記者の目 / 開発・分譲

2022/4/25

小規模賃貸住宅の「共用施設」を考える

 賃貸住宅にも付加価値を高めた商品企画が求められているが、収益性の観点から小規模物件では難しいのが現実だ。そうした中、ビルの運営・管理を手掛ける会社が総戸数わずか7戸という物件で、共用施設を充実させる賃貸住宅の商品企画にチャレンジ。周辺相場よりも2割弱高い賃料ながら、短期での満室稼働を実現した。

◆ビル会社の新チャレンジ

 この物件は「ヒトトキアン飛田給」(東京都調布市、総戸数7戸)。供給したのは、都内にビルを10棟以上保有する(株)髙木ビル(東京都港区、代表取締役:髙木秀邦氏)。もともと同社は、ビルオーナー会社として敷金半額保証によるベンチャー支援や、解体予定ビルを舞台にしたアートイベントなど、新たな試みにチャレンジしてきた。少数ながら賃貸住宅の保有・管理受託も手掛ける中で、「特徴のない賃貸マンションは年月を経るごとに賃料を下げざるを得ず、賃貸経営の継続性に問題があると感じています。際立った特徴を付与することで、経年しても入居者に魅力的に見える物件を作ろうと考えました」(髙木氏)として、自社供給の賃貸物件に個性的な商品企画を練りこむようになった。

 2020年に竣工した「BIRTH IN RESIDENSE(バースインレジデンス)麻布十番」(東京都港区、総戸数17戸)は、「『働く』と『住む』の境界をグラデーションのようにあいまいにする」をコンセプトとし、 “事務所”としても“住まい”としても“SOHO”としても対応可能な整形の住戸プランとした。また、1階の共有キッチンは住民専用のワークスペースとして利用することもできる商品企画が評価されて起業家らが入居した。

◆コンセプトは「余白」

 今回、同社は「一呼吸置ける時間」や「余白」をコンセプトとしたライフスタイル提案型の賃貸住宅ブランド「ヒトトキアン」を立ち上げた。初弾物件の「飛田給」は、22年1月末に竣工。京王線「飛田給」駅より徒歩2分、同駅と味の素スタジアムを結ぶスタジアム通り沿いに建つ。敷地面積は290.31平方メートル。鉄筋コンクリート造地上4階建て、延床面積は634.12平方メートル。間取りは全戸2LDKで、専有面積は50.02~66.73平方メートル。オーナーの土地活用として建築した賃貸住宅で、1階は貸店舗となっている。賃料(共益費別)は14万~17万円。平均賃料は16万429円、平均坪賃料は9,612円と、周辺相場よりもかなり高めの設定だという。

「飛田給」駅近くに立地する「ヒトトキアン飛田給」。7戸という小規模物件ながら共用施設を充実したことで高賃料ながら短期満室となった

◆地域に足りないものをつくる

 商品企画に当たり重視したのは、「飛田給に足りないもの」の提供。「飛田給は地域の中核駅である『調布』駅と『府中』駅の中間で、子育て世帯が多い一方で、駅周辺には公園などの広場がありません。また、コンビニやチェーンの飲食店はあるものの、カフェなどの『落ち着ける空間』が足りないと感じました。そこで、入居者にほっと一息付ける空間を提供しようと考えました」(髙木氏)。

 総戸数7戸という小規模ながら、1階にコミュニティスペース「ヒトトキアン」を設けたことが、同物件の最大の特徴。面積約31平方メートルにテーブルやソファを設えたキッチン付きの空間で、住民が無料で自由に使えるスペースとして設えた。最大で10人程度が過ごせ、コミュニティ形成や、テレワークスペース、来客時の応接など、さまざまな用途に利用することができる空間として提案している。

 人同士の距離感に着目し、「誰もが心地よく過ごせる距離感」を重視した家具配置が特徴で、「本来ならば、2倍程度の人数を収容できる広さですが、あえてそうしませんでした。テーブルやソファの配置に余裕を持たせることで、皆が心地よく過ごせる『余白』の空間としています」(髙木氏)。

