記者の目

2011/6/10

復元する力「レジリアンス」に富んだ社会づくりを

震災をきっかけに見えてきたこと

 5月25日、(財)ベターリビングと東京ガス(株)は「2011ウィズガス・エコフォーラム」を開催。同フォーラムでは、ガス事業者・ガス機器メーカー等が推進している環境貢献活動「ブルー&グリーンプロジェクト」の成果報告や、東北地方復興支援の集いなどが行なわれた。東京ガスの地震防災対策や、環境問題への取組みが発表されるなか、本稿では、特に記者の印象に残った、環境ジャーナリストの枝廣淳子氏の基調講演について紹介したい。

「2011ウィズガス・エコフォーラム」の様子。環境問題や、ガス供給にとって大きな脅威となる地震災害に備えた防災対策など、テーマは多岐にわたった
「2011ウィズガス・エコフォーラム」の様子。環境問題や、ガス供給にとって大きな脅威となる地震災害に備えた防災対策など、テーマは多岐にわたった
日本のエネルギーについて「考えや意見が変わった」と答えた人に、どのように変わったかを質問。「原発の安全性に対する信頼が揺らいだ」と回答した人が圧倒的に多かった(出典:幸せ経済社会研究所)
日本のエネルギーについて「考えや意見が変わった」と答えた人に、どのように変わったかを質問。「原発の安全性に対する信頼が揺らいだ」と回答した人が圧倒的に多かった(出典:幸せ経済社会研究所)
30年前の日本の電力構成(左)と現在の電力構成(右)(出典:エネルギー白書2010)
30年前の日本の電力構成(左)と現在の電力構成(右)(出典:エネルギー白書2010)
30年後の日本の電力の電源は、現在の電力構成に比べてどのような構成になっていることが望ましいと思うか(どうあってほしいか)についての結果。「水力」は65%が増加、「天然ガス」は40%が増加、「石炭」は54%が減少(ゼロを含む)、「石油等」は66%が減少(ゼロを含む)を望んでいることがわかったことから、放射性物質の安全リスクのほか、CO2排出量や資源の枯渇性などの要因が関わっているのではないか、と同研究所は分析している(出典:幸せ経済社会研究所)
30年後の日本の電力の電源は、現在の電力構成に比べてどのような構成になっていることが望ましいと思うか(どうあってほしいか)についての結果。「水力」は65%が増加、「天然ガス」は40%が増加、「石炭」は54%が減少(ゼロを含む)、「石油等」は66%が減少(ゼロを含む)を望んでいることがわかったことから、放射性物質の安全リスクのほか、CO2排出量や資源の枯渇性などの要因が関わっているのではないか、と同研究所は分析している(出典:幸せ経済社会研究所)
「レジリアンス復活のカギは『多様性』と『冗長性』。短絡的な効率のみを重視することをやめ、『今さえ良ければいい』という考えをなくすことが、レジリアンスに富んだ社会づくりの第一歩」と話す、枝廣氏
「レジリアンス復活のカギは『多様性』と『冗長性』。短絡的な効率のみを重視することをやめ、『今さえ良ければいい』という考えをなくすことが、レジリアンスに富んだ社会づくりの第一歩」と話す、枝廣氏

震災を機に高まったエネルギーに対する意識

 東日本大震災発生から約1ヵ月後に石巻市・気仙沼市入りし、12日間にわたるボランティア活動を行なった枝廣氏。同フォーラムの冒頭で「3.11が意味するもの」について語り始めた。

 「『電気器具をコンセントに差したら当たり前のように使える』と思っていた皆さん、今回の震災が引き起こした福島第一原子力発電所の事故によって、『資源には限りがある』ことを実感させられたのではないでしょうか」と同氏。と同時に、多くの人のエネルギーに対する意識が高まったことも述べた。
 
 ここで同氏は、そのことを裏付ける資料として、同氏が主催する「幸せ経済社会研究所」が行なった「日本の今後のエネルギーに関する国民の意識調査」結果を発表した。今回の震災および原発事故が、日本の今後のエネルギーに関する国民の意識をどう変えたかを知るために、インターネットアンケート調査会社に委託・実施したもので、20~70歳の1,045名が対象。

 まず、「今回の震災・原発事故を受けて、『日本のエネルギー』についてのあなたの考えや意見は変わったか」という問いに対し、全体の4分の3にあたる74%(774人)が「変わった」と回答。事故が、多くの国民の「エネルギー観」に影響を与えたことがわかった。考えや意見がどのように変わったかについては、意見が変わった人の47%(360人)が「原発の安全性に対する信頼が揺らいだ」、24%(187人)が「節電・省エネ意識が高まった」と答えたという。

