記者の目 / 開発・分譲

2023/8/18

「間取り」という考えを無くす

マンションと「ライフスタイルの変化」との戦いを振り返る

 マンションは、その歴史の中で「居住者のライフスタイル変化」と常に戦い続けてきた。床面積や部屋数に限りがあるマンションは、コストをかけず間取りを抜本的に変えることは難しい。マンションディベロッパーは、様々な手を考え、ライフスタイルに合った室内空間を、できるだけコストをかけずに実現する手段を提案し、ついに「間取り」という概念を否定するマンションまで登場した。ライフスタイル変化を巡る、マンションディベロッパーの戦いの歴史を振り返ってみた。

マンションの間取りとライフスタイルの変化との戦いは続く。(柔軟に間取りを変えられ、「間取りがない家」を謳う、伊藤忠都市開発の「クレヴィア西葛西」)

カギは「可動間仕切り」と「可動収納」

 「絶対的な広さ」という制約を別にすれば、マンションの間取りは容易に変えることができる。スケルトン・インフィル(SI)で作ればいいだけだ。SIなら、部屋数と配置はおろか、キッチンや浴室などの水回りも自由に位置を変えられるが、当然建築コストは跳ね上がるし、リフォームコストもかかる(そう考えると、和室2間+襖+ちゃぶ台で、ダイニング、客間、寝室を自在に使い分けるかつての日本の住まいは、なんと素晴らしいことか!。本コラムではあくまで余談としておく)。

 といった事情から、マンション間取りの可変性を高める提案は、水回りは固定しつつ、残りの床をどのように使い分けるかがカギとなってくる。そのためのツールも、実はここ数十年変化がない。ひとつは「可動間仕切り(スライディングウォール)」、もうひとつが「可動収納」だ。

 可動間仕切りは、1つの空間を連続する引き戸で間仕切りし、その引き戸を開閉することで、必要に応じ空間を変える。多くの場合、リビングと隣り合う居室の間に用いられ、今では多くのマンションで「無償オプション」として提供される。引き戸を開け閉めするだけなので、ライフスタイルによる変化だけでなく、日常時の空間使い分けに重宝する。可動収納は、場所が固定される(=空間を分ける)収納を、自由に動かせるようにしたもの。耐震性を確保するため、天板と底板がストッパーとなり固定する。中にモノが入っていなければ意外に軽く、梁や扉、天井照明に干渉しなければ、どこにでも動かせる。

 可動収納こそ1台十数万円とまだまだ高いが、可動間仕切りは今や無償オプション扱いであり、コスト面でもこの取り合わせがベストなのだろう。ほとんどのマンションは、この2つのツールにさらなる工夫を加えて、ライフスタイルに合わせた空間の使い分けを提案してきた。これから紹介する物件は総じて売れ行きも好調だった。こうした工夫が、多少コストアップになってもユーザーにしっかり支持されている証左だろう。

キッチンも移動できるマンション

 (株)コスモスイニシアが2014年に発売した「イニシア武蔵新城ハウス」(川崎市中原区、総戸数124戸)では、リビングに隣接する8畳大の空間を、可動収納2つ+可動間仕切りで使い分ける提案を行なった。ボイドスラブ工法で室内に梁が出ないことで収納を自由に動かせ、可動間仕切りはセンター開きとして、この空間とリビングとを合わせた空間を、自由に使うことができる。

「イニシア武蔵新城ハウス」の可変間取り。可動収納は動かすことで、リビングと一体として使う、1部屋+クローゼット、ゆるくつながった子供部屋2室など、さまざまな用途向けに空間を使いこなせる。LDKも含めた空間は一切梁が出ていないので、可動収納をリビング側に寄せることも可能(さすがに廊下は通れないが)

 SI住宅ほどの可変性はないものの、キッチンの位置も含めた間取りの変更を可能にした提案が、三井不動産レジデンシャル(株)が15年に発表した「イマジエ」だ。

 トイレと浴室こそ固定だが、それ以外の空間には一切の仕切りがない空間を、9種類の可動収納で自由自在に仕切る。(株)長谷工コーポレーション等と共同開発したキッチンは、床の数ヵ所にある、給排水管と電源の「ピット」に接続して使うことで、住戸内の約2分の1の範囲で動かせる。照明もレール上で自由に位置が決められ、可動収納を買い増すことで空間利用のバリエーションは無限に広がるという提案だった。

