記者の目

2007/1/23

自然とオフィスが共生するコンバージョンビル

サンフロンティア不動産「USCビル」をみる

 「リプランニング」を商標登録するなど、中古ビルの再生事業に力を入れているのが、サンフロンティア不動産(株)だ。その同社の最新プロジェクトが、資源再生循環型オフィスビルの「USCビル」(東京都江東区)だ。体育施設をオフィスビルにコンバージョンするというだけでも耳目に値するが、同社は今回、エネルギー効率向上や、CO2排出量の削減、自然環境保全にまで踏み込むなど、コンバージョンの新しい可能性を示唆した。同ビルの内覧会の模様をお伝えしたい。

「USCビル」外観(イメージ)
「USCビル」外観(イメージ)
屋上に設置されたビオトープ。ビジネスマンたちの憩いの場として使われる
屋上に設置されたビオトープ。ビジネスマンたちの憩いの場として使われる
鵜川ビル跡地につくられた緑のスペース
鵜川ビル跡地につくられた緑のスペース
アーチ型の窓はそのまま残され、一風変わったオフィスを演出している
アーチ型の窓はそのまま残され、一風変わったオフィスを演出している
オーナー住居だった屋上部分には、ソーラーパネルを設置する予定
オーナー住居だった屋上部分には、ソーラーパネルを設置する予定

●テニスコートやプール施設をオフィスに

 同物件は、東京メトロ東西線「東陽町」駅から徒歩8分に位置する、地上8階地下1階建てのオフィスビル。日本橋や大手町に20分足らずでアクセスできるほか、周辺にはショッピングモールやオフィスの複合施設「東京イースト21」や江東区役所があり、オフィスとしてはなかなかの立地だ。
 テニスコートなどの体育施設だった同施設や、隣接する居宅・オフィスなどで構成されていた「鵜川ビル」を2005年に60億円弱で購入。約15ヵ月を費やし、1つのオフィスビルへとコンバージョン。07年1月に竣工させた。いまや、体育施設だった名残はどこにもない。

 今回のコンバージョンも、体育施設という風変わりな「素材」をうまく生かした工夫が凝らしている。
 まず、テニスコートのあった建物(通常のオフィスの3階建て相当)に、隣接するビルの容積を組み込むことで、2階建ての体育施設を5階建てのオフィスビルにコンバージョンしている。プールや更衣室・ラウンジなど細かく間仕切りされた1階部分は、すべての壁を取り払い、約343坪の広々としたワンフロアのオフィスへと一新。これにより、オフィスの賃貸可能面積は2,278坪から3,435坪へと増床された。

 プール施設の天井部分には、アーチ型の窓が設置されていた。オフィスには不釣合いな窓だが、採光に優れていること、目の前に緑が見られるなどの理由から、そのままの状態で残された。このアーチ型の窓を残したことで、まるでデザイナーズ物件のような一風変わったオフィス空間を演出。頭上に緑と光を頂くことができるというヒーリング効果も期待できるつくりとなっている。
 テニスコートだった部分には、構造上、天井部分の梁がどうしても残ってしまう。そのままにしたのでは、どうも見栄えが悪い。そこで、梁が出ている部分はそのまま下におろして間仕切りとして使うという、発想の転換で解決した。ちょっとしたアイディアで、マイナス面をプラスに変えることのできるコンバージョンに、大きな可能性を感じた。また、他と比べて少々天井が低いフロアには、床下空調にするなどの工夫もされている。もとはテニスコート施設だっただけに、窓が大きくとられているので、採光もばっちりだ。

●資源再生循環型コンバージョンとは

 同社は、今回のコンバージョンのコンセプトとして「資源再生循環」を打ち出した。
 隣接していた「鵜川ビル」の跡地には木などを植え込み、ベンチを設置し、ビジネスマンたちの憩いのスペースとして活用。テニスコートだった屋上には、ビオトープを作ることで屋上緑化を実現した。緑と生物の息吹を感じられるビルの屋上から、高層ビルが立ち並ぶ都会を望むのは、なんとも心地が良いものだった。
 ほかにも、オーナーの住居があった場所に太陽光発電システムを建設するなど、“自然と共生するオフィス”のコンセプトを徹底させている。また、今回のコンバージョンは、一からオフィスビルを新築する場合と比べ、CO2排出量を49%も削減することにも成功しており、地球にやさしい開発行為であることも押し出している。

 内覧会で挨拶した同社代表取締役社長の堀口智顕氏は、「自然環境の保全と、快適なオフィス環境との共生をめざした。世の中の流れは開発型から再利用型になっており、このプロジェクトが賞賛される日が必ずくるだろう」などと抱負を語った。

 同物件の賃料は、坪あたり約1万3,000円から約1万6,500円。周辺相場は1万5,000円程度というから、まずまずの値段といえるのではないだろうか。36.4%だった稼働率も、コンバージョン後はほぼ100%となり、プロジェクトの完成度の高さを物語っている。

●変わったつくりも魅力の一つに

 「オフィスにいながらこんなにも緑を体感できるならば、確かに働いてみたい」というのが、内覧会を体験しての率直な感想だ。あくまでコンバージョンなので、ところどころに段差が見られたり、梁が出っ張っていたりするが、緑の豊かさと新築同様の美しさが、そういった部分をカバーしている。体育施設だったものをコンバージョンしたので、オフィスのつくりが普通のものと違い変わっていることも、この物件の特長の一つになるのではないだろうか。
 同社の企業理念は「利他」、つまり、他人の利益となるよう努力すること、自分のことよりも他人の幸福を願うことだ。オフィス環境のクオリティだけでなく、自然環境をも考慮したコンバージョンビル。利己主義ではなく利他主義の同社だからこそできた、完成度の高いコンバージョンといえるだろう。(May)

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