記者の目 / 開発・分譲

2007/3/20

湾岸エリア最大のマンションが完成

住友不動産「ワールドシティタワーズ」を見る

 東京・湾岸エリア。ここ数年、数え切れないほどのマンションが供給されてきたエリアだ。それらのマンションが、いよいよ竣工を迎え、工場と倉庫だらけの殺風景な街が、タワーマンションが林立するアーバンシティへと姿を変えつつある。そうした湾岸エリアのなかでも、最も規模の大きなマンションが完成した。住友不動産(株)による「ワールドシティタワーズ(WCT)」(東京都港区港南)だ。単独事業主の物件としては、現時点で日本最大となるこのマンションは、それ自体が1つの街であり、湾岸エリアの勢いと進化を象徴している。

「ワールドシティタワーズ」全景。品川運河に面する、湾岸エリア随一のロケーション
「ワールドシティタワーズ」全景。品川運河に面する、湾岸エリア随一のロケーション
マンション1階には、24時間オープンのスーパーマーケットを誘致。マンション周辺にはこうしたスーパーはなく、開業当初から周辺住民が多く詰めかけている
マンション1階には、24時間オープンのスーパーマーケットを誘致。マンション周辺にはこうしたスーパーはなく、開業当初から周辺住民が多く詰めかけている
スケールメリットをいかして、贅を凝らした共用部。2層吹き抜けのエントランスホール(写真上)、運河が一望できるスカイラウンジ(写真中、下)
スケールメリットをいかして、贅を凝らした共用部。2層吹き抜けのエントランスホール(写真上)、運河が一望できるスカイラウンジ(写真中、下)
WCTの目玉である「チャータークルーズ」。入居者専用の桟橋からクルージングが楽しめる
WCTの目玉である「チャータークルーズ」。入居者専用の桟橋からクルージングが楽しめる
「コモンホール」(写真上)はいわゆる「フリールーム」。パーティなどに利用できる。親戚や友人を宿泊させることができるゲストルーム「イタリアンスウィートルーム」(写真下)。ビューバスからはレインボーブリッジの夜景も堪能できる
「コモンホール」(写真上)はいわゆる「フリールーム」。パーティなどに利用できる。親戚や友人を宿泊させることができるゲストルーム「イタリアンスウィートルーム」(写真下)。ビューバスからはレインボーブリッジの夜景も堪能できる
未分譲住戸であるタワー最上階メゾネットの吹き抜けリビング。床から天井までがガラス張りで眺望は最高。品川運河の奥にレインボーブリッジが見える
未分譲住戸であるタワー最上階メゾネットの吹き抜けリビング。床から天井までがガラス張りで眺望は最高。品川運河の奥にレインボーブリッジが見える
WCTから見た湾岸エリア。見渡す限りタワーマンションだらけ
WCTから見た湾岸エリア。見渡す限りタワーマンションだらけ

日本最大、総戸数は2,090戸

 同物件は、東京モノレール「天王洲アイル」駅徒歩4分、JR「品川」駅徒歩14分に立地。総開発面積約2.4ha。地上40階建てのアクアタワー(1,038戸)、地上42階建て のブリーズタワー(459戸)、地上41階建てのキャピタルタワー(593戸)の3棟構成で、総戸数は2,090戸。単独事業者による民間分譲マンション としては、日本最大となる。

 建設地は、複数企業が倉庫として使用していたエリアで、2000年秋に取得していた。敷地北側は、港区による公園整備が行なわれる予定。東側は、京浜運河を挟んで品川埠頭。南側は天王洲アイル地区。西側は低層部を首都高速と東京モノレールが横切り、一般道路を挟んで東京海洋大学キャンバスが広がる。いずれも、隣接建物とは130~200mの間隔が空いており、日照・通風の心配はない(ただし、3棟の建物同士は干渉するが)。
 モノレール・高速・一般道路からの騒音が気になること、敷地の一部に某新聞社のビルが食い込んでいることがネガといえばネガとなるが、それを差し引いても、運河に隣接する立地は抜群だ。中層階以上であれば、北側に東京タワー、東側にお台場の素晴らしい夜景が堪能できる。品川駅までのアクセスが若干遠いが、竣工後は入居者専用のシャトルバスを運行するので心配はない。

マンションそのものが「街」となる

 ここにきて、タワーマンションがいくつも竣工し、急速に「定住者」が増えている湾岸エリア。とはいえ、数年前まではほとんど人の住んでいないエリアだったわけで、生活利便施設の類も、ほとんどない。このエリアでの生活を潤いあるものにするには、生活利便施設を充実させることは必須となる。
 だが、そうした施設が出てくるのを待っていたのでは遅い。そこで、WCTは、「オール・イン・シティ」をコンセプトの1つに掲げ、マンションを「6,000人の人が暮らす1つの街」と考え、生活に必要なあらゆる施設を敷地内に集約した。

 マンション1階には、24時間営業を行なうスーパーマーケット「マルエツ」を誘致した。総合クリニックでは、往診サービスやマンション内ジムと連携した健康増進カルテの作成サービスを提供する。また、芝信用金庫の出張所も誘致したほか、認可保育園や歯科診療所も開設される。

