記者の目

2017/1/5

「バリアアリー」のこだわりの物件

盛土で地山を生かしたエコな戸建賃貸

 オーナーがこだわった物件をつくっても、物件情報サイトなどでそのこだわりを表現するのは難しい。サイトの入力形式が決まっているといった技術的な問題もあるし、そもそも不動産会社に物件の特長を理解してもらうことの困難さもあるだろう。先日、(株)リブランが手掛けたこだわりの戸建賃貸を見学させてもらったが、その難しさを改めて実感した。

「エコヴィレッジnest中台の杜」全体イメージ。カーテンを開けても丸見えにならないように各戸の窓位置をずらした細やかな設計。敷地内には幹と見立てた小道を設け、その小道からそれぞれの家に通じる動線に。スロープの勾配の基準や接道条件を満たすため逆Jの字に
「エコヴィレッジnest中台の杜」全体イメージ。カーテンを開けても丸見えにならないように各戸の窓位置をずらした細やかな設計。敷地内には幹と見立てた小道を設け、その小道からそれぞれの家に通じる動線に。スロープの勾配の基準や接道条件を満たすため逆Jの字に
植栽の様子
植栽の様子
1戸のみ、階段下のスペースに約1畳の“こもり部屋”をつくった
1戸のみ、階段下のスペースに約1畳の“こもり部屋”をつくった
各戸2階には4つの可動クロゼットを設置。部屋の内側に移動させれば、子供と大人の寝室空間をゆるく区切ることなどにも利用できる
各戸2階には4つの可動クロゼットを設置。部屋の内側に移動させれば、子供と大人の寝室空間をゆるく区切ることなどにも利用できる
2階には洗濯物干し場兼、外が眺められるインナーテラスを設けた
2階には洗濯物干し場兼、外が眺められるインナーテラスを設けた
(株)リブラン制作の物件チラシ
(株)リブラン制作の物件チラシ

四方の土地にかなりの高低差。合法的な開発が困難

 (株)リブランは2016年11月末、戸建賃貸住宅「エコヴィレッジnest中台の杜(以下、中台の杜)」(東京都板橋区、賃貸戸数3戸)を竣工。同社は、都市の中で自然の力(陽、風、緑、水)を利用して快適に住まうという「エコミックス・デザイン」を提唱しており、自然素材や屋上緑化等を採用した「エコヴィレッジシリーズ」(マンション・戸建て)を展開している。
 今回、竣工した「中台の杜」は「エコヴィレッジシリーズ」初の賃貸物件。同社では今後、音楽家向け賃貸マンション「ミュージション」とともに、土地活用提案のひとつとしてエコヴィレッジの戸建賃貸を提案していく。

 「中台の杜」の一番の特長は、勾配を生かした土地の形状だ。従前の平らな土地に盛土をし、子供たちが駆け上がって遊べるような丘を造成している。
 この物件を開発した同社建築事業部部長の樋口勝一氏によれば、「実はここの敷地は合法的に開発するには非常に条件が厳しい土地だった」ため、この敷地の形状には開発者の並々ならぬ苦労が集約されているという。

 従前の同敷地は、四方の土地の高さにかなりの高低レベル差がある中に大きな倉庫が建っていた。しかし、今回、住宅を開発するに当たって隣とのレベル差が少なくできるようなさまざまな案を検討。結果、現状、どうやっても合法的にちょうどいい高さで平らな状態にすることはできないと判明し、最終的に斜面地にすることを選択したという。盛土をしてあれこれ試行錯誤するうちに、おそらく元の地山はこうだったのだろうという起伏ある形状になったのだとか。
 なお、樋口氏は、3年間計画が進まない中で引き継いでおり、同氏が手掛けるようになってからも竣工まで3年を要している。同事業がどれほどの難関だったか想像に難くない。「『宅地造成とは平らにすること』だと、行政になかなか斜面地を認めてもらえないところからスタートし、開発・設計が進むごとに、関係各課でさまざまな課題を出されました。ダメ出しをされ、建築許可を得るために修正するという繰り返しで、まるで次から次へとゲームをクリアしていくような感覚でした」(同氏)。

土地の起伏を生かし、子供が外で遊べる戸建賃貸に

 当初の計画では、この土地に20戸ほどの2階建て軽量鉄骨アパートを建てる予定だったが、駅からも遠く賃貸アパートの需要がそれほど高くない立地と考えられ、同社は木造戸建賃貸を提案することにした。
 「ちょうどその頃、オーナーにお子さんが生まれたこともあり、賃貸でも子育てがちゃんとできる家、子供が庭でちゃんと遊べる家にしてはと提案しました。子供にとっては段差がある環境の方が面白いので、この土地の起伏も生かせます。エコヴィレッジ仕様でコンセプトがしっかりしていれば、少々駅から離れてもここの場所しかない価値を持つ、経年で家賃がそれほど下がらないような家がつくれると考えたのです」(同氏)。

