記者の目

2016/2/24

地方の空き物件再生で、若者を呼び込み

広島県福山市でシェアオフィス・SOHOブランド展開

 地方都市において、中心市街地等にある遊休不動産や空き家の活用は深刻な課題。一方で人口減少や高齢化が進む中、若年人口の流入や定着も大きなテーマだ。  その両方の課題解消につなげようと取り組んでいる事例が広島県福山市にある。空き物件を若手起業家向けのシェアオフィス・SOHOにリノベーションする事業だ。

テナントビルを1棟買い取り、リノベーションした第1弾物件外観。海外で情報を仕入れるなど、そのデザインにもこだわった
テナントビルを1棟買い取り、リノベーションした第1弾物件外観。海外で情報を仕入れるなど、そのデザインにもこだわった
専有部では壁紙1枚を自由に選べるサービスを導入。中には写真のように大胆な柄を選ぶ人も。“最初の城”が自身でつくれるとあって好評だったという
専有部では壁紙1枚を自由に選べるサービスを導入。中には写真のように大胆な柄を選ぶ人も。“最初の城”が自身でつくれるとあって好評だったという
第2弾目は3棟のプレハブアパートをSOHO利用可能なオフィス空間に(全13戸、2階建て)。こちらも印象的な外観に仕上げている
第2弾目は3棟のプレハブアパートをSOHO利用可能なオフィス空間に(全13戸、2階建て)。こちらも印象的な外観に仕上げている
元々住宅だった空間を生かし、シンプルに改装。SOHOとしても利用可能とした
元々住宅だった空間を生かし、シンプルに改装。SOHOとしても利用可能とした
市内の郊外部に位置するオフィスビルのワンフロアを活用した3弾目
市内の郊外部に位置するオフィスビルのワンフロアを活用した3弾目
入居者は無料で利用できる会議室も完備
入居者は無料で利用できる会議室も完備
2棟の木造戸建てが階段やウッドデッキ等でつながる独特のつくりをした物件を改装した4弾目
2棟の木造戸建てが階段やウッドデッキ等でつながる独特のつくりをした物件を改装した4弾目
高台にある戸建てならではの環境の良さが同物件のウリ
高台にある戸建てならではの環境の良さが同物件のウリ
元の間取りや設備等は基本生かしているため、共用部には堀りごたつもある
元の間取りや設備等は基本生かしているため、共用部には堀りごたつもある
入居者同士をつなぐクラブ組織も発足(写真は専用サイトトップページ)
入居者同士をつなぐクラブ組織も発足(写真は専用サイトトップページ)
クラブ役員には入居者に就任してもらった(写真は役員メンバー。「DioPorte」1弾目のエントランス前にて。同社オリジナルタイルを貼ったエントランスは、同物件の特徴でもある)
クラブ役員には入居者に就任してもらった(写真は役員メンバー。「DioPorte」1弾目のエントランス前にて。同社オリジナルタイルを貼ったエントランスは、同物件の特徴でもある)
クラブ活動の一環によるセミナー風景
クラブ活動の一環によるセミナー風景

 同事業に取り組むのが1969年の創業以来、地域密着で営業する(有)山陽不動産(代表取締役:溝入和子氏)。広島県福山市で売買仲介、買取再販、賃貸仲介・管理などを展開する宅建業者だ。社長とその母親、娘の女性3代で営む同社は2003年に3代目に当たる角田千鶴氏(同社取締役副社長)が入社したことを機に、さまざまな改革を進め、従来にはなかったビジネスにチャレンジしている。その一つとして、14年2月にシェアオフィス・SOHO事業を開始。これまで同市内で4棟手掛け、いずれも好調。若年層が集まることで地域の活性化にもつながっている。

◆福山初のインキュベーションオフィスを設立

 同事業開始のきっかけは、角田氏が周囲の20~30歳代の起業志望者から「手頃に借りられるオフィスがない」とよく耳にするようになったことがきっかけだった。「せっかく若い人の借りたいというニーズがあるのにその受け皿がないのはもったいない。コンパクトサイズで低賃料、かつ若い人に喜ばれるおしゃれな空間を提供したいと思ったのです。空いた中古ビルを購入し、住宅でノウハウを培ってきたリノベーションを行なえば、それが実現できるのではと考えました」(角田氏)。

 そこで同社は14年、市内の目抜き通り沿いで中心市街地に立地する1988年築のテナントビルを買い取り、1棟リノベーションを実施。若手起業家支援ビル(インキュベーションオフィスビル)「DioPorte(ディオポルテ)」としてオープンした。専有面積8.1~14.4平方メートル、賃料は2万6,000~6万1,000円(入居年数によって変動有り)。インターネット環境を完備し、共用部のセミナールームや応接室は無料で利用することができる。専有部では壁一面のクロスを入居者が選択できるサービスも提供した。「われわれでは想像がつかないような華やかなクロスを選ぶ方もいて、自分だけの空間づくりができると喜ばれました」(角田氏)。

