記者の目

2015/9/4

空室対応より、入居者対応

賃貸住宅オーナーの取り組みを探る Part.15

 賃貸住宅経営、「建てれば儲かる」と言われたのは、いつの事だったろうか。今は空室にあえぎ、経営破綻するオーナーも決して少なくはない。  一方で、しっかりとした経営哲学やポリシーを持ち、投資とリターン見極め、健全な貸住宅経営を実現しているオーナーも多い。  今回ご紹介する林 浩一氏は、そんなオーナーの一人だ。最寄駅からバス便という立地の所有物件を満室経営、さらに、賃貸住宅経営に関する講演や執筆活動、オーナー、不動産会社、その他賃貸に関わる人たちによる、賃貸業界をUP-DATEしていこうという集まり「賃貸UP DATE実行委員会」の代表を努めるなど、八面六臂の活躍をしている。  林氏の所有物件を見学しながら、話を聞いた。

「Wilshire five seasons」外観。エントランスにはA看板を設置。入居者の方向けに林氏自らメッセージを記入している
「Wilshire five seasons」外観。エントランスにはA看板を設置。入居者の方向けに林氏自らメッセージを記入している
建物名の表示も非常におしゃれ
建物名の表示も非常におしゃれ
エントランスを入った所に設置してある郵便受けと宅配ボックス。装飾に使われているオブジェも、林氏が調達したもの
エントランスを入った所に設置してある郵便受けと宅配ボックス。装飾に使われているオブジェも、林氏が調達したもの
内廊下には、プロのイラストレーターが描いたイラストやポストカードなどが陳列されている
内廊下には、プロのイラストレーターが描いたイラストやポストカードなどが陳列されている
建物前には、バジル(写真上)やブルーベリー(写真下)などが植えられており、入居者に自由に収穫・使用してもらっている。水やりなどは林氏が自ら行なっている
建物前には、バジル(写真上)やブルーベリー(写真下)などが植えられており、入居者に自由に収穫・使用してもらっている。水やりなどは林氏が自ら行なっている
林氏が父親から引き継いだ物件の一部。物件そのものの競争力は「Wilshire five seasons」には遠く及ばないため、そこはまめな維持・管理や入居者との関係づくりで補っている
林氏が父親から引き継いだ物件の一部。物件そのものの競争力は「Wilshire five seasons」には遠く及ばないため、そこはまめな維持・管理や入居者との関係づくりで補っている
当時ゴミ置き場が道路となっていて、ゴミが散乱している様子が美観を損ねていると感じた林氏が、みずから敷地の一部にコンクリートブロックを積んでゴミ置き場を作成。この行動力が、良好な物件の維持管理に寄与しているのは間違いない
当時ゴミ置き場が道路となっていて、ゴミが散乱している様子が美観を損ねていると感じた林氏が、みずから敷地の一部にコンクリートブロックを積んでゴミ置き場を作成。この行動力が、良好な物件の維持管理に寄与しているのは間違いない
オーナーの林 浩一氏。専業オーナーとして所有物件の運用に力を注ぐ一方で、講演活動、執筆活動、さらには「賃貸UP DATE実行委員会」の代表も努めている
オーナーの林 浩一氏。専業オーナーとして所有物件の運用に力を注ぐ一方で、講演活動、執筆活動、さらには「賃貸UP DATE実行委員会」の代表も努めている

◆バス便、築古。まずは「ペット飼育可」に

 林氏は、田園都市線「青葉台」駅からバスで12分ほどの地に、7棟・70室(別途その他に、1棟45名収容の学生寮)を所有している。
 林氏は、父親から5年前にオーナー業を引き継いだ。ちなみに父親は、所有していた農地が再開発の進展に伴い宅地化されたことから、税金対策として賃貸住宅を建築。ハウスメーカーに勧められるままに建設し、同社系列の管理会社が借り上げ、転貸する形をとっていた。「貸し手市場の時代でしたからね。父親はサラリーマンを続けながら賃貸住宅経営をしていたわけですが、問題なく経営できていた」(林氏)という。

