住宅に求められるものが多様化する昨今。(記者も含む)多くの人が住む居住形式である集合住宅に、将来を担う若い世代は何を求めているのだろうか。隣人とのコミュニケーション? より閉ざされたプライベートな空間? はたまた別の何か? その一端を探るため、スカイコート(株)が開催した「学生プランニングコンペ」の表彰式を取材した。
◆共同住宅の割合は、今や住宅全体の約45%
総務省統計局が2024年9月に公表した「住宅及び世帯に関する基本集計」によると、居住世帯のある住宅について、住宅全体に占める共同住宅の割合は2023年で44.9%と、過去最高を記録したという。
建て方別の住宅数を見ると、2023年において、一戸建ては2,931万9,000戸、共同住宅は2,496万8,000戸。今や共同住宅は、一戸建てに迫ろうかというメジャーな居住形式なわけだ。

◆建築は「しばしばその人のキャラクターまで伝わる」
さて、同イベントは、建築士やインテリアデザイナーを目指す若手の育成と活躍の場を創出することを目的とした、同社の社会貢献活動。2020年度に始まり今年で5回目の開催となった。
大学院、大学、短期大学、高等学校、高等専門学校、専修学校(各種学校)等の在籍者を対象に、集合住宅の企画アイディアを募っている。テーマは、第1回が「50年後の東京の1Rマンション」、第2回が「『心と身』“ココロ”と“カラダ”から考える居住空間」、第3回が「『守・集・住』─集まることで、守り守られる居住空間─」、第4回が「『進と新と深』適応への可能性、建築の可能性」だった。
そして今回の第5回は「滞留と対流」をテーマに、人がとどまる場(滞留)と流れ循環し活動を生み出す場(対流)としての集合住宅の企画アイディアを募り、計102校の学生から計201作品の応募があった。
最優秀賞は、中藤堅吾氏・大木 優里花氏(共に日本大学理工学部建築学科2年)の「めくり開かるる」。優秀賞は、松尾香里氏・井上琴乃氏(共に工学院大学大学院工学研究科建築学専攻1年)の「想いがめぐる壁」と河上晃生氏(日本大学大学院理工学研究科建築学専攻1年)の「錯綜する」。特別賞として山崎天翔氏(京都美術工芸大学建築学部建築学科2年)の「おすそ分け~提灯による十字路集合住宅~」が選ばれた。

受賞作品やそれらに対する審査員の講評の詳細については、同社特設ページに譲りたい。
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同社本社(東京都新宿区)で行なわれた表彰式には、審査員計4人、各受賞者、1次審査通過の学生らが参加。審査員長の河野有悟氏(河野有悟建築計画室代表)の言葉が印象深かった。同氏は「提案書を基にした審査の過程では、皆さんの顔も名前も分からない。しかし建築というのは、その人の関わっている環境、考えていること、何を大事に制作活動に取り組んでいるか、またしばしばその人のキャラクターまで伝わってくることがある」と話した。
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◆建築の専門家が若者の作品から感じたもの
「多様な価値観を尊重する意識がある」「居心地の悪いものからは距離を置く」など、さまざまに分析される今の若い世代。作品には、そんな世代の学生らが住宅に求めている要素が、少なからず反映されているのではないか。そこで審査員4人にそれぞれ、作品を審査してどのように感じたかを聞いてみた。以下はその回答である(掲載は取材順)。
・藤原 茂氏(スカイコート代表取締役社長兼CEO)
集合住宅は、「人とのつながり」を考えることが非常に多いテーマ。そういう意味で、もっとコミュニケーションを取れるような住宅を求めているのかなということは感じました。
もちろん昔も、隣にどんな人が住んでいるか分からないなどというのはありましたが、今の学生らは小さいころから災害も多く経験してきています。人とのつながりが希薄であることをより感じているのではないでしょうか。
・御手洗 龍氏(御手洗龍建築設計事務所代表)
応募者らは不動産への興味や造形への興味、あるいは両方を併せ持っている子もいました。そうした中にあって、地方から作品を出してきてくれた子もいて、その地域なりのコミュニティを住環境でつくろうといったような作品が多くあった印象です。
・河野氏
自分たちのニーズを表しているというよりは、「きっと世の中はこうだったらいいのではないか」という問題提起に対する回答という風に読み取っていく方が、集まってきた作品を見るまなざしとしてはフィットすると思います。
では、どんな問題意識を持っているのか。集合住宅なので、住んでいる人同士がどういう関係性にあるべきなのか。あるいは、地域とどうあるべきなのか。そういったものを反映した作品が多かったように感じます。
・仲 俊治氏(仲建築設計スタジオ共同代表)
高齢者だけではなく、ファミリーだけではなく、いろいろな属性の人が一緒に暮らしていくということを考えたとき、距離の取り方はさまざまあるけれど、「一緒に暮らしていこうよ。それが豊かじゃない?」というのを、今の世代の子たちは感じているのだと思います。
ですので、一般的なマンションとかそういう案はありませんでした。地域が育ててきた伝統や特色などにコミットしようとする作品も多かったです。「一緒に住む」「地域と暮らす」「地域に暮らす」といったことに関心が高いのだろうと感じました。
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作品を目にしつつ講評を聞きながら、記者が思い浮かべていたのは「地域とのつながり」や「共に暮らす」といったワードだ。
テーマ設定が集合住宅だったことはもちろん関係していよう。それを踏まえた上で、閉じた環境でもなければ隣人すら分からないような環境でもなく、コミュニティが形成されるような住宅が現在、そして未来において必要なことを今の若い世代は感じているのだろうと思った。
近年は、共用部を充実させるなど、入居者同士の交流を促す仕掛けを施した集合住宅も増えてきた。このコンペで出されたアイディアのエッセンスが生かされた住宅が主流となれば、人はより豊かに生きることができるのではないだろうか。(木)