「ヒトトキアン」の内部。子供の遊び場として家族で利用することも
窓際のソファ席ではゆったりとした時間を過ごせる

◆付加価値高めて賃料もアップ

 こうした共用施設は、大規模物件や都心物件で採用することはあっても、郊外の総戸数10戸以下の小規模物件で採用されるケースは少ない。「8戸できる面積をあえて7戸に抑え、1戸分の面積は付加価値アップに使うことで1部屋当たり約17%、周辺相場よりも高賃料を設定しました」(髙木氏)。これまでこうした発想の賃貸住宅が近隣になかったこともあり、案内開始から3日で6戸に申し込みが入るなど、短期間で全住戸が成約。1階店舗部分も3月に申し込みが入るなど、早々に満室稼働が決まった。徐々に入居を開始しており、「ヒトトキアン」の利用も出てきているという。

 ヒトトキアンの利用ルールも「営利目的の活動禁止」「睡眠禁止」など、極力ベーシックなものとし、利用時間や利用目的に厳しい制限は設けていない。利用の予約システムなどが必要になればいつでも後付けできるというスタンスだ。コミュニティ育成イベントなどもあえて行わず、当面はヒトトキアンを自由に利用してもらうことで自然な棟内コミュニティの形成を目指す。「この施設を介在して棟内コミュニティが育まれ、物件への愛着につながれば嬉しい。例えば、入居者の子供が成長するにつれて、遊び場から勉強場所へとこの場所の使い方も変化していくでしょう。そうした住民と共に変化していく共用施設にしてもらいたい」(髙木氏)。経年して役割が変わり、ヒトトキアンが必要なくなったと判断すれば、改修して店舗として貸し出すこともできるよう、プランも工夫した。

 また、ヒトトキアンの脇には各住戸専用のトランクルーム「マイクラ」を設置。季節家電などをしまっておけるほか、電源も設置しているので個室テレワークスペースとして使うこともできる。集中して作業したい時などに便利な空間であり、単純に荷物置き場とするなど自由に使える空間だ。物件選びの決め手になった入居者もいるという。

ヒトトキアンに隣接する「マイクラ」は、多目的に使える収納空間として各住戸に専用利用してもらう

 髙木氏は今後5年以内をめどに、「ヒトトキアン」ブランドでの賃貸住宅供給を数棟行なっていく方針。オーナーの土地活用と自社開発の両輪で展開していくが、地域の事情に合わせて企画することから、一般的な資産運用商品としての賃貸マンションとは一線を画したものとなっていくだろう。「当社はビル会社として、日ごろから『働く』ための空間づくりや仕組みづくりに腐心しています。コロナ禍でテレワーク等が一般的になった現在、賃貸住宅にも『住む』だけでなく、『働く』視点が重要になっており、その点で当社の得意分野が生かせると考えています。人が起きて活動している時間すべてを快適に・心地よく過ごせるような空間づくりをしていくことが重要です」(髙木氏)。

◇◇◇

 同物件では、魅力的な共用部をつくることで需要に応えつつ、その付加価値を賃料に反映させ、周辺よりも2割近く高い賃料でも短期間で満室稼働となった。

 コロナ禍で市場ニーズが変化し、住まいに「働く場」や「サードプレイス」を設ける動きは加速していくと考えられる。分譲マンションや戸建住宅ではすでにそうした商品企画は当たり前になってきた。賃貸住宅でも共用部にワークスペースを設けた商品企画が目立ってきているが、そうした物件は都心部や大規模なものが多く、郊外の小規模物件でそうした施設を作っているケースは極めて少ない。収益性が問われる賃貸住宅で、1戸分減らして共用部を充実させるのは勇気がいる。

 今回の取り組みはそうした意味でも意欲的なものだ。地域性を商品企画に反映させているため、他の地域でそのまま再現するというのもなかなか難しそうだが、「地域に足りないものをつくる」というコンセプトは賃貸集合住宅の共用部の在り方を考える意味で非常に重要になるだろう。(晋)

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