 年月の経過と共に時代は変わり、父親が建てた物件にも、空室が目立つようになっていった。管理会社からは、借り上げ家賃の値下げ交渉も入るように。建設から約20年を経過する頃、林氏がサラリーマンをしながら父親を手伝うようになり、約5年前に勤め先を退職。専業オーナーとなった。以降、サブリースの契約を徐々に終了させていき、地元の不動産管理会社に徐々に一般管理を委託していった。

 バス便、築古物件。当然、競争力は低い。不動産ポータルサイト経由のレスポンスも期待できない。

 そこで、林氏は、「所有物件をペット化にすること」に着手した。「ペットを飼いたいという潜在需要が高いということは、周囲のオーナーからも聞いていた。にもかかわらず、ペット飼育可の賃貸物件はほとんどない。そこで、『ペット可』にすることで、これといった特徴のない所有物件に、競争力を持たせようと思ったのです」(同氏)。
 一軒一軒訪問し、全住戸の同意を得て、ペット飼育可への切り替えを実施。当時は今以上にペット飼育可の賃貸物件は少なかった時代。空室はまたたく間に埋まったという。


◆エントランスのある内廊下の賃貸住宅を建設

 既存物件の管理を続けていたある日、林氏は父親から、月極駐車場として賃貸していた土地を「自由に活用していい」と言われた。そこで、新たな物件建築に着手した。
 そして2011年、アメリカに留学経験があることから、留学当時生活していたアメリカのドミトリー(寮)をモチーフに、緑豊かな賃貸居住用物件、「Wilshire five seasons」(総戸数6戸)が完成した。

 専有面積約60平方メートルの2LDK。IH3口システムコンロやシャンプードレッサー、カラーモニターフォンなど、人気設備を完備している。デザインクロスも効果的に使用するなど、昨今のニーズも取り入れた造りとなっている。
 しかし、この物件の本当の魅力は、賃貸には珍しい贅沢な仕様の共用部にある。まず、物件の中央部に設けられたエントランス。これは林氏が建設にあたってどうしても実現させたかったこだわりの一つだ。「エントランスをくぐることでまず帰宅の安堵感を得られるでしょうし、雨天時にはエントランスを入って傘を畳めるので便利です」(同氏)。

 内廊下の通路や棚には、プロのイラストレーターによるイラストや、かわいらしいオブジェなどを飾り付けている。これらは季節などによって入れ替えを行ない、例えばクリスマスの時には、サンタなどのオブジェを置き、外にはイルミネーションの飾り付けも行なうそう。

 エントランスそばには郵便受け、さらに全6戸に対し、宅配ボックスが2つ用意されている。郵便受けが内廊下に設置されているため、チラシの投げ込みはまったくと言っていいほどないそう。「あまりにチラシの投函がないため、入居者さんから『宅配ピザを頼みたいのだが』と相談を受けたことも。そのときは、私が店に出向いてチラシをもらい、各戸に配りました(笑)」。

 玄関前には、シンボルツリーとして植樹されたオリーブが、葉を揺らしている。さらに実のなるブルーベリーやライム、その他バジルなどのハーブや野菜も花壇内に多数植えられている。これは、入居者サービスの一環として、入居者の方に自由に収穫、使用してもらっている。手入れもほとんど必要ないとのこと。入居者が子供と一緒に収穫する風景もたびたび見られ、非常に喜んでもらっている、と林氏は語る。

 このこだわりの賃貸住宅は、周辺相場と比べると2割強ほど高いという強気の賃料設定ながら、2011年の竣工以来、ほぼ満室経営が続いている。


◆入居者のために植栽を引き抜き、駐車スペースを拡大

 父親から引き継いだ既存物件でも、入居者満足度を考えての取り組みが続く。

 既存物件については、前出の「Wilshire five seasons」のような、物件そのものの大きな特徴や魅力は、正直なところ見受けられない。にもかかわらず、この物件でも入居者の入れ替わりはほとんどないという。それには、林氏の管理上の工夫が、大きく寄与しているようだ。

