記者の目

2023/4/3

「秀和レジデンス」に愛を込めて

 「青い屋根」「白い壁」「アイアン柵のバルコニー」と言えば、1960年代から80年代にかけて東京を中心に供給された「秀和レジデンス」。その個性的なデザインから、初弾物件の供給から50年以上が経過した今でも既存マンション市場では人気の高い物件だ。そんな「秀和レジデンス」にほれ込み、専門的に取り扱うサービス「秀和レジデンスマニア」を展開しているのが、(株)Style&Deco(東京都渋谷区、代表取締役:谷島香奈子氏)だ。代表取締役の谷島氏は秀和レジデンスについての書籍を著すほど秀和にのめり込んでいる。同氏に「秀和愛」を語っていただいた。[写真提供:(株)Style&Deco]

◆「白い壁と青い屋根、アイアン柵のバルコニー」

 「秀和レジデンス」とは、秀和(株)(2005年に解散)が供給した分譲マンションシリーズで、初弾物件は、区分所有法制定の2年後、東京オリンピックが開催された1964年に竣工した「秀和青山レジデンス」(東京都渋谷区)だ。当時は、まだ秀和レジデンスのイメージである「青い屋根」などはなかったが、駒沢オリンピック公園総合運動場体育館や東京芸術劇場を手掛けた建築家の芦原信義氏が外観デザインを手掛けた。「青い屋根・白い壁・アイアン柵のバルコニー」といったいわゆる「秀和的なデザイン」は実は1967年竣工の秀和外苑レジデンス(東京都渋谷区)が最初なのだそう。いまでこそ当たり前となった「管理組合」や「住宅ローン」を生み出したのも秀和だと言われており、日本の不動産史においても重要な位置を占めているマンションシリーズで、供給会社の解散から20年近くが経過した今でもファンの多い既存マンションでもある。

いわゆる「秀和的デザイン」の先駆けとなった「秀和外苑レジデンス」の外観

 そんなファンの多い秀和レジデンスに強烈に魅了された人物が、自ら経営する不動産会社のホームページに、秀和物件を集めた総合情報コンテンツ「秀和レジデンスマニア」を開設した。その会社は(株)Style&Deco(スタイルアンドデコ、東京都渋谷区、代表取締役:谷島香奈子氏)。同社は不動産仲介からリノベーションの設計・デザインまでワンストップで手掛ける「EcoDeco(エコデコ)」事業を中心に、幅広く事業を行なっている。

 同サイトには、首都圏の秀和レジデンスを紹介した「秀和レジデンス図鑑」、秀和レジデンスの売買・賃貸物件、居住者インタビューを掲載。特に「図鑑」は、一棟一棟、ていねいな取材で紹介。首都圏の秀和レジデンスをほぼ網羅しており、「秀和レジデンスに住みたい人」にとっては非常に参考になるコンテンツになっている。

◆「お城みたいな」外観に一目惚れ

 「秀和レジデンスマニアは、好きが高じてつくったサイトです」と語る谷島氏。同氏自身、秀和レジデンスが好きで、住んでいたこともあった。同氏と秀和レジデンスの出会いは、同氏が故郷の佐賀から起業しようと上京してきた十数年前にさかのぼる。もともと、佐賀県で化粧品販売の会社に勤めていた同氏。20歳代半ば、起業するために上京し、まちを歩いていた時に初めて秀和レジデンスを見て、その白い壁・青い屋根・アイアン柵のバルコニーに、「ヨーロッパのお城みたいな建物が日本にもある!」とひとめぼれ。「子供のころ、ビックリマンシールが好きで、集めていました。秀和レジデンスと出会った時に同じようなときめきを感じ、物件の情報や写真を集めようと考えました」(谷島氏)。同氏は、秀和レジデンスの魅力について、「昔のマンションなので、エントランスがすごく凝っていたり、物件ごとに細かなモチーフが違ったりと、非常にていねいに、遊び心も満載で作りこんであります」と語る。