 スケールメリットを生かした共用施設も、プールやフィットネスジム、カフェ、ラウンジ、ライブラリー、ホール、キッズルーム、リラクゼーションセンター、介護浴室、防音室など、「リゾート&リラックス」というコンセプトを具現化すべく、数多く設置。これらのサービスは、フロントでのコンシェルジュを通じ必要に応じて楽しめる。また、スーパーでの買い物をはじめ、館内施設の予約・支払いは、Edy機能を持ったオーナーズカードで行なう。

 「リゾート」を楽しめる最大のサービスは、なんといっても「チャータークルーズ」だろう。管理組合がクルーズ会社の会員となり、入居者専用の桟橋に横付けされるチャーターボートによるクルージングが楽しめる。料金は、3時間3万円。標準的なクルーザーは10人は乗れるため、1人3,000円でクルージングが楽しめる仕組み(ちなみに、3時間あれば、桟橋から横浜・八景島周辺までを往復できるという)。

70戸は「完成売り」 最上階メゾネットは「自社保有」も検討

 WCTは、04年5月から分譲を開始。住戸は、ワンルームから4LDK、専有面積41平方メートル~132平方メートルと、あらゆる層をターゲットとできるよう、バリエーションを持たせた。最多価格帯は6,200万円台(1期)、販売坪単価は平均242万円で、分譲当時はやや割高に感じたが、「新価格」が広まりだした最近の市場から見れば何の疑問も感じない値付けである。第1期400戸を皮切りに、これまでに2,018戸を完売している。ブリーズタワーの最上階東南角住戸(130平方メートル)はオークションにかけられ、2億円超で落札されたことで話題となっている。

 竣工時点で残っている約70戸は、全体戸数からすればわずか4%だが、中規模マンション1棟分の戸数であり、並みのディベロッパーであれば大問題だ。だが、同社は全く気にしていない。「今期(07年3月期)も売れ行きは好調で、すでに売上目標を達成している。残り70戸は、09年3月期計上物件として、08年秋以降に完成売りする」(常務執行役員都市開発事業本部副本部長・亀山賢一氏)。価格についても、1億円以下の物件については、公庫付きということで値上げもされない。これは、どう考えてもお買い得である。

 ひとつ気になるのは、未販売物件のなかに、ブリーズタワー最上階メゾネット住戸(北東角部屋、150平方メートル)が含まれていること。この物件については、販売にかけるか未定で、事によっては、自社保有も検討するという。今回、竣工にあたってマスコミ向けに公開されたが、床から天井まで2層吹きぬけ・総ガラス張りのリビングは、圧巻であった。

「人の住む街」へ成熟を開始した湾岸エリア

 同社が発表した購入者特性によると、「現居住地」は6割の「23区」は当然としても、「神奈川県」が15%、「千葉県」7%、「埼玉県」5%と、3割弱が他県からの入居であり、まさに「都心回帰」の流れに沿ったものとなった。
 「入居予定人数」では、「1人」が21%、「2人」が48%で、7割弱がシングル・DINKSと読み取れる一方、「4人以上」の世帯12%をはじめ、3割がファミリー層だった。また、「年齢」では、「30歳代」の43%、「40歳代」の23%がコアとなるが、50歳以上のシニア層も2割強を占めていることから、シニア世帯の「都心回帰」先としての想定ができる。
 これらのデータは、単に郊外エリアから超都心エリアへの回帰現象を裏付けるだけでなく、シングルやDINKSだけでなく、ファミリーやシニアが、この「湾岸」という「街」を積極的に選択しているということも示す。これは何を意味するか?

 1日のほとんどを「労働」に費やし、休日はレジャーに出かけ、「陽のあたる時間にほとんど家にいない」シングルやDINKSにとっては、交通アクセスなどの利便性はともかく、「街」としての成熟度は、あまり重要ではない。極論すれば、生活環境がどうであれ、オフィスや都心歓楽街に近ければ、住まいとしてはどこでも「合格」なのである。

 だが、ファミリーやシニアのように、自宅とその周辺で過ごす時間が多いユーザーにとっては、「街の成熟度」は極めて重要なファクターとなる。たとえば「緑が多い」とか「治安がいい」「住民のコミュニティーがしっかりしている」といった点である。WCTがこうした層に一定の人気を得たということは、つまり湾岸エリアが、「人が住まう街」として、いよいよ成熟し始めたということに他ならない。

 すでに港南地区では、WCTも合わせ5,000戸近いマンションが供給され、3月下旬には、WCTと目と鼻の先に、4,000戸超のタワーマンションを核とする「芝浦アイランド」が完成する。レインボーブリッジを挟んで反対側の東雲・豊洲エリアでも、5,000戸を超える分譲マンションが建設されている。新たな商業施設も続々完成。たった数年で、湾岸エリアは、殺風景な工業地帯から、1万世帯を超える定住人口を抱える巨大な「街」へと変貌を遂げている。

 「十年一昔」という言葉があるが、10年どころではない、わずか数年である。都市の風景とはめまぐるしく変わるものだが、このスピードは圧巻である。読者の皆さんも、時間があったら、足を運んでみて欲しい。新しい街が、まさにいま立ち上がらんとする、「都市再生」のダイナミズムを感じるはずだ。(J)

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