大学跡地の再開発「芝浦ルネサイト」が竣工
「芝浦ルネサイト」が9日、まちびらきした。大学跡地の再開発について、大学が中心となって「まちづくり協議会」を組成。民間企業と連携してまちづくりを行なう、日本初の「産学連携による再開発」として注目を集めている。 「学」主導によってつくられたこのまちが、どのようなコンセプトのもと開発されたのか、その実態をレポートしたい。






大学跡地に、大学・オフィス・ホテルを開発
同プロジェクトが開発された経緯を簡単に説明しよう。
JR「田町」駅から徒歩2分に所在していた旧・芝浦工業大学のキャンパス移転にともない、その跡地について21世紀にふさわしいまちづくりを実現するため、芝浦工業大学による事業パートナー選定コンペが実施された。
コンペの結果、(株)新日鉄都市開発、日本土地建物(株)、戸田建設(株)がパートナーとして選ばれ、今日の開発に至ったというわけだ。
まちは、「芝浦工業大学芝浦キャンパス」(鉄骨鉄筋コンクリート造地上8階地下1階)を要するA街区、オフィスビル「芝浦ルネサイトタワー」(鉄骨造地上19階地下2階)が位置するB街区、「ホテルグレイスリー田町」(鉄筋コンクリート造地上11階、総客室数216室)のC街区で構成されている。
「環境」「景観」「防災」がキーワード
プロジェクトを実現するべく発足された「芝浦キャンパスまちづくり協議会」では、ハード・ソフト両面に関する活発な協議が30回以上にわたって行なわれたという。
同協議会で策定された「まちづくりガイドライン」では、“歴史の伝承と新しい知の創造”という開発コンセプトが示された。1927年に開設され、同地に古くから根付いていた芝浦工業大学ならではの、地域性に馴染んだ、実に明確なコンセプトだ。
ここからは、同ガイドラインをもとに、どのようなまちづくりが実行されたのか、詳しくみていきたい。
同ガイドラインのキーワードは「環境」「景観」「防災」だ。
まず、「環境」面においては、開発面積の約40%を緑化するべく、「芝浦の杜」と題して約35種類・約3,300本の木々を植栽。「景観」では、各街区の建物に縦ラインを強調したファサードデザイン、開放的な空間を演出するためのピロティを採用するなど“ゆるやかな”統一感を持たせ、まち全体を一体感のある景観とした。
興味深いのは「防災」だ。災害時には3街区共同で「芝浦ルネサイト災害対策連絡会」を立ち上げ、各街区の特徴を生かし、水や食料備品の提供など援助活動を実施する。
大学では、地域住民に開かれた避難所として、災害時に教室等の施設を提供。オフィスは、マンホール直結型の災害用トイレを設置し地域に開放するほか、防災備蓄倉庫に備えてある飲料水の提供を行なう。さらにホテルも、区の規定にもとづく二次避難所としての機能を担うという。
全街区で災害時に地域に貢献できる都市機能を実現しているわけだ。上記の防災機能が本格的に効果を発揮すれば、3街区はまちの要所となり、建物の資産価値だけでなく、まちの魅力を大きく増大させることができるだろう。
三街区連携の「連絡会」がまちを管理・運営
まちづくりにおいて、言うまでもなく肝となるのはまちの「維持管理」。ガイドラインに沿ったまちをを永続的に運営できるよう設立されたのが、「芝浦ルネサイトまちづくり連絡会」だ。
同会では3街区のみならず、周辺地域の発展にも貢献できるよう、定期的に連絡会を開催し、情報交換や運営方法等についての議論を進めていくという。地域貢献活動なども検討されているというから、その活動の内容が期待される。
また、「芝浦ルネサイト」では、空間の有効活用にも余念がない。芝浦キャンパスの休暇等における空き教室を、オフィス棟の入居企業やホテル関係者に開放するという。一方、大学やオフィスの関係者は、ホテルの優先予約システムを享受できなど、複合開発ならではのメリットを存分に生かしている。
この空間の有効活用を、3街区のまち利用者だけでなく、地域のイベントにも貸し出すなどすれば、地域貢献がさらに具現化できるのではないだろうか。
まちびらきイベントで地域住民と交流
なお、まちびらきの同日、周辺住民との交流を図ることを目的に各種イベントが開催された。工学系大学ならではの特性を生かしたイベント「ロボット製作体験」や、NPO法人による防災イベントが実施され、会場は家族連れなどで大変な賑わいを見せていた。オフィスビルが子どもで溢れるという、何とも不思議な光景であったが、「点」の開発だけで終わらない、本当の意味での「面」開発が実現できている、と記者は感じた。地域住民と有機的にかかわりあい、まちを発展させていくという、理想的なのまちづくりの姿が見えた気がする。
今後は街区のみならず、いかに地元商店街や地域住民との連携ができるかが課題となる。こうしたイベントを一過性のものにするのではなく、継続的に実施していくことが必要だ。「学」が中心となって、商店街と連携した公開講座等の学びの場を提供すれば、まちづくりはさらに有機的なものへと醸成されるだろう。(May)