 林氏は週に何度も物件に出向き、ゴミを拾い、設備を確認し、良好な住環境維持に努める。管理会社に管理を委託してはいるが、管理会社が物件を見に来る頻度は決して高くない。そこで、随時林氏が物件に足を運び、ごみが落ちていれば拾い、草が伸びてくれば草刈り機を持って草を刈る。共用部の照明がちらついているのを発見したら、すぐに電球を交換する。こうした維持管理の積み重ねで、物件を良好な状態に保っている。

 物件の所在するエリアのごみ置き場が、物件竣工から道路上に設置されていた。その光景が美観を損ねていると感じた林氏は、すぐに敷地内に自らブロックを積んでゴミ置き場を整備した。
 「私はDIYが得意というわけではないのですが、コストの問題もあるので、自分でできることは何でもやるようにしているのです。ゴミ置き場も、業者に頼むと高いので、私がホームセンターで材料を調達して作ったのです」(同氏)。

 週に何度も物件に顔を出す林氏は、入居者とも積極的にコミュニケーションをとり、入居者の声に耳を傾ける。あるとき、「車を大きいものに買い換えたら、駐車スペースがぎりぎりになって止めづらい」と語った入居者があった。林氏は早速、敷地内の植栽を一本引き抜き、駐車スペースを拡大した。もちろん、入居者には大変喜ばれたという。

 林氏は語る。「よく空室対策っていいますよね。もちろん、それも重要だとは思いますが、空いた部屋に資金を投下して、『その部屋だけとても良くする』というのは、ちょっと違うとのではないかと。大切なことは、長く入居してくださっている人への還元だと思っています。そもそも、まだ決まっていない入居者のために高いコストをかけるのは、非常にリスクが高い。その分、長らく入居してくださる方の方にコストをかけた方が効果的」という。


◆定期借家契約の採用も、ひいては「入居者のため」

 もう一つ、林氏がこだわっているのが、定期借家での契約だ。
 「Wilsher Five Seasons」の入居者募集時には、不動産会社に「定期借家契約で」と告げると、軒並み客付けを敬遠されたという。「不動産会社からは、『入居希望者が嫌がりますよ』『家賃をうんと下げないと、定借では契約してくれませんよ』と言われました。しかし普通借家契約は、オーナーにとってあまりにリスクが高い。グローバル・スタンダードな定期借家契約とすることは、私としては譲れませんでした。ようやく管理を引き受けてくれる会社を見つけましたが、それは最寄り駅から10駅離れた駅の不動産会社さんでした」(林氏)。

 いざ入居を開始してみると、物件を気に入って入居申し込みをしてくれた人の中で定期借家契約を敬遠する人は皆無だったという。

 「問題がなければ再契約を行なうことが前提、不良入居者が発生した際には再契約をしないことで、物件内の風紀も保たれる、と説明すると、皆さんすんなりと承諾してくれました。また、再契約の際に再契約料をいただいていないので、『更新料分が浮く』と喜んでいる方もいらっしゃいました。」(林氏)。

 その後、退去があり再度募集した際には、以前は客付けを断った不動産会社が入居希望者を案内してくれて、定期借家契約で契約してくれたという。
 オーナーの思いが、業界の“常識”を変えた、と言っても過言ではないだろう。

 林氏が目指しているのは、“経年魅化”となる物件運営だ。「どんな物件でも年月が経てば、劣化する。しかし年月を経ることで魅力を増す物件をめざして、物件を維持していきたい。そのためにはどのような手法があるか、自分でも考え、そしてさまざまな情報を入手して、取り組んでいきたい」(同氏)。

 なお、林氏の取り組みについては、近著『賃貸の新しい夜明け』(沖野 元氏・林氏共著)に詳しい。ご興味のある方は、そちらも手に取ってみていただきたい。(NO)

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