子育て支援賃貸マンション「京王アンフィール高幡」オープン
電鉄会社のまちとの関わり方が、従来とは変わってきている。 これまでは、沿線の住宅地開発やショッピングモールの新設など、インフラ整備を行なうことで新たなエンドユーザー獲得するという、いわば“第一次的なまちづくり”が多かった。しかしここにきて、既存顧客である沿線住民をターゲットに、沿線のファンづくりと沿線住民の定着化を目的とした、 “第二次的なまちづくり”が行なわれている。 京王電鉄(株)の子育て支援賃貸マンション「京王アンフィール高幡」(東京都日野市)もその一環だ。







保育と住まいが一体化したビル
「京王アンフィール高幡」は、「保育所や子育てサービス施設がある保育環境と、子育てファミリーが暮らしやすい住環境とが一体化したビルがあったら、子育てライフはもっと快適になるはず」との発想から誕生したもの。
子育て家族にやさしい機能やデザインを搭載した「子育て支援賃貸マンション」25戸と、保育所「京王キッズプラッツ高幡」、育児支援施設「日野市立子ども家庭支援センター」からなる地上8階建ての建物で、まるごと1棟が子育ての拠点になっている。
「子育て支援賃貸マンション」では、ベビーカーをそのまま収納できるシューズインクローゼットや、子供と一緒にゆったり入浴できる低床タイプの浴槽などを採用。また、二重天井・二重床構造にしたうえ、壁のスラブ厚を200mmとすることで遮音性に配慮し、キッチンカウンターなどのコーナーには丸みをつけ、引戸を多用した回遊性の高い間取りにするなど、子どもが室内で元気に駆け回っても何となく大丈夫そうな(?)設計だ。
子育て家族への配慮は、室内だけではない。共用廊下幅も約1.8mにしており、ベビーカーを押した人同士でも余裕をもってすれ違うことができる。
幼稚園や小学校低学年の子供がいる世帯をターゲットにしたため、間取りは1・2LDK、延床面積54.54~61.76平方メートルに設定した。
新築マンションの一般的なファミリータイプと比較すると、若干狭いようにも思えるが、大きな子供と小さな子供のいる世帯ではライフスタイルが異なるため、わざとこの広さに設定することで、ある程度、入居者の入れ替えを誘導したい考えだ。もちろん、子供が大きく育った家庭には、同社グループの京王不動産(株)が住まい探しのお手伝いをする。
賃料は、京王線「高幡不動」駅より徒歩2分、多摩モノレール線「高幡不動」駅より徒歩1分という、まさに「駅前」立地にも関わらず、12万7,000~13万7,000円と、周辺価格の1割~2割高に抑えた。
学生から高齢者まで多くの反響があったそうだが、子供がいるか、もしくはこれから生まれるという家族に優先的に入居してもらった。似たようなライフスタイルのほうが、入居者同士のトラブルが発生しにくく、また、気兼ねなく入居者が暮らせるからだ。
また、2階に入居している保育所「京王キッズプラッツ高幡」では、年齢に合わせた4つの保育室を用意。随所に曲線のデザインを採り入れた。また、木の柵に囲まれた立方体の空間や、袖壁で仕切られた空間を設けるなど、遊び心も忘れていない。もちろん、壁の角には丸みもたせ、ガラス戸などには緩衝材、仕切り戸には手をはさまないようなラバーを取り付けている。
こうした保育所の設計・デザインは、小さな子供を持つ親にとっては、うれしい配慮だ。
昨今では、子供に対する関心、つまりマーケットは大きい。住宅・不動産業界も例外ではなく、一般住宅の設計の際にも参考になるだろう。
ちなみに同保育所は、同社が新会社「京王子育てサポート」を設立して直営するというから、力の入れようがわかる。
今、求められるマーケットの“深掘り”戦略
あるエリアに特化して事業を営む際、業種を問わずマーケットの深掘りが課題になる。
そのために必要な方策は、つまるところ、ファンづくり・リピーターづくりだ。
言い換えれば、顧客ニーズにきめ細かく対応することで満足度を高め、常連客として囲い込み、継続的な収益を上げることが必要になってくるのだ。
あれ、どこかで聞いたような事業戦略? と思われるかもしれない。そう、われわれ不動産業においても、前述の戦略は典型的なビジネスモデルの一つなのである。
同社グループでは、今回紹介した「京王キッズプラッツ高幡」といった子育て支援事業のほか、フォーラム・イベントやサークル活動を行なう「京王それいゆ倶楽部」といった会員組織、また、宅配サービスやOAサービス、家事支援サービスや住まいの修繕に関するサポートなどを行なう「京王ほっとネットワーク」といった各種サービスを提供し、幅広く顧客を囲い込み、ファン度を向上させている。
もともと電鉄会社は、デパートや旅行会社、広告会社や不動産会社も営業しているわけで、“深掘り型”戦略、ワンストップサービスのお手本ともいうべき事業展開をしている。不動産業の総合生活産業化が進むといわれているなか、同社が次々に手掛ける事業は大いに参考になろう。
なんて書くと、「そりゃあ、資本や企業体力が違うでしょ。大手はいろいろできて当然」なんて声が聞こえてきそうである。
そんなふうに思った方は、ぜひ「すべてを自社でやる必要はない」と、発想の転換をしてほしい。地元商店街の仲間や、気の合う商売仲間で、できることからやっていけばいいのだ。
例えば、商店街の仲間で、空き店舗を活用した託児所を経営してもいいかもしれないし、入居者へのサービスとして仲間の飲食店の無料食事券をプレゼントしてもいい。
今、まちや界隈に人を呼び込む策が求められているのは、電鉄会社だけではないはずだ。と、愛してやまない地場密着型の不動産会社へ、メッセージを送りたい。(ひ)