「イマジエ」の概念図。風呂とトイレ、洗面所の位置は固定だが、残りの空間は可動収納で自在にレイアウトが可能。また、床面積の約半分にあたる「コアゾーン」であれば、キッチンすら動かすことができる
イマジエのために開発した「動かせるキッチン」。ガスは使えないためIHで、当然ながら「換気扇」も付いている。取材時に価格も聞いたが、びっくりするくらい高額だった(特段高級な仕様ではないにも関わらず、という意味で)
キッチンを接続するピットは、コアゾーンに数ヵ所設置。この上にキッチンが乗ってさえいれば、あとは自在に配置が可能

 ただ、建築コストが付加価値に見合わなかったからか、残念ながらまったく普及しなかった。

コストかけずに空間可変。爆発的普及

 「普及」という意味で、現時点でもっとも成功している間取り可変の提案が、(株)長谷工コーポレーションが17年に開発した「UGOCLO(ウゴクロ)」だ。いわゆる「田の字プラン」住戸の縦に並んだ2室の間仕切りを取り払い、その間に縦方向にだけ動く可動収納ユニットを2つ挟み込んだもの。ユニットを別々に動かすことができ、上下2つの居室の広さと、可動収納間の空間を自在に変化させる。2つの部屋の扉が干渉するため、可動範囲は数メートルだが、想像以上に多様な空間づくりが可能だ。

「ウゴクロ」ユニット。縦方向に動く収納2つが1ユニット。中間部分は扉だが、棚板を跳ね上げることで収納にもなる
「ウゴクロ」を使ったライフスタイルの変化に応じた間取りの提案。可動範囲は縦2部屋の中間部分だけだが、想像以上に多様な空間が実現する

 最大のメリットは「コスパ」だ。開発当時の採用コストは、戸当たり約30万円。誕生から6年、量産効果も出てきた今は、さらに下がっているはずだ。今では、同社が施工する大規模マンションでは、必ず1スパンか2スパンは用意されるまでになった(建築費高騰の折、最近は採用が減っているような気も。デベロッパーの良心が問われる)。

そして真打「間取りのない家」登場

 さて、これら空間可変の最新提案が「間取りのない家」という挑戦的なキャッチコピーとともに23年に登場した、伊藤忠都市開発(株)の分譲マンション「クレヴィア西葛西」(東京都江戸川区、総戸数49戸)だ。

 実は同社、かなり前から、「間取りのない家」を構想していた。18年には、仕切りを自在に可変することで理想の間取りをつくる「SWITCH PLAN」を「クレヴィアタワー大井町 THE RESIDENCE」(東京都品川区、総戸数136戸)の一部住戸に、有償カスタマイズプランとして提案。この物件では、LDを可動間仕切りに、寝室の扉をロールスクリーンとして、住戸全体をひとつにつなげて使えるようにしていた。

 「西葛西」の「間取りのない家」は、3LDK39戸に採用したもの。可動間仕切りと可動収納を組み合わせた仕組みは、他社の提案と変わらないが、その可動間仕切りに、ちょっとした工夫が凝らしてある。他社の可動間仕切りは直線方向だけしか動かせないが、「間取りのない家」のそれは、T字型に組まれている。これにより、LDKと隣接する2つの洋室を(1)ウォールドアをすべて収納し広大なLDKとする、(2)(3)洋室一つとLDKをつなげて使う、(4)洋室2つを1部屋にする、(5)すべて独立した部屋として使う、と使い分けができる。

「間取りのない家」のベース間取り。縦に並んだ3つの洋室の床が強化されており、可動収納はその範囲を自由に移動できる。また、LDKと2つの洋室を仕切るウォールドアを動かすことで、リビングの広さやレイアウトが変えられる
「間取りのない家」の可動間仕切りは、T字に組み合わせているのがミソ
この物件に限らないが、可動収納は天地でユニットを押さえる構造のため、天地一杯のサイズがあり、収納力も高いメリットがある

 3つの洋室とファミリークローゼットの床は強化され、可動収納はその範囲内であれば自由に位置を変えられる。収納はすべて横並びにすると、それ自体が間仕切りとなるし、どちらかの壁際に寄せこむことで3部屋+クローゼットの空間が一つになる。

 おなじみの間取り表記をするならば、1LDK~3LDKまで自由に間取りが変わると言えるし、収納で仕切られた空間を「一つの部屋」とみなせば、4LDKとも5DKとも言える。「間取りがない」と銘打つゆえんだ。非採用住戸との単価差もない。

◆        ◆     ◆

 nLDKという概念ができたのは、戦後の公団住宅と言われる。それから半世紀以上が経ち、「リビング」「ダイニング」「寝室」など、空間に特定の機能を与えることは、今どきのライフスタイルからすれば、もはやさほどの意味がないのかもしれない。「間取り」の概念が限りなく無くなりつつあるマンションは、これからどう進化していくのか。自由な住まい方を実現する新たなツールはあるのか。興味は尽きない(J)

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