記者の目

2023/8/15

修繕積立金が足りない!

「レクセルガーデン北綾瀬」管理組合の改革

 2022年4月、良質な管理を行なっているマンションが市場で正しく評価されることを目的に、「マンション管理計画認定制度」と「マンション管理適正評価制度」がスタートした。マンションの資産性を評価する一要素として「立地」や「建物仕様」が挙げられるが、居住快適性の維持や劣化防止のための「管理力」が、ここにきて大きくクローズアップされている。  今回は、ある出来事を機に管理組合の運営を見直し、“管理良好マンション”への足掛かりをつくった管理組合の取り組みを紹介しよう。

◆資産性向上には「管理力」がモノをいう

 鉄筋コンクリート造地上9階建ての分譲マンション「レクセルガーデン北綾瀬」(東京都足立区、総戸数28戸)は、08年1月の竣工。
 住宅診断(ホームインスペクション)やマンション管理組合向けコンサルティングを手掛ける(株)さくら事務所(東京都渋谷区、代表取締役社長:大西倫加氏)が提供するサービス「FACTORS4-マンション資産性レポート」によると、「管理状況」の要素(ファクター)において、ほぼ満点(25点中24点)を獲得しているという。

築15年、総戸数28戸の「レクセルガーデン北綾瀬」外観。立地や建物仕様に比べ「管理状況」の評価が高い

 同レポートは、「立地」「建物仕様」「管理状況」「相場妥当性」という4つの要素で、複合的にマンションの資産性を評価するもの。これについて、同社執行役員・不動産コンサルタントの山本直彌氏は、「この4つの要素の中で、唯一変えられるものは“管理状況”のみ。これまで『マンションは管理で買え』と言われてきましたが、実際にはマンションの資産性を評価する上で“管理力”に目が向けられることはあまりありませんでした。しかし、『管理を評価する』制度がスタートし、普及するにつれ、今後はマンション購入検討者が“管理状況”を重視する時代となるのでは」と話している。

 今でこそ、管理面で高評価を得ている同マンションだが、数年前までは深刻な問題を抱えていた。1回目の大規模修繕工事を控え、修繕積立金がまったく足りていなかったのだ。
 「このままだと大規模修繕ができない。何とかしなければ…」と立ち上がったのが、新築時から管理組合の理事を務めていた後藤謙治さん。17年に理事長となり、組合運営の改革に着手した。

◆「段階増額方式」から「均等積立方式」に変更

 同マンションでは、修繕積立金の徴収方法を「段階増額方式」としていたが、3年ごとに増額されるはずの積立金がこれまで一度も上がっていなかった。そのせいで、竣工から12年後の大規模修繕工事(1回目)を行なうための積立金が2,000万円ほど不足していたのだ。
 「まずは安心・安全に住みたい。そして、売りたいとき、貸したいときに相場の水準で売買、賃貸できるよう資産価値を維持していきたい。私が理事長になったとき、この2つを実現させたいと強く心に決めました」と、後藤さんは当時を振り返る。

 この実現のためには、適切な修繕が不可欠となる。しかし、ただ「足りないから積立金を増やす」と言ったところで、組合員から反発されることは火を見るよりも明らかなことだった。
 そこで、まずは支出の見直しから始めることに。「まずは理事会がどれだけ頑張ったのかを示さないと、合意を得ることはできないと思いました」(後藤さん)。

 最初に見直しを行なったのは、照明のLED化。さらに植栽の業者変更、不要な設備の撤去も行なったが、エレベーターの保守業者の変更が支出の大幅減につながった。
 「もともとセットアップされている業者から変更するという英断ができる管理組合は少ない」(山本氏)というが、理事会で契約内容を見直し、保守方針を定め、メーカー系のメンテナンス会社から独立系へと変更した。

 これらを行なった上で、さくら事務所に協力を仰ぎ、大規模修繕計画の大幅な見直しを行なうこととした。
 積立金増額のタイミングを先延ばしにしていたこともあり、これまでの「段階増額方式」から「均等積立方式」へと変更。均等式であれば、値上げのたびに揉めることはないし、合意形成を行なう手間を省けると考えた。計画周期を30年→60年とし、修繕周期も12年→15年へと長期化。徹底的なコストの見直しを行なったことにより、積立金はこれまでの約2倍にはなったが、1平方メートル当たり月280円という金額に抑えることができた。ちなみに、国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」によると、20階建てのマンションは、1平方メートル当たり月252~335円が平均値とされている。

17年から理事長を務めている後藤さん。大規模修繕工事費が足りないという危機意識を全組合員で共有し、組合運営の見直しを図った

 理事会では、まず現状の把握と危機意識の共有を図った。「この先、きちんとした修繕ができないと生活に支障をきたすかもしれないし、資産価値も落ちていく一方になると伝え、“ここまで頑張ったんですが、まだ足りない、だから積立金の値上げが必要なんです”と説明しました」(後藤さん)。
 理事長就任から2年の間、組合員一人ひとりに説明を繰り返し、ようやく合意形成が得られた。理事会の決議を経て、新たな大規模修繕計画が実行されることに。さくら事務所の判断を仰ぎ、1回目の大規模修繕工事の時期を12年→14年にずらし、昨年無事に工事を終えたという。

◆管理組合運営をスムーズに行なっていく秘訣とは…?

 理事会の役員を担うのは、長くて2年、短ければ1年というのが一般的。「自分が任期中のときに、あえて大変な役割を引き受けて嫌な思いをしたくない」と、誰しもが思うだろう。しかし、そのツケは後々回ってくる。この事例のように、修繕積立金の値上げでカバーしていくしかない。結局は、自分たちの首を絞めることになってしまうのだ。
 「“自分が引っ張っていく”というリーダーが現れたことは大きい。もし、計画を変更するという決断が10年遅かったら、1平方メートル当たり280円の金額はあり得ない。自身でしっかりと問題意識を持ち、その危機感を皆に芽生えさせたリーダーがいたことが、組合運営改革を成功に導いた大きな要因」と、山本氏は話す。

 一方、後藤さんの言動から、組合運営をスムーズに行なっていく秘訣についてまとめてみた。

●考えを「見える化」する
何事も(理事長)一人で決めない、完結させないこと。いま考えていること、「こうしていきたい」という思いを、(議題に挙げる前に)役員だけでなく組合員、管理会社のフロントマンなどにも話すことが大切。「安心して住めるマンションにする、資産価値を維持していきたいと、皆で取り組むことが大切」と後藤さん。理事長になって6年目、周りの人をどんどん巻き込むことで、独断専行やマンネリ化といった弊害をなくすことにもつなげているという。

●結局は“自分のため”
「誰かのためにやる」という気持ちでは、モチベーションは継続できない。結局は“自分のため”になると思って取り組むことが必要だと話している。

◇   ◇ ◇

 「最初は管理組合の仕事に興味が湧かなかった」と後藤さん。問題意識を持ち始めてから“自分たちのマンションは自分たちで守らないと”という気持ちが醸成されていったという。
 どんなに小さなことでもいいから、できる範囲で参加してもらいたい。組合活動は同じ“家”に住む仲間と一緒にやるもの。楽しめる範囲で“自分のため”に取り組めば、いい方向に進むのでは…と後藤さんは話す。

 マンションの資産価値を変えられるのは“管理”のみ。この言葉がとても印象に残っている。
 「レクセルガーデン北綾瀬」の場合、今は他のマンションと比較して“資産性”に差は見られないかもしれないが、5年後、10年後と、年月が経つにつれ“管理力”が際立ち、その差は顕著になってくるのではないだろうか。(I)

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