 また、「30年前の日本が使っていた電力の量は現在の約半分だった。30年後の日本が使っている電力の量は、現在と比べてどうあるのが望ましいか」という問いには、51%が「減っていることが望ましい」、38%が「変わらないことが望ましい」が、11%が「増えていることが望ましい」と回答。半数強が「長期的には日本の電力消費量は減少すべき」と考えていることがわかった。

 「『30年後にどうあってほしいか』という長期的な視点で考えると、右肩上がりの電力需要を賄うために発電量の大きな原子力発電所をどんどん建設する、といったこれまでのパターンは通用しなくなるのかもしれません。むしろ今後は、『電力消費量は減っていき、その電源は、安全性への信頼が揺らいだ原子力ではなく、自然エネルギーが大きな役割を果たす』という方向性で臨むべきではないでしょうか」(同氏)。

「しなやかな強さ」を失ってしまった日本人

 もう一つ、震災を機に「いざというときの脆弱さが露呈された」と同氏は指摘した。
 「個人単位でみると、普段から周辺との関わりが薄かったせいで、『孤』であることを強く意識した人が多かったのではないでしょうか。そうした『孤』から逃れるために、今、結婚相談所が活況を呈しているのだとか…。また、コミュニティの重要性を認識したことから町内会の活動が活発化しているとも聞いています」(同氏)。

 今回の大震災では、言葉では言い表せないほどの悲惨で甚大な被害を受けたが、決して悪いことばかりではない。記者が被災された不動産会社を尋ねたとき、次のような話を伺った。
 「今まであまり口をきかなかった隣近所の人同士が、大被害を受けた瞬間から水を分け合い、パンを売っている店や銭湯の情報を交換し、今後の復旧対策を話し合って協力するようになっていました。どちらかといえば、人間関係が希薄で冷たかったまちですが、住民一丸となってこの危機を乗り越えることで、今まで以上に良いまちになるかもしれません」。
 コメントをいただいたのは、液状化の被害に遭われ、管理物件の対応に追われた不動産会社の社長。震災発生後、不眠不休の日々が続き、大変な思いをされたにもかかわらず、何と強く、前向きな考えなのだろうと感動したことを覚えている。

 一方、枝廣氏は社会・経済における問題点も指摘。そこから、日本人が失っていたあるものについて語った。
 「近年の、在庫を持たず、かつ大手依存型のシステムにより、震災後は物流・生産活動が完全にストップしました。リーマンショック以降、コスト削減目的で進められた策でしたが、皮肉なことにそれが原因で、日本人はしなやかな強さ、そして復元する力“レジリアンス”を知らないうちに失っていたのです」(同氏)。

「レジリアンス」復活のカギとは?

 「レジリアンス」とは、心のしなやかさ、回復力、弾性、撹乱を受けた後に元に戻る能力、といった意味。知らず知らずのうちに日本人が失っていた「レジリアンス」を取り戻すカギはどこにあるのだろう。同氏は、1840年代にアイルランドで起こった「ジャガイモ飢饉」についての話を始めた。

 「主要食物のジャガイモが疫病によって枯死し、ひどい食糧難がアイルランドを襲いました。原因の一つは、収穫量の多い1品種のみを栽培していたために、その1種類にウィルスが感染して全滅したこと。もし何種類かのジャガイモを植えていたら、100万人が死亡するという被害にまで拡大しなかったのかもしれません。つまり、“多様性”がレジリアンス復活のカギなのです」(同氏)。

 また、「冗長性」も一つのカギだと提言した。「以前、新聞社などには、特定の担当を持たず、緊急時などに迅速に対応に当たるための「遊軍記者」と呼ばれる人がいた。何かあったときには、その記者たちが会社を支えてきましたが、今は経費削減のためかその姿はほとんど見られない。現在のようにギリギリの人数で仕事を回していたら、1人が転んでしまったときに全滅する恐れがある…」(同氏)。

 すなわち、レジリアンスとは普段は不要で、一見ムダに見えるものなのかもしれない。しかし、そうしたものが組織を救ってきたのだと、同氏は語った。

 レジリアンスの天敵は、短絡的な効率のみを重視すること、また、「今さえ良ければ」的メンタリティだという。
 加速度的に変化する社会において、少し立ち止まって考えるきっかけを、震災は与えてくれたのではないかと思う。「本当に大切なものは何なのか」を真剣に考える時期がきていると、強く実感した講演だった。(I)

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