓄えた常識から己を放ち、取り組みました」と語るとおり、まさに“常識”から解き放たれた住まいである。

 前述のとおり、モルタル混合の床は凹凸がある上に傾斜がつけられ、中央部にはキッチンは丸くレイアウトされている。
 住まいの中央にあるキッチン・ダイニングから放射線状に配置されている居室部分は、4畳半程度の部屋(2LDKの部屋では1つ、3LDKの部屋では2つ)、そして円形の部屋がついているのである。円形の部屋は、天井も、そして床も当然丸い。
 
●昔の「土間コミュニティ」を復活させる

 「日本の長屋スタイルがコンセプトの1つになっている」と松田氏。その心は「入居者のコミュニケーション」。
 今の日本の共同住宅は、『隣は何をする人ぞ』である。「以前の長屋では気軽にお互いの家を行き来し、お茶を飲み、話をし、醤油がなくなれば貸し借りするようなコミュニケーションがあった。そんなコミュニケーションが生まれる家にしたいという思いを荒川+ギンズ氏は強く抱いている」(松田氏)。
 そんな思いが具現化され、玄関ドアは二重ロック付きだがほぼ全面磨りガラスが張り込んであり、在宅・不在を外からうかがうことができる。
 また入ってすぐの部屋中央にあるキッチンには、それを囲むように天板が据え付けられ、調理スペースとしてだけでなく、囲んでくつろぐことで、昔あった“囲炉裏”で行われていた交流を図れるようにしてある。

●頭を使い、身体を使って暮らす家

 凹凸床、球形床があるためタンスなどは置けない。そんな「住むには家具が必要」という常識から解き放つべく、天井にはたくさんのフックが。「袋をつるしてそこに収納していただく、もしくはハンモックをつるして眠る、オブジェをぶらさげる…。考えて各人各様に使っていただきたいというのがこの住まい」(松田氏)。
 この家では、常識に縛られているとびっくりするものが他にもたくさんある。例えばコンセントやスイッチ。ほぼきまった位置にあるのが“常識”だが、この物件では床付近にあったり、天井近くにあったりする。インターホンの応答口は斜めに配置されており、シャワーブース、そしてその奥にあるトイレにはドアがない…。「ここでどのように生活するのか、それを考え、身体を動かして生活していただくのがここの住まいの醍醐味なのです」(松田氏)。
 
●天命反転とは?

 荒川+ギンズ氏の思想を端的に述べると、「人は死にゆく運命・天命にある。しかしそのある種の諦観が社会に希望を生み出しにくくしている。その天命を反転させよう、つまり死なない、死なないようにできるかもしれない、という思いで生活することが、人に、社会に活力を生み出す」というものがある。それを具現化したのが今回の住宅なのである。そのため、この物件には「使用法」が定められている。一部を紹介したい(以下、使用法一部抜粋)。

■入る前には、必ずノックし、それからあらゆる方向からくる音に耳を傾けましょう。
■2~3歳の子どもか、100歳の老人かのように、この住戸に入ってみましょう。
■床を構成する小山の1つ1つを、ピアノの鍵盤、オルガンの鍵盤、木琴、あるいは小さな太鼓と見なしましょう。
■すべての部屋を、死なないための方法を学びたがっている、親しくしている親戚のように、あるいは親友のように扱いましょう。

 頭と身体を使い、活性化させる家、「死なない」家。購入を検討されてみてはいかがでしょう?
 概要は、敷地面積452.56平方メートル、建築面積230.61平方メートル、延べ床面積761.46平方メートル。壁式プレキャストコンクリート造、鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造、間取りは2LDK、3LDK、専有面積は52.38平方メートル~60.65平方メートルで、全9戸からなる。設計は安井建築設計事務所、施工は竹中工務店。価格は約8,900万円~9,990万円(消費税込み)だ。
 販売を担当する栄大建設(株)の稲岡勝次郎代表取締役は、「この価格を“常識に”捕らわれて高いと感じるか、芸術作品としての価値も鑑み安いと感じるか。また“常識に”捕らわれて住みづらいと感じるか、自分で考えるように住めることを面白いと感じるか。購入希望者の考え、思いによってこの物件の捉え方は違うでしょう。本当にこの物件を望む方に購入していただきたいと思います」とおっしゃっていた。

 ご興味のある方、「是非購入を検討したい」という方は、栄大建設(株)(TEL 0422-49-0771)まで。(NO)

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2024/3/7

「海外トピックス」を更新しました。

飲食店の食べ残しがSC内の工場で肥料に!【マレーシア】」配信しました。

マレーシアの、持続可能な未来に向けた取り組みを紹介。同国では、新しくビルを建設したり、土地開発をする際には環境に配慮した建築計画が求められます。一方で、既存のショッピングセンターの中でも、太陽光発電やリサイクルセンターを設置し食品ロスの削減や肥料の再生などに注力する取り組みが見られます。今回は、「ワンウタマショッピングセンター」の例を見ていきましょう。