海外トピックス

2015/6/4

vol.275 建築見学リバークルーズ

シカゴ川の発着場からボートに乗り込む(イリノイ州シカゴ市。以下同)
シカゴ川の発着場からボートに乗り込む(イリノイ州シカゴ市。以下同)
1925年に建てられたシカゴトリビューンタワー 世界中の石が集められ基礎に使われている。左は同時代に建てられたリグレィビルディング。900年経た現在でもいずれも使われている
1925年に建てられたシカゴトリビューンタワー 世界中の石が集められ基礎に使われている。左は同時代に建てられたリグレィビルディング。900年経た現在でもいずれも使われている
1929年に建てられたカーバイド&カーボンビルディング。右の建物も同時代に建てられたが、このような精巧な細工は今では不可能
1929年に建てられたカーバイド&カーボンビルディング。右の建物も同時代に建てられたが、このような精巧な細工は今では不可能
1067年に建築家バーナード・ゴールドバーグにより建てられたマリナシティ。61階建てで当時は画期的なデザインだった
1067年に建築家バーナード・ゴールドバーグにより建てられたマリナシティ。61階建てで当時は画期的なデザインだった
333ワッカードライブビルディング。コーン・ペダーセン・フォックスのデビュー作品。緑色のガラスが建物や川や空を映す。左側の建物と共に80年代の典型的な建築デザイン
333ワッカードライブビルディング。コーン・ペダーセン・フォックスのデビュー作品。緑色のガラスが建物や川や空を映す。左側の建物と共に80年代の典型的な建築デザイン
自己顕示欲が強い大富豪ドナルド・トランプのトランプホテル&タワーは2009年に完成。「トランプ」の文字が大きすぎると物議をかもした。赤いTシャツを着た建築専門のガイドがいろいろと説明してくれる
自己顕示欲が強い大富豪ドナルド・トランプのトランプホテル&タワーは2009年に完成。「トランプ」の文字が大きすぎると物議をかもした。赤いTシャツを着た建築専門のガイドがいろいろと説明してくれる
シカゴの建築群を背景に写真を撮るドイツからやってきた観光客。世界中から訪れる人々で混み合う
シカゴの建築群を背景に写真を撮るドイツからやってきた観光客。世界中から訪れる人々で混み合う

シカゴ川沿いに林立する建築物を眺めるボートツアーがある。「リバークルーズ」と言って、200人はゆうに乗れる2階建てのボートでスナックバーもついている遊覧船。

注目すべきは、資格を持つ建築専門のボランティアツアーガイドが乗り込み、1時間半の乗船中に、それぞれの建築物について解説してくれる点だ。とりわけシカゴ市は、隆盛を極めた20世紀初めの高層建築物から最新の建築物までが混在して、都心シカゴ川沿いに集中して建ち並ぶ。年代や様式は違いながらも、それらが折り合い棲み分けがなされているのは世界でも珍しいと言われる。

建築物に焦点を絞ってゆっくりと観察ができる特色のあるリバークルーズ(ボートに乗ってのツアー)だ。

専門知識を持ったボランティアスタッフがガイド

このツアーは、シカゴ建築財団 (The Chicago Architecture Foundation) により、春の終わりから夏まで毎日催される。同協会では、リバークルーズに加え、徒歩、バスなどでも建築物の紹介、展覧会、建築家や建築関係の専門家を招いての講演会など、建築振興とデザイン教育のために沢山のプログラムを設けている。
ツアーには、建築やデザイン、社会状況や歴史に至るまで豊富な知識を持った専門ガイドがつくが、意外にもボランティアベースであり、現在なんと450人も登録されているそうだ。

20世紀初頭の華やかなシカゴを彷彿させる建物群

シカゴの大火(1871年)で市が灰塵に帰して以来、20世紀初めから全く新しい都市計画に従って都市再建が開始された。とりわけ1920年代から30年代初めに至るまでのシカゴは景気にわきかえり活気に溢れて、歴史に残る最も華やかな時代であった。
視野の広い建築家による質の高い建物、例えばリグレィビルディング(1924年)やトリビューンタワー(1925年)など、近くで観察するとその豊かな時代の痕は上質な建築素材と丁寧な職人仕事による建物細部を通してうかがい見ることができよう。第一次、第二次世界大戦などの戦災にあわなかったので温存されていたとも言えるが、ひとつひとつが独創的で、いまでは得難い芸術作品である。

遊び感覚にあふれるポストモダン様式の高層ビルも

60年代にはマリナタワーやミースヴァンデルローエによる建築が有名で、現在でも使用されている。80年代になると、フィリップ・ジョンソン、ロバート・べンチューリなどの建築家によるポストモダン様式が台頭し、一見の価値がある。それまでの近代モダニズム建築に対し、装飾性や折衷性を強調、高層ビルに古典的な要素を加えて遊び感覚に満ちた「なんでもあり」のデザインは一過性流行現象とも評価されるが、シカゴ川に沿ったワッカードライブに林立するポストモダン様式の建物群は不思議に周囲によく溶け込んでる。

まちが凝縮されたような最新ビル。キーワードは「安全」

最新の高層ビル、例えばコンピューターや特にGPSの助けなしには建設の実現は不可能だった全く新しいスタイルのアクアタワーや、暮らしに必要なものすべてを包含する高層ビルなどがボランティアのガイドによって紹介される。
オフィス部分と住居(コンドミニアム)を共有する高層ビルには、住ま いに必要なすべての機能が含まれ、スーパーマーケット、ジム、美容院、緑溢れる公園やプールなどはもちろん、幼稚園から高校までの学校がビル内に用意されている。子供たちはエレベーターで通学するわけで、極端に言えば一歩も外に出ることなしに生活でき、安全でもある。
シェラトンホテルの最上階貴賓室は防弾ガラスが巡らしてあるそうで、9.11テロの後「安全性」はキーワードとなった。
シカゴはさまざまな国からやってきた移民達で形作られた彩り豊かな都会だが、建築も同様に時代背景やスタイルなど多様性に満ち、しかも共生して調和しているのが印象深いリバークルーズであった。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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