原油価格が下がっているのに日本のガソリン価格は右肩上がり…の背景について、解説いただく回の後編。経済ジャーナリストで、月刊不動産流通で「不動産事業者と地域金融機関のWin-Winな関係に向けて」を連載中の佐々木城夛氏に分かりやすく解説していただきます。
◆上昇するガソリン価格に政策対応も
‐‐ガソリン価格の上昇に対し、政府では補助金を出していますね。
「はい。『新型コロナからの経済再生を後押しするため、燃料油の卸売価格の上昇を抑制すべく石油元売に補助金を支給する』という考え方に沿ったもので、正式には「燃料油価格激変緩和対策事業」という長い名前が付けられた制度のもと、補助金が提供されています。
この制度は、
1. 発動される基準価格
2. 補助金の上限額
3. 補助金の上限額を支給してもなお基準価格を上回る箇所(上限超過分)への支給額
が混在した作りとなっています。
22年1月24日の全国平均ガソリン価格が170.2円となり、当初に設定していた基準価格である170円を超えたことから、最初の発動に至っています。
実際の店頭価格は、元売からの仕入値に経費や利益を上乗せして販売されます。よってあくまで大まかな傾向なのですが、販売価格と補助金を合算した数値の推移を追うと、特に補助を段階的に縮小している6月以降は販売価格が基準価格を上回っています。補助の効果が弱まった分、小売価格が上昇しているという関係が認められるのです。」
◆大きい税負担…二重課税も解消されず
‐‐そうなると、補助金の支給が延長されるのでしょうか。
「複数のアナリストが『このまま機械的に打ち切れば、1リットル200円超えもある』といった見解を公表していることもあり、たとえ形は変わっても、補助等自体は続くのではないかと思います」
‐‐ガソリンについては、税負担も大きいですよね。
「そのとおりです。税制自体が複雑なので、少し説明させてもらいますね。
2008年3月の暫定税率の期限切れと5月の再可決を経て、2010年3月に租税特別措置法が改正され、期限を定めない特例税率が適用され続けています。
支払いベースで言えば、この改正によって地方揮発油税と揮発油税が1リットル当たり25.1円が上乗せされ、課税総額が56.6円に達したわけです。それを含む価格に、さらに消費税が課税されています。結果として、1リットル当たり60円以上が、税金として徴収されているわけです」
‐‐もともと税金を含んでいる価格に10%が課税されているわけですか?
「そのとおりです。いわゆる二重課税であり、多くの国で問題となっています。わが国での事象では、ごく大まかに言って4種類くらいに分類することができます。ガソリンについては、実際に税金を負担する者(担税者)が直接税金を納めずに事業者などの納税義務者を通じて納める間接税の重複に(図表5の③)に当たります。
“商品やサービスの購入時の値段の中に税金が含まれ、結果として間接的に納めたことになる税金”のことで、皆さん、まずは消費税を連想するのではないでしょうか」
‐‐だったら、補助金を交付せずに減税すればいいのに、と思います。
「私も同感です。ただでさえ重い税負担に上乗せされる二重課税の是正は、燃料関係の業界団体などから再三にわたり陳情されています。所得税などに代表される直接税は、所得などの増加に伴って税負担も嵩む公平性が反映されています。一方で、間接税では、所得などの多寡を問わず税金が一律に徴収されますから、間接税絡みの二重課税を行なえば、低所得層などにも不満が広まります。にもかかわらず徴収を行なうのは、ずばり、もはや後へは引けないという課税当局の意識によるもの、ともいえるでしょう。
現在の一般会計予算のうち、最大の占有率は消費税であり、単一の税目で3分の1超を占めています。他の品目別個別間接税の全てを合算しても、消費税の2割強に過ぎません。
こうした税収構造では、徴税側に『多少の雑音には目をつぶれば良い』という意向が働くことでしょう。これらを裏返せば、税率10%への引き上げは、それだけ絶大な効果があったということだと思います。従って、ガソリンに対する二重課税も早期に解消されることはないでしょう」
◇ ◇ ◇
不動産会社にとって営業車での活動は不可欠であり、ガソリン価格の上昇は経費の増加に直結する…ということで、国際マーケットの状況やガソリン価格の成り立ち等についてご教授いただいた。
恥ずかしながら、ガソリン価格の高騰の最大の要因は原油価格の高騰にあるとなんとなく思い込んでいたが、それは低下傾向にあると知り、大変驚いた。
そして、二重課税問題は、他の業界でもよく耳にするが、なかなか解消されない。ガソリンの二重課税も解消は望み薄なのだろう。と考えると、ガソリン価格の値下がりはなかなか期待できないのかもしれない…とちょっと暗い気持にもなった。
値上げラッシュが続き、消費意欲も高まらないが、記者個人としては、節約を心掛けながらこの状況を何とか乗り切っていきたいと思っている次第。(NO)