エントランスのタイルの形状など、物件ごとに細かな点が異なるところも秀和レジデンスの魅力だ

 秀和レジデンスマニアを開設したのは2010年のこと。「趣味の延長として運営したのですが、コンテンツを見て共感してくれたお客さまにご来社いただけて、すごくうれしかった覚えがあります」(同氏)。同コンテンツでは、秀和物件に限定した売買・賃貸仲介・リノベ・買い取り再販などを展開。月に1件ほど、同コンテンツを経由した何らかの取引を行なっている。専従の担当者は置いておらず、東京の本社に所属する7人の社員が取引内容に合わせて担当している。谷島氏は、秀和レジデンスのリノベーションのポイントについてこう語る。「いくら素敵なマンションといえど、古いマンションであることに変わりはありません。配管や断熱性についてはきちんと手間をかけて強化すべきです。それが基本となります」。

◆「秀和マニア」の決定版の一冊も

谷島氏が共著した「秀和レジデンス図鑑」の表紙

 同氏は22年、同じ秀和レジデンス好きのhacoさんとの共著で「秀和レジデンス図鑑」((株)トゥーヴァージンズ)を上梓した。秀和レジデンスの歴史、134棟の物件紹介、居住者へのインタビューなど、秀和レジデンスファンにとってはたまらない内容だ。塗り壁やアイアンを使ったアート、実は「緑」や「茶色」もある瓦屋根など、秀和レジデンスが持つ魅力を豊富な写真と共に紹介しており、同氏の「マニア」としての集大成のような仕上がり。中には谷島氏の自宅を題材にしたリノベーションのポイント解説などもあり、ビジュアルとして見るだけではなく、これから秀和レジデンスに住みたいと考える人にとっても実用的な一冊となっている。秀和レジデンスのファンでなくても読みごたえがありそうだ。

◆老朽化が問題に、管理組合同士をつなぐ

 同氏はこれから、管理組合同士の情報交換など、建築文化としての「秀和レジデンス」の維持に向けた活動をしていきたいと語る。一時代を築いた秀和レジデンスも、多くが建て替えや大規模修繕などを考える時期にあり、第一号物件の「秀和青山レジデンス」はすでに建て替えに至り、25年にタワーマンションとして新たな命が吹き込まれる。また、建て替えに至らずとも、築50年を経た秀和レジデンスの管理組合が「次の50年」を見据えて修繕計画を練っていることも多いのだという。「築年を重ねる中で、秀和レジデンスもこれから建物をどうするか考えなければなりません。しかし、権利関係が複雑化しているものも少なくないため、建て替えや大規模修繕に向けた合意形成が難しいというのが実情です」(同氏)。

 そうした中で谷島氏は、管理組合同士による情報交換のサポートも行なっている。「『秀和レジデンス図鑑』の取材をする中で、多くの管理組合理事長と出会いました。ある理事長が『管理組合同士のつながりがない』と悩んでおられました。そこで、似たような悩みを持つ別の管理組合の理事長を紹介したことがあります。理事長の中には、秀和が好きで、秀和という建築文化をできる限り長く生かしたいと思っている人が多い。同じく秀和を愛する者として、そうした管理組合の理事長さん同士をつなぐことで適切な情報を秀和の管理組合が共有できればいいなと思います」(同氏)。秀和レジデンスがビンテージマンションとして魅力を発揮し続けるためのサポートに今後も力を尽くしていくつもりだという。

◇  ◇  ◇

 高度成長期を支えたマンションともいえる秀和レジデンス。谷島氏の執筆した「秀和レジデンス図鑑」を読むと、今でもファンの多い理由が納得できる。すべての物件での「造り込み」が非常に魅力的だ。しかも一つひとつの物件ごとに異なる魅力がある。いま、ここまで個性を発揮するマンションが供給できるかというと、ディベロッパーにとってはコスト効率やユーザーの好みといったさまざまな理由で難しいと言わざるを得ないのだろう。だからこそ、築50年超になっても色あせない魅力が「秀和レジデンス」にはあるのではないか。(晋)

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