開かれた施設に地域住民も期待
現在、約170棟・1,600戸の学生マンションや学生寮を運営受託している(株)毎日コムネット(東京都千代田区、代表取締役社長:伊藤 守氏)。これまで、オーナーの土地活用のため、または同社で土地を購入して学生マンションや学生寮を建築・運営してきたが、同社初となるPFI方式で事業に携わることとなった。そうして誕生したのが「東京藝術大学藝心寮」(東京都足立区、総戸数300戸<管理人住戸1戸除く>)だ。藝術大学にふさわしい「アートな学生寮」が3月13日、マスコミに公開された。









◆見学会には地域住民も多数参加
アニメ「こち亀」の両さん像が設置されていることで知られるJR「亀有」駅。商店街に下町の香りを色濃く残す同駅から徒歩約15分、約7,800平方メートルの敷地にそびえ立つ鉄筋コンクリート造9階建ての建物が「東京藝術大学藝心寮」だ。
PFI事業の発注者は東京藝術大学。代表企業の同社をはじめ、鹿島建設(株)、総合ビルメンテナンスの(株)東洋実業、設計の(株)INA新建築研究所、同社主要株主の(株)KJホールディングスの5社が出資者となり建物を建設(Build)。2月末に同大学へ所有権を移転(Transfer)、4月1日より30年間、同社と東洋実業が維持管理運営を行なう(Operate)という、BTO方式を採用している。
「経営はアートとサイエンスのバランス」と話す同社伊藤社長。その言葉通り、1階の床はモノトーンを基調としたシックなデザインに、螺旋を描く階段はスケルトン、居室階は清潔感のある白にアクセントとして赤を入れるなど、随所にキラリと光る芸術性が盛り込まれている。
建物に1歩足を踏み入れた瞬間、学生寮というよりは美術館を思わせる雰囲気だった。設計者の中には、藝大出身者が2名加わっているという。
一方、地元住民が同施設に寄せる期待も高いらしい。足立区は高齢者の比率が高く、比較的子供の数も多い。同社は、入居する学生が高齢者や子供に絵や楽器を教えたり、住民も出入り可能な1階の交流サロンで演奏会や展示会を催すなど、地域住民に開かれた運営を目指したいと考えているのだ。
施設見学会には学生のみならず、多数の地域住民が参加したという。
◆藝大生のための充実した設備の数々
また、さすがは芸術を志す学生のための学生寮、設備も充実している。
24時間ピアノや楽器の練習が可能な防音の音楽練習室を30室用意。7平方メートルの練習室27室にはアップライトピアノを、14平方メートルの練習室3室にはグランドピアノを設置する予定だという。使用料は、8~20時の間は7平方メートルの部屋が1時間につき50円、14平方メートルの部屋が80円、20~8時の間はそれぞれ100円、150円。駅近のギャラリーやアトリエを借りるのに比べ、かなり安い金額設定だ。また、敷地内に4棟・16室のアトリエも配置。1日の使用料が650円、1週間で4,100円、1ヵ月で1万5,000円と、こちらも破格の値段だ。
交流サロンにもグランドピアノが設置される予定。吸音壁を採用、前方にはスクリーンやスポットライトを設置しており、夜の10時まで自由に利用できるという。寮生同士がパーティを開く際には、奥にあるパントリーで料理することも可能。また、吸音壁の中央の扉を開けると備蓄倉庫になっていて、災害時、入居者300名が3日間しのげる食料を常備するという。
居室は、専有面積18平方メートルのAタイプが280戸、28平方メートルのBタイプが20戸。Bタイプの居室は防音室付きで、壁は聴覚には聞こえないレベルの「D-60」値、床は物の落下音やイスの移動音がほとんど聞こえないレベルの「L-40」値を実現。奥行200㎝のグランドピアノが搬入・設置できるスペースを確保している。
Aタイプの賃料4万4,900円、Bタイプは8万3,200円だ。
藝術大学はいわば特殊な大学。年齢層も幅広く、外国人も少なくないという。「多世代多国籍同居型」の学生寮としての運営も注目される。
◆新たな開発手法に他大学も関心
すでに在校生150名の入居が決定しており、合格前予約が約300名、合否次第だがほぼ満室稼働でのスタートとなる見込みだという。
初のPFI事業を手掛けたことで、新たな開発手法を獲得した同社。すでに、第二弾となる「東京大学目白台国際宿舎(仮称)整備運営事業」の事業構成員にも選定されている。また、都内の大学から「直接、話を聞いてみたい」とのアプローチも増えたという。
「大学が公募するPFIの案件は公共事業に近く、収益に関してはそれほど期待していない。30年という長期にわたり、安定して利益貢献ができる事業という捉え方をしている」と伊藤社長。今回得たノウハウをもとに、積極的に学生寮開発に取り組んでいく考えだ。
数十年を経た国立大学の多くは、現在、活性化が求められている。「○○ならではの」「○○のための」という視点での提案、そして学生市場の特殊性に対応できるノウハウが、今後はますます必要となってくるだろう。
少子高齢化が進む中、地域活性化に向けたまちづくりに注目が集まっている。この「藝心寮」の取り組みは、地域と融合した施設づくりのモデルケースとして、今後の運営にも期待がかかる。(I)
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芸術を志す学生のための「藝心寮」が完成/毎日コムネット(2014/03/14)