記者の目 / 開発・分譲

2019/1/18

減るなら作ろう「京町家」

伝統構法で新築分譲、八清の挑戦

 「ジュラシックパーク」という映画を観たことがおありだろうか?古代の蚊が吸っていた恐竜の血液からDNAを採取して現代に蘇らせる、というストーリーだ。現代の住宅産業において、まさに絶滅寸前なものに「京町家」がある。その京町家を「新築分譲」しようというプロジェクトが始まった。京町家の再生に力を入れている(株)八清が手掛ける新築京町家には、百年以上の歴史を持つ京町家のDNAが息づいている。

新築京町家「京つむぎ」完成予想図。減り続ける京町家を次代に守り継ぐための、地元企業が出したひとつの答えだ
建設中の「京つむぎ」。職人の手作業で綺麗に組み上げられた木材が美しい

老朽化、遵法性の問題で66年には「絶滅」の危機

 「京町家」とは、一般的に、「京都市市街地に1950年(昭和25年)以前に建てられた、伝統構法の建物」を指す。伝統構法自体は江戸時代から続くもので、社寺仏閣含めれば築百年超の建物も少なくないが、蛤御門の変による大火でほとんど消失し、現存する京町家は明治期以降のものが多い。
 基礎がなく柱は礎石に乗っているだけ(石場建て)、竹を下地(竹古舞=たけこまい)にした土壁、筋かいや金物ではなく柱梁(貫=ぬき)で耐力を出す、土間空間(通り間)や吹き抜け(火袋)のある細長い建物形状、などの特長がある。気密性がなく、外気を取り入れることで室内環境を整える、「パッシブデザイン」の先駆者でもある。そして、実は地震に強い。壁の中の竹古舞が揺れを受け流し、柱が石から滑り落ちることで建物自体は傷むことがない。

横架材を「隠し込み栓」と呼ぶ木の栓でつなぎとめる
柱は基礎と結節しておらず、礎石の上に乗っているだけという「石場建て」。大きな地震の際は、礎石から柱がずれ落ちるため、建物の痛みは少ない。床下空間に入りやすくメンテナンスが容易で、風通りがよいパッシブ空間としても機能する

 現代の住まいに求められる要素(快適性や間取り、設備)がなく、建築基準法施行以前に建てられていることから既存不適格建物であり、敷地形状等の理由から建て直しも難しいことで、京町家の数は激減。所有者の高齢化や相続により、空き家率も14.5%まで拡大している。リフォームやリノベーション、コンバージョンにより新たな命が吹き込まれた京町家もあるが、それはごく一部の話。2010~17年の7年間で5,600戸が滅失し、今やその数わずか4万戸。1日あたり2.2件のペースで滅っている計算だ。このペースで減少していけば、2066年には京町家は姿を消す計算となる。

 そこで「減っているなら新しく作ればいい。新築なら100年以上持つ」(西村孝平社長)と考えたのが、京町家のリノベーションとコンバージョンによる再生事業を主業としている八清だ。これまでの事業を通じ、京町家事情やその構造にも精通している同社だが、新しく作るとなると、それはそれでまた別のハードルがあったようだ。

「京つむぎ」建設地は、いわゆる「旗竿地」。細い通路はあったものの、接道要件を満たさないため解体後の「再建築」は不可だった
前面建物を取り壊せば建築は問題なくできたが、建物が京都市の歴史的意匠建造物だったことからオーナーは同意しなかった

「3つのハードル」乗り越えて

 新築分譲京町家「京つむぎ」は、京都市上京区内にある借家6棟の建替えプロジェクト。建設地は、西側を間口2.5mの道路が接し、元のオーナーがそのまま所有する母屋2棟の裏手。6棟のうち2棟は、すでに老朽化のため解体され更地になっているが、道路からの奥行が30m以上あるいわゆる「旗竿地」のため、位置指定道路で新たに4棟分の建築確認を取ることはできなかった。

