記者の目 / その他

2011/7/8

大震災対応事例に学ぶ

危機管理対策の再構築を

 東北地方太平洋沖地震の発生から約4ヵ月。復興に向けて動き出している被災地では、日々新たな課題が発生する一方、大震災に伴う対応事例を整理し、危機管理対策を再構築する動きも少しずつ進んでいる。そこで、不動産事業者の声や被災者の教訓などをもとに今後の危機管理対策、特に地場不動産事業者の「初期対応」について考えてみたい。

松本産業(株)(宮城県石巻市)が管理運営する「石巻商社団地」(同)。周辺一体は津波に襲われ、同社も大きな被害を受けた。パソコンや通信機器が破壊され、創業以来約40年分の電子データを消失。紙ベースの書類については、泥を落として、スキャナーで取り込み、データ化することで復旧させた。「アナログであることが幸いしました」と松本氏。万一の際のデータ管理のあり方やバックアップ体制を見直している(写真提供:松本産業(株))
松本産業(株)(宮城県石巻市)が管理運営する「石巻商社団地」(同)。周辺一体は津波に襲われ、同社も大きな被害を受けた。パソコンや通信機器が破壊され、創業以来約40年分の電子データを消失。紙ベースの書類については、泥を落として、スキャナーで取り込み、データ化することで復旧させた。「アナログであることが幸いしました」と松本氏。万一の際のデータ管理のあり方やバックアップ体制を見直している(写真提供:松本産業(株))

携帯情報端末が安否確認に威力 情報収集・発信能力のさらなる向上を

 東日本大震災でまず注目されたのが、安否確認や情報収集にインターネットが力を発揮したことだろう。地震発生直後から固定電話や携帯電話が通じ難くなるなか、インターネットは情報を発信し続けることができたからだ。

 賃貸管理や資産コンサルティングなどを手がけるシー・エフ・ネッツ(株)(横浜市港南区)のゼネラルマネージャー・猪俣 淳氏は、「特に携帯情報端末によるインターネット接続が、緊急時の情報インフラとして優れていることが実証された」と指摘。同社では情報携帯端末「iPhone」を全社員に支給したうえで、無料で通話できるアプリケーション「Viber」や「Skype」の利用を義務付けている。さらに、緊急時に活用できるアプリケーションとして、ラジオを聴取できるソフトや、救命救急方法がわかるソフトなどをダウンロードして「iPhone」の機能を強化、万一の際に備えている。

 また、今回の大震災では、一般の個人が「Twitter」や「Facebook」などのソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)で震災関連情報を伝える動きも目立ち、マスコミ報道を補完する“個人メディア”の確立を予感させるきっかけともなった。

 賃貸管理やコンサルティング事業などを手がけるオーナーズエージェント(株)(東京都新宿区)代表取締役の藤澤雅義氏は、「原発事故ではマスコミ報道も二転三転し、のちに当局により情報が操作されていたこともわかりました。まるで戦前の、“大本営発表”と同じです」と指摘したうえで、「今後、自分自身で情報を取捨選択し、判断する能力がさらに求められる」と強調。情報収集・発信ツールとしては、SNSの可能性に期待を寄せ、「危機管理対策としてだけでなく、日常業務にも活用していくべきでしょう」と呼びかけている。

緊急時は“アナログの力”も “人力”の対策も必須

 一方、甚大な被害を受けたエリアでは、“アナログの力”も見直されることとなった。
 津波被害のあった宮城県石巻市で賃貸管理業などを手がける松本産業(株)の代表取締役・松本充代氏は、「地震発生直後は、文明の利器がまったく役に立ちませんでした。唯一役立ったのは灯油ストーブ。まだ雪の舞う季節でしたから、暖を取ることもでき、炊き出しにも活用できました」と述懐する。

 入居者やテナントの安否確認にあたっては、走ってテナントや入居者をまわり、自宅に戻れる状態になってからは社屋入口に“入居者様へ 自宅に待機しております”と書いた貼り紙を掲げ、入居者やテナント事業者から募った情報は社員と共有した。

 同地には、入居者らの親族や友人が安否確認に訪れるケースもあり、松本氏が入居者の生存を知らせると涙を流して喜ぶ人もいたという。「災害時にどこで誰がどのように安否確認をするのか、予め決めておき、入居者の“安否確認票”を作成して対応するとよいでしょう」と提案する。 

手書きで契約書100枚 欠かせない日ごろの鍛錬

 また、事務所機能復旧後の被災者との物件契約にあたっては、「すべて手書で契約書を書きました」と松本氏。その数は実に100件超。「一文字一文字書き損じのないように書くのも苦労しました」と松本氏。法律や不動産の知識の習得に向けた日ごろ鍛錬の重要性を改めて実感したという。

 同様に、阪神・淡路大震災を経験した出口地所(株)代表取締役・出口和生氏も、「問題に直面したとき『俺がルールブックだ!』という気持ちで判断を下していかないと、解決できないケースが多々ありました。経営者は普段から摂生し、いざという時、その指導力や判断力を最大に発揮できるよう心身ともに鍛えておくべきだということなのかもしれません」と日ごろの鍛錬の重要性を説いている。

 さらに、前出・松本氏は「震災直後は、すべてが終わったと思いましたが、お客様の声に後押しされ、事業を続けていく覚悟が決まりました」と話す。その“覚悟”こそが、緊急時に欠かせない心構えとなったという。松本氏は「被災時に対応できたこと、逆にできなかったことを整理し、危機管理対策をマニュアル化したい」と決意を新たにしている。

 今後も、震災対応事例や教訓を蓄積・整理するとともに、業界全体で共有していくことが欠かせないといえそうだ。

 なお、弊社発行の『月刊不動産流通』では、2011年6月号で被災地の不動産事業者の大震災発生直後の初動対応を、11年7月号で業務の正常化に向けた動きと被災物件の復旧・復興に向けた取組みなどを、11年8月号で東日本大震災が不動産業界に与えた影響についてを、それぞれ特集記事として掲載しています。そちらも併せてご覧ください。(M)

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