記者の目 / その他

2016/8/9

「『質の高い』物件情報を追求していく」  ~アットホーム(株)新社長・鶴森康史氏に聞く

創業50周年契機に、新たな価値創造へ

 不動産情報メディア事業や不動産業務ソリューション事業などを手掛けるアットホーム(株)(東京都大田区)の新社長に、今年8月就任した鶴森康史氏。来年創業50周年を迎える同社は、不動産業者間の情報流通システムの基礎を作り上げたパイオニアだ。フローからストックビジネスへのシフト、IT化の進展など、変化の著しい不動産流通業界をサポートする企業として、これから同社はどこへ向かうのか?鶴森新社長に聞いた。(J)

アットホーム取締役社長・鶴森康史氏
アットホーム取締役社長・鶴森康史氏

急速に変化する事業環境への適用力が試されるとき

 ――創業者から2代目社長を引き継いだ。就任の抱負を。
 「当社は1967年、創業者の松村文衛氏(現:代表取締役会長)が、日本初の不動産業者間情報流通会社として設立し、さまざまな苦難を乗り越えながら、不動産流通業界になくてはならない不動産情報ネットワークや会員事業者向けの商品やサービスを作り上げてきた。創業50周年を目前にした今改めて、この歴史と、加盟店の皆さまからの支持と信用、従業員たちの知恵・努力・チャレンジ精神が当社の大きな財産だと実感している。『クリーン&フェア』という企業理念に立ち、私が先頭に立って、新たな価値創造を進めていきたい」

 ――アットホームや加盟店を取り巻く環境について。
 「ICT技術やグローバル化の進展など、経営環境は目まぐるしく、日々変化しており、そうした変化に対するスピーディな対応、そして新たな創造性など、事業環境への適応力が試されていると痛感している。加盟店の皆さまもそれは同じ。国は、既存住宅流通市場やリフォーム市場の倍増を打ち出し、大手不動産流通事業者は、消費者が求める商品やサービスを次々と生み出している。中小事業者はこうしたサービスを自社開発したくても難しいのが現実であり、そうした加盟店の悩みをどう解決していくかも、当社に与えられた課題だ。大手と中小がバランスよく共存共栄し、消費者に行き届いたサービスができる業界づくりに貢献していきたい」

加盟店との「フェイスtoフェイス」が新サービスのヒントに

 ――アットホームの強みはどこだと考えているか?
 「加盟店の皆さまとのネットワーク、これが当社の最大の武器だ。営業社員が3日に1度加盟店を訪問し、フェイスtoフェイスで、加盟店の声や困りごとを聞いてくる。ITだけでは得られないつながりが新たな商品やサービスのヒントになっていく。
 物件情報の『質』の高さも、競合他社にはない強みだ。業者間情報からスタートした当社ならではの、プロが取り扱う物件情報は確実性が違う。物件量はもちろん大事だが、それ以上に情報の質が大事。業者間情報でも消費者向け情報でもこれは同じ。『おとり物件』など不動産情報の質が問題視されている今だからこそ、物件情報の質にはこれまで以上にこだわり、独自の情報掲載ルールや審査体制などをさらに強化していきたい。
 そして、1,400名余の社員の能力と多様性も大きな財産だ。豊富な人材から発せられるアイディアや意見をいかに商品やサービスへスピーディに生かしていくかがカギを握っている」
 ――アットホームの不動産情報流通サービスは、『ファクトシート』と呼ばれる紙媒体と、ATBB(AT home Business Base)と呼ばれるITの2本立てだが、近年『紙媒体は時代遅れでは』という指摘もある。
 「いつまでファクトシートを使うのか、これは当社ではなく加盟店の皆さまが決めることであって、ファクトシートが必要とされている間は、当然続けていく。ファクトシート自体も、加盟店のニーズや時代の変化に合わせ進化させてきた。カラー化や写真の多用、そのままお客さまに見せられるチラシのようなデザインなど、魅せる工夫や、エリアを限定して配布することで成約率を高めるといった工夫なども行なっている」

ベンチャー企業との協業でITサービスを開拓

 ――ATBBをはじめITを活用したサービスの進化も課題では?
 「当社はIT黎明期から不動産情報流通におけるITサービスを先駆的に開発してきたという自負がある。今後も、果敢にチャレンジしていきたい。近年、ITベンチャー企業がIoTやリアルエステイトテックを切り口にしたサービスを続々とリリースしている。こうした企業とパートナーシップを結び、新たな商品・サービスをリリースしたい。ベンチャー企業側も、当社の財務基盤や加盟店ネットワークを魅力に感じてくれている」
 ――消費者向けの情報提供事業については?
 「現状の物件情報サイトの形がベストではないという思いは、常にある。消費者の住まい探しのニーズは、さらに多様化している。昔は家を買ったら一生そこに住むのが普通だった。今は、ライフスタイルに合わせての住み替えが当たり前となり、リノベーションや高額賃貸など物件種別も多様化し、物件情報サイトの検索手段も、今までとは違う切り口で対応していかなくてはいけないと考えている」

不動産流通市場倍増へ「業界のサポーター」に

 ――インスペクションや瑕疵保険といった不動産仲介の付加価値サービスなど、不動産流通事業者に対する消費者ニーズはどんどんハードルが高くなっている。不動産流通業界の発展を支援してきたアットホームとして、どのように取り組んでいくか?
 「国は、不動産流通市場を10年間で倍増させようという目標を掲げている。その中で、不動産流通事業者が用意しておくべき商品・サービスを開発し、加盟店であれば無理なく利用できることで、業界標準としていく。当社は、これまでもこのような取り組みを、誠実に行なってきた。そこには、中小加盟店だから、大手加盟店だからという差別は一切ない。さまざまな加盟店のニーズに応えた商品・サービスを提供し、それら加盟店を結びつけるネットワーク企業として、不動産流通業界全体のサポーターであり続けたいと考えている」

鶴森康史(つるもり・やすし)

=1961年埼玉県出身。86年アットホーム(株)入社。2005年執行役員メディアソリューション事業部部長、12年取締役統括営業本部部長、16年取締役営業本部本部長を経て、同年8月より現職。

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