東急不、会員制リゾートで高額仕様を新展開
いわゆる「団塊世代」のリタイアに伴い、不動産業界でも成長分野と注目されているのが「リゾート」事業だ。より贅沢に、よりゆとりのあるリラクゼーションを求める団塊世代の志向に対応した、高級リゾートも増えてきた。会員制リゾート事業「ハーヴェストクラブ」を手がける東急不動産（株）も、こうしたニーズに対応するため、同シリーズ内に、ハイグレードブランド「VIALA（ヴィアラ）」を新設。このほど、箱根に第1弾施設を開業させた。
ワンランク上のサービス提供めざし
同社は、1988年から会員制リゾート事業「ハーヴェストクラブ」を展開している。開始当時はバブル絶頂期で、日本における庶民向けリゾートの黎明期でもあった。バブル崩壊によりリゾート事業は冬の時代を迎えたが、会員制リゾートは比較的安価にリゾートを楽しめることから、ユーザーの支持を受けた。同社のハーヴェストクラブも、この20年間に全国22施設、約2,300室を開発。年間1,000口、約1万9,000人に対して、約2万2,000口の会員権を販売し、個人ユーザー中心に好評を得てきた。子会社の東急リゾート（株）等を通じた、会員権の二次流通も盛んである。
だが、ここにきて、リゾート市場は大きな転換期を迎えた。それが「団塊世代」という新たなマーケットの登場である。退職金を手に、続々とリタイアしていく同世代が求めるのは、安価で均一的なリラクゼーションではなく、自分たちの志向を満足させるだけの贅沢感と高いサービスレベルが楽しめるリゾートライフ。そこで同社は、カジュアル感覚を前面に出したこれまでの「ハーヴェストクラブ」とは一線を画した、新たな商品作りを模索。ハーヴェストクラブ内に新ブランド「ヴィアラ」を立ち上げた。
客室面積は1.5倍に、オペレーションにも工夫
新ブランドの「ヴィアラ」は、「大人の上質な寛ぎ」がテーマ。共通の開発基準として、これまでのハーヴェストクラブよりも、施設定員を抑える。客室面積は、これまでの平均45平方メートルから65平方メートルと、約1.5倍に拡大。共用施設も高級化し、ゆとりももたせていく。また、チェックインもフロントサービスでなくコンシェルジュが行なうほか、会員本人が利用する場合は、専用のカウンターでのチェックインと、専用ラウンジの利用を可能とする。
さらに、大きな特長となるのが、「ルームチャージ制」の導入だ。通常、多くの会員制リゾートは「ルームシェア」（共有制）の形を採っている。つまり、会員は基本的に共有している部屋しか利用することができない（提携施設との相互乗り入れはできるが、部屋のグレードは同レベルのものしか選べない）から、広い部屋やスイートが使いたければ、はじめから高額の会員権を購入する必要がある。「ヴィアラ」は、会員権価格は一本化し、利用する部屋の仕様によってルームチャージの値段を変えている。これにより、どのユーザーも平等に、自分の好きなときに好きなタイプの部屋を選ぶことができる。夫婦2人ならスタンダードを選べばいいし、友人たちとの利用であればスイートを選ぶといった、その時々のニーズに合った利用がしやすくなったわけだ。
第1弾は人気の「箱根」、スイートは100平方メートル超
第1弾としてオープンしたのは、「VIARA箱根翡翠」（神奈川県足柄下郡）。箱根エリアの景勝地「仙石原」の中心地に位置。総面積約9,800平方メートルの敷地は、老舗旅館・レストラン跡地で、2002年に開業した「東急ハーヴェストクラブ箱根甲子園」（総客室数151室）に隣接している。同社の「ハーヴェストクラブ」は、「翡翠」が3ヵ所目となるが、「甲子園」はハーヴェストクラブトップの通年稼働率（80％超）を誇るなど全国的にも圧倒的人気があり、差別化施設としてのニーズも十分に見込めた。
建物は、地上4階地下1階建ての低層で、総客室数は70室。ほぼ同じ敷地面積の「甲子園」の半分しかない。ところが、大きな池を中央にした庭園、露天風呂、ラウンジ、各種レストラン、シアタールーム、リラクゼーションスパといった共用部分の面積は「甲子園」のそれに等しい。つまり、「甲子園」同様の高稼働となったとしても、会員1人あたりの「ゆとり」は倍以上ということになるわけだ。ちなみに、投下資金も「甲子園」と同額の60億円。建物規模が小さいわけだから、それだけ設備や共用部にコストがかかっていることになる。
客室は、専有面積約55平方メートルの「スタンダード」が28室、同63平方メートルの「デラックス」が26室、同92平方メートルの「ファミリー」が4室、そして100平方メートルを超える「スイート」が4室だ。各客室は、中高級マンション、もしくは中級ホテルの設備水準とほぼ肩を並べる仕様。「デラックス」以上の客室には、専用の露天風呂が付く。記者は、一般の「ハーヴェストクラブ」を利用したことがあるが、それとはグレード感が全く違った。
また、「スイート」はとくにグレード感を高めており、眺望抜群の専用中庭露天風呂が付くほか、引き落としの塗壁、広大なルーフバルコニー、バーカウンターなど贅を尽くしている。居室への出入りは、スタッフが常駐する専用エレベータを使うなど、ホスピタリティレベルも高い。
すでに7割を販売、10年度には熱海、有馬でも開業
同施設の会員権は、1室12口分割の合計744口で、1口あたり年間30泊分の利用券がつく。販売価格は1口1,074万円と、これまでの施設と比べ5割以上高い。また、年間15万円の年会費がかかるほか、「スタンダード」は一泊あたり1万2,000円、「デラックス」は1万6,800円、「スイート」は2万7,300円のルームチャージも要る。レストラン等の単価設定もかなり高い。同社も、1人当たりの客単価を一泊1万5,000円（従来：1万円）と見込んでいる。
だが、反響は上々だ。会員権販売は06年秋から販売開始しているが、60歳代をメインにこれまでに7割超を販売済み。開業後1年以内に完売する予定だ。隣接する「甲子園」の会員権価格が流通市場で高騰（400万円→600万円）していることからも、施設の魅力に加え、ロケーションの強みも加味されたようだ。
確かに会員権価格は高いが、あのスイートが一泊3万円以下で利用できるのであれば、「買い」だ。（相互利用できるハーヴェストクラブ会員権を流通市場で安く買うという裏ワザもあるが、利用枠に限度がある）
今回の成功を受け同社では、「ヴィアラ」シリーズを積極的に展開。2010年度には熱海、有馬で開業するほか、軽井沢、京都などリゾート人気の高いエリアをターゲットとして、開発用地の選定にかかる方針だ。（J）
