記者の目 / その他

2006/4/7

学生マンション最新動向・06年春

毎日コムネット物件からみえたマーケット事情

 学生マンション開発・運営大手の(株)毎日コムネット(代表取締役:伊藤 守氏)が都心部で開発を進めていた学生マンション「サンフィールズ原宿」と「douxet calme(ドゥエカルム)」がこのほど完成。マスコミ向けに公開された。  同社は、学生マンション事業をより多角化させるべく、これまでの「土地仕入れ・建物建設」というスタイルに加え、既存物件のコンバージョン、流動化スキームの活用、他事業との複合提案による収益性の拡大など、より多角的な事業スキームを模索している。今回紹介する2物件は、いずれもそうした戦略のもと開発されたもの。両物件を眺めることで、学生マンション市場における最新のユーザー動向や投資家事情が見えてきた。

「サンフィールズ原宿」の外観。独身寮だった外観はほとんど手を入れていない
「サンフィールズ原宿」の外観。独身寮だった外観はほとんど手を入れていない
元は和室の居室(下)を洋室へと変更。新設された居室も含めて、ごくシンプル
元は和室の居室(下)を洋室へと変更。新設された居室も含めて、ごくシンプル
オール電化を採用したキッチン。キッチン横には、給湯器のタンクが入っている
オール電化を採用したキッチン。キッチン横には、給湯器のタンクが入っている
斬新な「ドゥエカルム」外観。1階は駐車場、2階がファミレス
斬新な「ドゥエカルム」外観。1階は駐車場、2階がファミレス
緩いアーチを描いたエントランスホールは、コンクリート打ちっ放しのモダンな造り
緩いアーチを描いたエントランスホールは、コンクリート打ちっ放しのモダンな造り
天井高いっぱい取ったサッシュ、外観同様のコンクリートむき出しの居室。ロフト住戸は天井高3
天井高いっぱい取ったサッシュ、外観同様のコンクリートむき出しの居室。ロフト住戸は天井高3

“時代を映し出す”改修物件「原宿」

 最初に記者が見学したのは、社宅を改修した学生マンション「サンフィールズ原宿」だ。
 渋谷区千駄ヶ谷3丁目、JR原宿駅から徒歩7分に立地するこのマンションは、某地方銀行の所有物件。「有効活用の案件は、その時代を映し出している」と、毎日コムネット・伊藤守社長が語るように、この場所は同銀行の支店長居宅だったが、有効活用を図るため、1996年に地上5階建て・ワンルーム22戸の独身寮に建て替えられた。そして、収益を生まない独身寮から、収益を生む学生マンションへと、3度姿を変えたというわけだ。

 最大のセールスポイントは、その立地だ。学生に人気の高い原宿、表参道が徒歩圏にあり、周辺に専門学校も多い。周囲はどちらかといえば商業系の立地ですでに開発しつくされており、マンション用地の出るチャンスは、建て替え案件でも出てこない限り、まずありえない。つまり、通常の賃貸物件も含め競合物件もないわけで、まさに願ったり適ったりの場所なわけだ。
 既存の独身寮は、大型の食堂厨房、共同浴室、洗濯室などを備えた「寄宿舎」タイプ。オーナーである銀行の要望は「とにかくコストをかけずに、収益を生む建物に」という1点のみ。そこでまず、洗濯室と多目的ルームを無くしワンルーム3室に、1階の食堂厨房をワンルーム4室に改築。2DKの常駐管理人室を、学生兄弟向けの2Kに改装。部屋数を30室に増やした。ただし、用途変更するコストと時間が無駄なので、「寄宿舎」としての機能を残すため、共同浴室を小食堂・調理室へ改装。多目的ルームとして運用していくことにした。外観も、ほとんど手を入れていない。

 新しく増築した部屋は、“イマドキの学生マンション”ではありえないほど質素な作りだ。ユニットバスは、「郊外の物件だったら絶対に使わない」(同社)というトイレ・洗面・バスの3点ユニット。スラブ直置きで段差も凄い。収納も最小限。既存の部屋も、以前使っていたエアコンはそのまま利用。ユニットバスはシャワーのみでバスタブもない。もちろん、新設・既設の部屋とも、何の色気も無い。
 独身寮から学生マンションへの改修点は、各居室へのメーターボックス設置、オール電化によるIH調理器・給湯器の設置、オートロック連動のインターフォンくらいのもの。改修コストは非公開だったが、記者がざっと見ても、1億円はかかっていないだろうと思えた。それが許されたのも、抜群の立地故のこと。賃料は、ワンルームが月額7万1,000円、2Kが12万7,000円と中古ワンルームとしては決して安くはないが、ほぼ満室での船出。ファッションの街、原宿らしく、半数以上がファッション系専門学校の生徒だという。

