






インテリアデザイナーのチィとディビッドはカリフォルニアの潮風が爽やかに通り抜けるタウンハウスに住んでいる。
彼らの家の内装(インテリアデザイン)は驚くほどシンプルだ。しかし、ボートやヨットの模型を吹き抜けに置いたり、貝殻や日本の掛け軸の扱い方、額の飾り方などでピリッと空間をしめるセンスはさすが。ち、が、う!
バルコニーやパティオ、室内など至る所にサボテンや濃い緑色の植物を小気味のよい場所に配置しているのも印象的。気持ちをなごませ落ち着かせる空間作りを意図してデザインしたのだろうと感じたが…、話を聞いてみた。
開放的ながら、プライバシーにも配慮
チィ達のタウンハウス (SeaBridge Huntington Harbour) は、各戸が2階建てで4戸が平行に並んで建っているが、もちろん一戸一戸は完全な別世帯。玄関を入ると広々とした居間とキッチン、洗面所、2台分の車庫。居間の窓は全面ガラスの引き戸になっているので、ふんだんに陽光を採り込んで明るい。外に植えられた木々が周囲の視界を遮る役割を果たしておりプライバシーも保たれる。
2階はトイレと風呂場つき主寝室、シャワーつき客用寝室。そして20畳はゆうにある仕事部屋。窓が広く大きく、影がどこにもないと思う程に明るい。ここでチィは製図を引いたりスケッチやドローイングをする。インテリアデザインでは家具や壁、ソファなどの質感を表現する時にコンピューターも使うが、チィもディビッドも実際に手を使って紙の上にデザインを描くのが好きだと言う。
シンプルでありながら、魅力的な空間
二人はプロのインテリアデザイナーだから、顧客の要望によっては大きな柄や色とりどりの布地をふんだんに使ったり、装飾の多い家具を使う場合もあろう。どのようなイメージを望むかは顧客によって千差万別…、彼らの望むイメージを視覚化し、現実の空間に作り上げてゆくプロセスがインテリアデザイナーとしての仕事に違いない。
アメリカ人の室内はものが多く装飾的で凝った内装が多いと、筆者はこれまでの経験でかねがね感じてきている。ところが、チィとディビッドの室内は白、ベージュ、微妙なトーンのいくつものグレィなど無彩色が多い。また、葉や花の色彩が無彩色の空間によく映えているのはわかるにしても、色彩は最小限に抑えられており、家具も飾りけがなくすっきりとした品選びだ。意外だった。プロのインテリアデザイナーだからもっと凝った空間演出をしているだろうと想像したのだが…。
それにしても、家全体どこも素敵である。シンプルでありながら、魅力的な空間を作り出す秘訣はなんだろう?
小物をうまく活用し、雰囲気作り
第一に、デザインがすっきりしないもの、余計なものは排除(モノはたまり放題で処分は難しい…。筆者)。
第二に、小物をアクセントに。気分に応じて、季節によって、小物で雰囲気を変えているそうで、絵葉書や雑誌のグラビアなど、綺麗!と思えば小さな額に入れ、数々の額をグループとして壁に飾る。掛け軸はかける場所を選ぶと抽象的な絵画のよう。また、キャンドルを大中小いくつか棚に置く。実際には炎が出ない電池仕掛けのキャンドルだが、本物の炎のようにゆらゆらとあかりがつく。タイマー付きなので、帰宅時間にセットしておくと、家に戻った時に数々のキャンドルが灯って迎え入れてくれるのはうれしい。夏はこれらのキャンドルをパティオに沢山並べてワインを飲むのを楽しみにしているそうで、幻想的なイメージが湧いてくる。
第三に、緑を戸外、室内の至る所に配置。自然に囲まれ、外も内も境界がない、自由な空間の演出がみえてくるようだ。
忙しい日常から離れ、ゆったりとしたひととき
このタウンハウスはどの部屋にもバルコニーがついているのが特徴で、さまざまな鉢植えを置いたりトマトを育てたり、2階のバルコニーに小さな椅子とテーブルを置いてぼんやりと海をながめたり…。チィは大学で教えているので、授業の準備の合間にバルコニーでコーヒーを飲みリラックスする様子。
1階の居間からパティオに出ると、隣との境になる白い壁には色鮮やかなブーゲンビリアが濃い影を映している。沢山の植物で左右も前方も覆われているので、パティオはプライバシーが保てる空間となっている。
チィとディビッドは、室内、バルコニー、あるいはパティオでゆったりと流れるときを過ごす。都会の喧騒から住処に戻って、仕事のストレスから自分を取り戻す静かな時間は、忙しい現代人にとっては不可欠なのだろう。
(モダンなこのタウンハウスは前回紹介したので見ていただきたい。vol.272 インテリアデザイナーカップルが選んだ住まいは?)
Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。