記者の目

2023/3/10

地域で奮闘する「特命空き家仕事人」

放置されていく空き家を何とかしなければ!

 新潟県のほぼ中央に位置する自然豊かな三条市。古くから刃物を中心とした金属加工のまちとして、そして全国有数のものづくり産業の都市として発展してきた。その三条市で、「特命空き家仕事人」として空き家問題の解決に取り組んでいるのが、(株)ジェクトワン(東京都渋谷区、代表取締役:大河幹男氏)から派遣された熊谷浩太氏。なぜ、東京の民間企業の社員が三条市の空き家問題に関わることになったのだろうか。

◆「地域活性化起業人制度」を活用し、三条市に人材を派遣

 いまや全国的な社会問題となった空き家問題。同市は「空家等対策の推進に関する特別措置法」施行に先立ち、13年に独自の条例を施行し、空き家問題に取り組んでいた。
 ところが、総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」で、三条市の空き家総数は4,450戸、うち「その他の住宅」が42.7%(1,900戸)を占め、このまま放置すると2030年には2,375戸に増加してしまうという試算が出た。この数字を目の当たりにした同市は、「住み手が見つからないまま放置される空き家をこのまま何もしないで増やし続けてはいけない」とさらなる危機感を募らせ、より踏み込んだ対策を講じることに。それが「特命空き家仕事人」の受け入れだった。

「特命空き家仕事人」の熊谷氏。公民館など11ヵ所に設置した空き家相談ボックスの利用を呼びかける

 ジェクトワンは、空き家を所有者から借り受け、リノベーションして希望者に貸し出す「アキサポ」事業を推進しており、空き家情報800件、問い合わせ総数5,014件、活用事例100件超(23年2月現在)という実績を持つ。
 同市と、空き家活用で定評のあるジェクトワンは、22年4月に総務省が推進する「地域活性化起業人制度」(※)を活用し、ジェクトワンから三条市へ空き家対策を推進する人材を派遣する協定を締結。同社社員の熊谷氏が、三条市役所に派遣され、22年5月より同市の空き家問題に取り組んでいる。
(※)地方公共団体が民間企業等の社員を一定期間受け入れ、ノウハウや知見を生かしながら地域の価値向上につながる業務に従事してもらい、地域活性化の取り組みを進めるもの。

◆メディア出演、イベント、空き家相談会 etc.

 「空き家は『何もしない』『何となく持っている』というのが一番危険。三条市は上越新幹線の停車駅で、産業が発達した都市として知られていますが、それでもまちなかには空き家が存在し、山村地域にはそれ以上に多く見られます。実際に身を置くことで、『何とかしなければ!』という気持ちが強くなりました」と同氏は話す。

 同氏は、まず空き家の所有者、利用(予定)者に“空き家の現状を知ってもらう”ことをミッションに掲げ、情報発信活動に着手した。

 地元新聞への掲載9回、空き家セミナー開催4回、ラジオ出演5回のほか、地域住民とともに商店街の空き店舗をDIYで生まれ変わらせるイベントや、空き家で利活用のアイディアを出し合うイベント、マルシェなどのイベントを10回開催。マルシェには約8,000人が来場し、各イベントの様子はYouTubeでも配信している。三条市の空き家相談窓口による「空き家相談会」も開催、同市のホームページ内には空き家コンテンツも充実させた。

空き家利活用のアイディアを出し合うワークショップを実施。見学会やイベントを通して、空き家活用を学ぶ機会を設けている
空き家めぐり、キッチンカーや雑貨屋の出店でにぎわったマルシェの様子

 「イベントに参加された方からは、『空き家って意外に使える』『自分の所有する空き家も活用してもらおうかな』といった声が。私の顔や“特命空き家仕事人”であることも知っていただき、『熊谷さんに相談してみよう』という方も少しずつ増えています」(同氏)。

 同氏が着任してから23年1月までの約9ヵ月間で、空き家相談件数125件(21年度30件)、空き家バンク登録件数45件(同16件)、空き家流通件数18件(同15件)という成果をあげている。

◆まちにダイブして“何が必要か”を知る

 「最初のミッションである“種まき”の段階を終え、現在は移住・定住者をいかに増やしていくかが課題」(同氏)とし、22年10月には、燕三条エリアの空き家利活用の促進を目指し、熊谷氏はメンバーの1人として、地元の建築会社や設計事務所、ソーシャルデザインを手掛ける企業とともに、(一社)燕三条空き家活用プロジェクトを設立した。
 空き家活用事業や空き家イベント、空き家予防保全事業を推進することを目的とし、設立にジェクトワンの社員が参画していることから、同社は「出資型空き家地域課題解決事業」として空き家活用第1弾に出資し支援する。「東京に本社を置く企業と地場の企業が、空き家対策で連携協力体制を築いていくモデル事業となることを目指したい」(同氏)としている。

 同法人の空き家活用第1弾プロジェクトが、チャレンジショップを中心とした複合交流拠点「三(みー)」。住宅部分約16年、店舗部分約3年空き家だったという、築35年の店舗兼住宅をリノベーションし、2月12日にオープンした。「東京在住の同物件所有者から『まちを盛り上げるために使ってほしい』との要望があり、アキサポのノウハウを用いて地域交流拠点に再生しました」(同氏)。

 1階は、古着店、シェアバー、プリン店などの小売店や飲食店をはじめ、コミュニティ通貨(電子地域通貨)サービス「まちのコイン“めたる”」の拠点、2階は移住体験希望者用のゲストハウス、3階は移住者向けの住宅からなる。「燕三条で新規事業に挑戦する出店者とともに、地域住民や地域外から来た人たちとの交流拠点として発展し、燕三条の玄関口の役割を担っていけるようになれたら」(同氏)。

 一方、「移住促進住宅プロジェクト」にも着手。移住希望者があっても賃貸物件が少ないという現状を打破するため、山間地域にある築100年超の空き家(古民家)のリノベーションに乗り出した。

築100年超の空き家を移住希望者の住まいにリノベーション(工事前の外観)
間取りは従前の8Kから6LDKに変更する(上の図)。設備を刷新し、コミュニティスペースも設ける

 同物件から車で10分ほどの距離には温泉施設やキャンプ場があり、近くには五十嵐川が流れている。また、建物に隣接している竹藪では山菜やタケノコが採れ、敷地内には家庭菜園ができるスペースを設ける。間取りは現在の8Kから6LDKに変更。家賃は4万円、別途管理費と敷金が必要となる。4月から5月上旬の入居開始に向け、現在は入居者を募集しているところだ。

◆   ◆ ◆

 「いくらお金をかけてオシャレな物件に再生しても、エリアに住む人たちの特性やニーズに合っていないと意味がない。“何が求められているのか”を知るため、もっとまちにダイブして地域の方たちと会話し、情報を収集していくことが必要ですね」と同氏。今後は地域の商工会や地元の不動産会社との連携を深め、また全国で空き家流通のプラットフォームを運営している事業者などとも手を結び、空き家活用を推し進め、移住促進や地域活性化にもつなげていきたい考えだという。

 空き家の増加は、多くの地域で深刻な問題となっている。しかし、「空き家なんて自分には関係ない」と考え、なかなか身近な問題として捉えられないのが現状だろう。
 急な転勤や引っ越し、(両親の)施設への入所、相続などをきっかけに、自分もいつ「空き家所有者」になるか分からない。まずは「自分事」も、空き家問題に向かい合う上で大切なのではないだろうか。

 特命空き家仕事人・熊谷氏の挑戦はあと2年。同氏を中心とした活動がどうまちを変えるのか、今後も注目していきたい。(I)

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