 なお、毎日コムネットの運用物件のうち改修物件の占めるシェアは約2割。このシェアが大きく伸びるとは言えないと同社は言うが、ディベロッパーやファンドとの競合で用地仕入れが困難になっているなかで、今回の「原宿」のような稀有な立地が取得できるケースも多く、同社も力を入れている。すでに、自社所有による物件運用からは手を引いており、通常の有効活用と改修による物件開発、流動化スキームの活用などで、今期中に運用戸数4,600戸をめざす。

ファミレス併設のデザイン物件「ドゥエカルム」

 次に見学したのが、やはり若者に人気の街・下北沢にほど近い、世田谷区代沢5丁目の新築物件「ドゥエカルム」。同社がオーナーから土地を借り上げ、7階建ての学生マンションの下部に、ファミリーレストラン、時間貸し駐車場(ファミリーレストラン駐車場と併用)を併設した物件を建設したもの。

 学生向けマンションは通常の賃貸物件と比べて滞納リスクも小さいため利回りが安定するが、そうはいってもオフィスや商業系テナント物件に比べると利回りは落ちる。そこで、これらを併設することで利回りの向上と安定を図ったというプロジェクト。デザインにとことん凝ったため、建築費が4億円と跳ね上がったが、オーナーへの保証賃料年額約3,700万円に店舗・駐車場からの収入を含めた年間収益は5,563万円で、利回り14%を確保している。
「学生の街、下北沢にマンションを作ることは当社にとって長年の夢だった。この物件は、都心学生マンションのランドマーク的建物をめざし、10年20年経っても飽きることのないデザインとした」と伊藤社長が語るこの物件は、相当熱の入った物件であることは、容易にうかがい知れた。

 外観は、縦長のコンクリート箱を少しずつオフセットしながら並べたような直線基調の幾何学的デザイン。居室の大きなウインドガラスと、スカイブルーのバルコニがアクセント。外壁にはタイルは用いずコンクリート打ち放し仕上げで、外階段までコンクリート仕上げされているのには驚いた。エントランスホールは、円弧を描いており、直線基調の外観とのコントラストをなす。
 居室は全部で41室。外観同様こちらも斬新な作り。室内は、天井高2,600mm~3,000mm(ロフト付き)を生かし、天井近くまでのハイサッシュを入れた。仕上げはコンクリート打ちっ放し。白木色のフローリングとオフホワイトのクロス、むき出しの配管がいかにもデザイナーズっぽい。賃料は、月額7万9,000円から9万2,000円で、下北沢駅徒歩8分としてはやや強気とも取れるが、強烈な個性を持つデザインが人気を得て、完成前、わずか3ヵ月で満室となった。女性が7割を占めるのも、このデザインあってのことだろう。

「住む場所を決めてから学校を決める」イマドキの学生達

 今回、見学させてもらった2物件。確かに大学や専門学校が周辺にいくつもあるので、学生マンションとしては抜群の立地なのだが、記者はどうも釈然としない。どちらも、なぜだか「学び舎(まなびや)」の雰囲気に乏しいのだ。そのわだかまりも、伊藤社長の放った一言で氷解した。「いまの学生は、大学を決めてから住まいを決めないんですよ。住むところを決めてから、行く大学を決めるんです」。

 さらりと言われたが、これは37歳の記者にとって、かなり衝撃的である。つまり、今の若者にとって大学に行くことよりも、楽しく遊んで暮らせる場所を探すほうが重要というわけだ。確かに少子化の進展で、100%大学進学時代の到来も近い。入ろうと思えば、どこの大学でも入れる時代になるが、いくらなんでも本末転倒ではないだろうか?

 「お客さまは神様」とはいえ、こういう学生を相手にする、毎日コムネットも大変である。今までのマーケティング手法が通用しないうえに、学生が好むエリアは仕入れ困難の激戦区ばかりだ。その苦労を慮ってくれるのであれば、せめて学生諸君には憧れの学び舎でしっかり勉学に励んでもらいたいものである。もちろん、4年間家賃滞納なしで。(J)

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