 同社はそれまでオフィスのリノベは未経験だったため、低コストでスタイリッシュなリノベの勉強をするため、角田氏自らオーストラリアに赴いたという。「現地では、おしゃれなリノベーションビルや店舗の写真をたくさん撮影してきました。『DioPorte』の1階エントランスにはタイルを使用していますが、通常タイルを買うとかなり高額になります。そこでオーストラリアで撮影したタイルの写真を参考に、タイルデザインを私自身でつくり、製造業者に発注することで、コストを抑えました」(同氏)。

 そんな工夫をこらしたビルは、Facebookや紹介を通じてまたたく間に満室となったという。入居者は司法書士やインテリアコーディネーター、デザイナーと多種多様な職業の人々。「低価格ながら洗練されたデザインのオフィスが利用できる」「共用部も充実しているため入居者同士で異業種交流できる」と喜ばれているそうだ。

◆アパート、戸建て、さまざまな物件を活用

 15年3月に竣工した2弾目は、2階建てプレハブアパートをリノベーション。水回りは狭く、築35年とあって、借り手がつきにくい状態だった。それを同社が買い取り、一度スケルトン状態にして、2DKだった間取りをワンルームへと変更し、表面材はすべて刷新。あくまでもオフィス用途が主であることから、水回りはトイレのみを刷新し、バスは撤去。キッチンもミニキッチンへ変更した。一部をSOHOとして提供している。
 「導入する設備が少ないため、低価格で改装できたことから元の賃料の4万円から1万円アップで貸し出せています」(同氏)。こちらは1棟目と比較するとやや郊外に位置するが、全13戸が募集開始からすぐ満室になったという。「入居者の中には東京からUターン・Iターンされてきた方もいました。主な仕事はパソコンでできるため、打ち合わせの時だけ東京に行かれているようです」(同氏)。

 同社のこうした取り組みを知ったさまざまなオーナーから「自分の物件でもやってほしい」という打診が来るようになったが、同社は自社ブランドとして展開していくことを重視し、そうした依頼は断ってきた。
 ところが、15年、若者支援や地域活性化に熱い思いを寄せるオーナーから「物件のみ提供し、すべてお任せするから事業化してほしい」という依頼が舞い込んだ。企画、リノベーション、管理といったすべての業務を同社に一任することを条件に、オーナーとの共同事業として供給したのが、15年10月に竣工した3、4弾目の物件だ。

 特に4弾目は、郊外の邸宅をシェアオフィスに改装した特色ある物件。敷地面積約680平方メートル、延床面積約243平方メートル、2棟からなる木造戸建住宅は、その広さからそのままで売却・賃貸すると価格が高くなる傾向にあり、買い手や借り手を見付けるのは難しい物件として空き家状態だった。オーナーは同事業であればこの物件を生まれ変わらせることができると、購入に踏み切ったという。
 「広い共用部には暖炉があって、高台にあることから風光明媚。市街地からはやや距離はありますが、福山は車社会ですし、利便性よりも環境の豊かさを重視した職の環境があってもおもしろいのではと考えました」(同氏)。

 10~11月に完成披露見学会を開催したところ、1日当たり20組前後が来場したという。現在は満室ではないが、順調に借り手が付いている状態だ。

◆入居者同士をつなぐ会員組織発足

 ここまでコンスタントに事業を進めてきた同社では、今後はブランド力を高めることに注力していく方針だ。「入居者同士や入居者と地域の人とのネットワーク形成のサポートに注力していきます」(同氏)。

 2棟目が完成した直後の15年6月に、入居者向けの会員組織「DioPorte CLUB」を発足。入居者に役員を務めてもらいながら懇親会、勉強会、交流会を定期的に開催している。
 また、同社と付き合いのある地元企業の社長にも理事になってもらうことで、入居者が起業する際などに相談ができるようにしたり、弁護士・税理士・社会労務士・司法書士・弁理士・金融機関などを紹介し、開業・起業などに必要な手続き等もサポートしている。入居者間の新たなビジネス等も生まれているようだ。

 「同事業を開始して2年。徐々に広島県や福山市、大学、イノベーションに関連する団体などから、注目されるようになりました。そういった方々と連携して、新たなサービスも生んでいきたいと考えています」(同氏)。
 その第一歩として、福山市が子育て支援環境の充実に向けた女性の意見交換の場として15年10月に設置した「ふくやま女性テラス」のメンバーに角田氏が選ばれた。その会議の中で「ワーキングママの交流の場として『DioPorte』をうまく活用できるのではないかという話も出ています」(同氏)。

※※※

 政府では、サテライト・オフィスの整備やテレワークの推進など、地方への若者流入を進めている。実際、ビジネスの多様化、ITの進展などで、必ずしも東京や都心にこだわらない働き方も徐々に浸透しつつあるが、その一方で、そういった若者の受け皿がまだまだ不足している。
 そこをうまくマッチングできるのが地域の不動産会社だ。
 山陽不動産の場合、物件の提供だけでなく、起業家間のネットワーク形成も支援していることが特徴。それは同社が長年地域に根付き、さまざまな人脈を持っている不動産会社だからこそできるものだ。

 地方の不動産マーケットは厳しい状態が続くが、社会構造の変化等によって、これまでにないニーズは確実に生まれている。そこに自社の強みを照らし合わせれば新たなビジネスが必ずみえてくるはずだ。(umi)

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