 それならば、母屋ごと取得・解体して道路づけを改善すればいいじゃないか、という話になるが、母屋2棟は市の「歴史的意匠建造物」に認定されており、おいそれとは解体できない。これが第1のハードルだった。そこで同社は、「京都市の『連担建築物設計制度』を使い、この課題を克服しました」(同氏)。

 同制度は、複数の建築物を一体とみなして建築規制を適用して土地の有効利用を図るもので、元来は都市部の容積移転等に使われるものだ。同市ではこの制度を、袋路における「協調建て替え」のために運用している。今回は、道路に面する母屋のオーナーが、母屋敷地も含めた敷地全体の利用計画や建築計画に合意し、敷地全体で建築規制に適合していれば、建築許可が取れることになる。

 第2のハードルは、「建築確認申請」。構造計算が確立されている一般的な工法と違い、伝統構法は通常の構造計算が適用できない。同物件では、特定行政庁による「建築確認申請」に加え、「適合性判定機関」による構造計算(限界耐力計算)を実施している。設計図書の事前審査から本申請、交付された適合判定通知書を特定行政庁に提出し、ようやく建築確認証が交付される。事前審査から建築確認が下りるまで、3ヵ月を要したという。

 3つ目のハードルが「職人の確保」だ。京町家のリノベーションを得意としている同社だが、新たに建てるとなると、土壁職人、木工職人、竹古舞職人を長期間にわたり確保する必要があった。同社は、滋賀県の大津市まで足を延ばし、伝統構法を専門とする工務店と提携し、職人を確保したという。

建設中の「京つむぎ」の外観。一般的な在来工法の戸建住宅とは、まったく雰囲気が違う
2本の木を継いで、長い梁を作る
継いだ木がずれないように「ほぞ」を打ち込んでしっかり留める

木組み、竹古舞、土壁。すべてが職人の手づくり

 建物は、地上2階建て・専有面積約100平方メートル(3LDK)。工場で部材を揃え、設計図を見ながら現地でプラモデルのように組み立てていくプレカット工法とはまったく別物。工務店の工房で、職人が柱や梁ひとつひとつに仕口(しぐち)や継手(つぎて)を凹凸に刻みだし、現地では釘を全く使わず「ホゾ」や「コミセン(込み栓)」により、建物を組み上げていく。

 壁は竹古舞職人が編み上げた竹に、土壁職人が土を塗り上げていく。一度塗っては乾かして、その上から土壁を重ね塗り。これを数度繰り返す。

 十分な耐震性を確保するために、土台は重厚感のあるヒバを使用。一般的な木造住宅の倍近くの木材を使い、すべてを手作業で作り上げていくため、工期は実に半年に及ぶ。スケルトンは伝統構法であっても、インフィルの快適性は現代にマッチさせるため、ペアサッシなど充分な断熱対策やシステムキッチンも備えている。

壁の芯となる「竹古舞」を編み上げる職人
土壁は一度塗っては乾かし、また塗って乾かすを3~4回繰り返す
仕口同士を手作業で打ち込んで柱と梁をつなぎ合わせる

◆◆◆

 一般的な戸建住宅と価格を比べるのはナンセンスだが、材料費と工費のレベルが違うため、当然ながら割高にはなる。予定販売価格は、5,280万~5,380万円。これを高いとみるか、安いとみるかはユーザー次第だが、手入れ次第では100年以上持つ家だと考えればその価値は高い。もちろん遵法性は確保されている。

 八清の企業努力によって現代に(新築で)蘇った京町家。だが、京町家の減少ペースを同社の力だけで遅らせるのは難しい。今回のチャレンジを、単なる物好き企業の「芸」で終わらせず、日本が誇る住まいのDNAとして、京町家を作り継ぐ仕組みを官民協働で作っていくべきだろう。(J)

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2019/4/10

「記者の目」更新しました

“食”から“職”の築地へ」更新しました。
場内市場が豊洲へと移転した後も、日本伝統の「食」で外国人観光客などを魅了する築地市場。そこに3月、映像業界向けのクラウドサービスを手掛ける(株)ねこじゃらじが、クリエイター向けのコワーキングスペースをオープンしたという。「食」ならぬ「職」の場としての築地を模索しているようだ。