記者の目 / 開発・分譲

2005/12/26

「震災に立ち向かう」マンション

発生時と発生後に対応したナイス「パークフロンテージ港南台」

 首都圏でも間違いなく発生すると言われている「大地震」。そうした背景から、ユーザーの、耐震性に対するニーズはことさら強い。さらに、例の「耐震偽装問題」で、消費者の目はますます厳しくなっている。そうしたなか、住宅の安全性により力を注いでいく方針を打ち出したのが、ナイス(株)。「地震が起きても倒れない」という「耐震」ではなく、今後は「建物としての資産価値が保全され、災害から家族を守る」という「対震」をテーマにしたマンション作りにシフト。そのコンセプトが導入された首都圏初の「震災対応型マンション」、「パークフロンテージ港南台」(セントラル総合開発とのJV、発売は2006年1月)を見学してきた。

「パークフロンテージ港南台」完成予想図
「パークフロンテージ港南台」完成予想図
同物件モデルルーム。ワイドスパンにハイサッシュが組み合わされ、開放感がある
同物件モデルルーム。ワイドスパンにハイサッシュが組み合わされ、開放感がある
今回の免震装置に採用される「回転機付きすべり支承」
今回の免震装置に採用される「回転機付きすべり支承」
雨水利用システム。フィルターを使ってろ過するので、生活用水として使える
雨水利用システム。フィルターを使ってろ過するので、生活用水として使える
非常用マンホールトイレや非常用コンセントも完備される
非常用マンホールトイレや非常用コンセントも完備される

新潟中越地震から学んだ「対震」の必要性

 同社が、震災対応型マンションにシフトしたのは、2004年発生した「新潟中越地震」後の新潟を、平田恒一郎社長が視察したことがきっかけだ。
 地震に見舞われた地域のマンションは、倒壊することなく建っていた。しかし、それらマンションの住民は、みな避難生活をおくっていた。倒壊こそ免れたものの、ライフラインが寸断され室内の安全性が保証できない「構造物」と化したマンションは、すでに「住まい」ではなく、その資産価値も失われていた。
 もともと同社は、旧対震の一戸建て住宅の建て替えに力を入れ、免震マンションの供給にも実績があるが、平田社長の視察を機に、「震災対応」の考え方を、さらに一歩進めることとした。
 まず、マンションについては、今秋以降計画・建築確認申請する物件はすべて「免震」「強耐震(建築基準法に定める耐震力の1.25倍以上の強度)」を標準採用とすることを決定。一戸建て住宅は、集成材と建築接合金物により「パワービルド工法」を採用するなど、まず「地震に強い」ことを大前提とした。
 その上で、マンションについては単に倒壊しないというだけでなく、地震発生後も「家族を守り」「資産価値も守られる」という独自の「対震」という視点に立った「震災対応型マンション」というコンセプトを打ち出した。「港南台」は、その首都圏第1号マンションだ。

「免震」「オール電化」で地震発生に備える

 同物件は、横浜市港南区港南台1丁目(JR根岸線港南台駅徒歩11分)に建設される、7階建て・総戸数99戸のマンション。敷地は三角形状をした大規模小売店駐車場などの跡地で、南東は水路を挟んで港南台北公園に隣接。他の2方を6m・8m道路に面した独立街区で、周辺からの火災が延焼してくる危険性が低い立地であり、前面の公園が万が一の避難場所としても機能する。
 建物は、積層ゴムによる免震装置を四隅に、杭基礎に回転機構付きすべり支承(基礎杭の上を建物杭がすべることで揺れを減少する)を設置した免震構造。さらに、基礎部分を通る配管をフレキシブルジョイントとすることで、地震で配管が分断されにくくなり、復旧が容易となる。阪神・淡路大震災での普及が早かったことで、一気に普及した「オール電化」は、当然のように導入した。ここまでが、いわば「地震発生前」までの備えだ。

「震災後の暮らし」維持するための数々の工夫

 では、いざ地震発生後への備えはどうなっているか。
 まず、「免震マンション」としたことで、建物の復旧が早いため、万が一避難していた場合でもわが家に帰れるまでの期間が短く、かつ家具の倒壊などの被害が少ない。もちろん、わが家に帰宅したとしても、ライフラインが寸断されたままでは暮らしがままならないが、「水」については、電気給湯器の貯湯タンクの水(370リットル)により、4家族3日分の生活用水を確保。さらに、通常共用部分の管理に使用する「雨水利用貯湯タンク」(常時ろ過済みの水4,00リットルを備蓄)で建物として水を確保している。
 「電気」は、蓄電池による非常用電源を用意。通常、サイクルポートの照明などに使うこの電源(共用部分の使用電力の2日分を賄える)で、居住者は携帯電話充電や電気ポットなどの使用が可能となる。また、屋外灯はソーラーライトとしてあるため、停電時でもちゃんと点灯する。下水道が復旧するまでは、非常用マンホールトイレを屋外仮設トイレとして利用する。オール電化住宅のため、電気さえ復旧すれば(阪神・淡路大震災の場合、約1週間とライフライン中一番復旧が早かった)、災害後でもある程度の生活が送れる目処がつく(もちろん、トイレや風呂には当面苦労するだろうが…それは他の住宅も同じこと)。
 住戸の基本性能も、満足できるレベルにある。ボイドスラブを採用し、住戸内の梁は少なく、段差もほとんどない。天井高2,380ミリはやや低いが、逆梁工法によりリビングには2,200ミリのハイサッシが入り、開放感はある。住戸は、専有面積68~84平方メートルの3LDK・4LDK。ほとんどの住戸が8m以上のワイドスパンで、間取りのメニュープランや水周り・玄関・住戸内建具・フローリングのセレクトプランも豊富だ。
 価格は、最多価格帯3,600万円台、坪単価にして171万円を予定。港南台は、マンション適地が少なく比較が難しいが、根岸線を代表する優良商・住宅地であることを考えれば、隣の本郷台や洋光台より明らかに評価は高い。見たところ、免震その他設備のコストが転嫁されたことはないようだ。

「耐震偽装」も追い風 土地オーナーは「理念に共鳴」

 今回の「対震マンション」について、同物件インフォメーションセンターの鬼澤傑氏は、このように語っている。「耐震偽装問題の影響はこれといって感じませんが、マンションの耐震性について漠然とした不安をお持ちのお客さまには、このマンションはむしろより安心してお勧めできますね。当社では、ほぼすべての物件について構造説明会を開いていますが、今回の偽装問題を受けて、急遽設計担当者と構造計算担当者の説明を加えることにしました」。
 免震構造については、専用の免震体験装置を持ち込み、実際に来場客に免震効果を体験してもらうという。

 最後は、鬼澤さんから聞いた〝ちょっといい話〟で締めくくりたい。「この建設地は入札ではなく、オーナーさんから直接取得させていただいたのですが、実は当社より高値を提示していたディベロッパーがいたんですよ。ところが、このオーナーさんは環境共生とか地域親和といったことにものすごく力を入れられている人で、災害から住民を守り、地域の安全を高めるという当社のコンセプトに共鳴してくれまして、安値だった当社に売ってくれたというわけです。価格が抑えられた一因でもありますね」。
 「世の中、お金だけじゃない」とはいいながら、お金だけで動いていくのがビジネスの世界と思っていたが、日本もまだまだ捨てたものじゃないですねぇ。(J)

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