 ターゲットは小さい子共がいる3人家族もしくはこれから子供が生まれる夫婦。土地の形状と地山の高低差を生かし、専有面積52.7~54.99平方メートル、木造2階建ての3戸を賃貸用に、別途オーナー宅の計4戸を計画した。
 敷地内には幹と見立てた小道を設け、その小道からそれぞれの家に通じる動線を設けた。小道は高低差のためスロープとなっており、勾配の基準や接道条件を満たすため苦心の末に逆Jの字の形に。この小道以外の敷地は、「エコミックス・デザイン」の地熱の活用という考え方から、雨水が浸透し土の保水・蒸散による冷却を利用できるよう未舗装にしており、これは同時に斜面地が原因で隣の家に雨水が流れ込むことの防止策にもなっているという。
 また、「エコヴィレッジ」は、“集まって住むことの価値”をどう創出するかを大事にしていることから、4戸の中心に、ドイツのクラインカルデンの雰囲気を意識した、皆が集える8畳程度の中庭を、その脇に菜園と水場を設けている。

こだわりの“小さな自分の居場所”“雨音が楽しめる”屋根

 各住戸は、板を切り出した無垢材の床、紙のクロスやリノリウム床材など自然素材を採用。断熱性能も省エネルギー対策等級4以上を確保している。賃貸ゆえ水回り設備のサイズが小さくなるのは否めないが、基本的には通常の「エコヴィレッジ」の戸建てと変わらない仕様を採用した。

 間取りとしては各階1室の1LDKとなるが、こだわりでいくつかの“小さな自分の居場所”を設けている。趣味の自転車などが置ける玄関土間のほか、2階には洗濯物干し場兼、外が眺められるインナーテラスを、さらに階段下のスペースに約1畳の“こもり部屋”をつくった住戸も。物件名のnest(巣)には、こうした小さな居場所を大事にしてほしいという思いが込められている。

 また、各戸2階には4つの可動クロゼットを採用。重量は各38kgで床に接する四隅にフェルトを貼り付けており、移動可能な仕様となっている。例えば部屋の内側に移動させれば、子供と大人の寝室空間をゆるく区切ることなどにも利用できる。
 面白いのは、“雨音が楽しめる”屋根。板金を用いて、わざと雨の音が響くようにしている。勾配がきついとあまり雨音がしないため、あえて屋根勾配をゆるくしたこだわりぶりだ。外壁の高い断熱性能が防音も兼ねているため、自分の家の屋根というよりは、隣の家の屋根の雨音が窓を伝って心地よく響いてくることを想定しているのだとか。

こだわり部分をチラシにどう表現するか

 さて、このこだわりの戸建賃貸の賃料は、月額12万4,000から12万9,000円。そもそも周辺に新築の戸建賃貸は少ないが、相場から若干高めの設定とのこと。実際に物件のスペックやこだわりぶりを目にすると、それほど高くは感じない。

 ただ、同物件の入居者募集に際し、チラシやHPなどの募集広告を見て思ったことは、「こだわりの物件の“こだわり部分”を従来の募集様式で伝えるのは難しい」ということ。そこにはこの物件の特長として「ハイスペックな設備。システムキッチン、バストイレ別、エアコン2基」と記載されていた。間違ってはいないが、残念ながらこの物件の魅力は伝えられていないと言える。ネットでも検索してみたが、「シャワー付洗面化粧台、温水洗浄便座、浴室乾燥機、TVモニタ付インターホン、宅配ボックス」…と設備面の記載はより詳細になってはいるものの…。
 なお、(株)リブランでは、初めての戸建賃貸ということもあり、募集広告とは別に独自にチラシをつくって見学会を実施している。「バリアアリーのチンタイできました」と書かれたそのチラシには「『バリアあります』。地山のカタチを活かし、ひとが歩くところだけ舗装しました。少し勾配は急です。ところどころ階段もあります。でも、こどもには『オレがマリオ』と言わせたい」「『雨 好きになります』。板金の屋根に雨音がひびきます」「『身近な材料つかってます』。板を切りだしたムクの床。玄関の板の壁。紙のクロス、リノリウム…etc 体にやさしい自然素材でできてます」など、物件の魅力となる特長をストレートに伝えている(画像参照)。

 ここまでのチラシをつくるのは難しいかもしれないが、実際に物件を見れば、この物件を魅力的に感じる人は必ずいるはず。他の物件とどこが違うのか、ユーザーがどういう部分を魅力的に感じるかを想像し、どうアピールすべきか、個性的な物件を募集する際にはそういう視点も必要だろう。(meo)

***

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東京・板橋に約7割が空地の戸建賃貸/リブラン(2016/11/29)

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