





カウンティフェアは郡が主催する祭りである。都会では得られない素朴さに溢れ、のどかである。カウボーイ映画で見るようなジーンズに皮のブーツをはき、ベースボールキャップ(テンガロンハットでないのは残念…)をかぶった男性や少年達が会場にあふれている。州はいくつかの郡に分割されているので、規模としては「区」の祭りだろうか。
ウィスコンシン州コロンビア郡のカウンティフェアを見物したが、こちらが地元の人間でないとわかっても、質問には丁寧に説明してくれ、警戒心のかけらも見られない。
のどかな「豚の品評会」
大きな体育館サイズの納屋に入ると、豚の品評会の真っ最中であった。少年や少女達が次々と誇らしげに自分の育てた豚を柵の中へと引っ張ってくるが、豚は訓練された犬のようには動かず、持ち主は緊張した顔つきで入場。彼らは農場の子供達であろう。
品評会は品種により分類されているらしく、豚と飼い主が入場すると、審査員が豚の周囲を歩き回り、じっくりと間近で観察する。豚と飼い主達のグループが退場するとすぐに審査結果が発表され、一等賞の豚にはブルーリボンが与えられる。
入場口に控えていた次のグループの豚と飼い主達が入場し、同様の審査が何度も繰り返される。納屋の背後には畳2畳敷き位の囲いがいくつも並び、豚はそれぞれ自分の居場所で寝っ転がったり、餌を食べたり…。
飼い主の少年少女達は豚を洗ってブラシをかけ、まめまめしく世話をしている。
ペット同様に育てた家畜を手放す心境は?
豚も羊もヤギも子供達にとってはペット同様、ベラとかマックスとか名前をつけている。農場で生まれた時からこれはだれちゃんの豚、と親が決めて、子供は責任を持って育てるのだろう。ある時期が来るとセリに出され、ペットだった豚は豚肉として売られていくわけで、そのあたり、子供達はどう考えているのだろうか。
にわとり、牛、ひつじ、やぎなどの品評会も別の納屋で行なわれ、ホルスタインなどの品種は乳牛として農場で乳を搾るのだが、アンガスなど肉牛はいずれは屠殺される運命。以前バーモント州の田舎に住む友人が家で飼っていた鶏を子供にしめさせ、料理して食卓にのせた話を聞き、「え~!残酷!!!」と仰天したが、彼女によればフロンティア精神を植え付けるのだそうだ。小さい頃から家畜とヒトとの関係や人間が生きてゆくことを理解させるのだろうか。
豚のブルーリボンを獲得した少女に聞いてみたところ、「セリで賞を取れば高い値段がついて高く売れるからうれしい」そうだ。豚個人(?)に対して執着はない様子で拍子抜けしたが、これは筆者のセンチメンタリズムに過ぎないと反省した。
観覧車やコンテスト、子供たちの歓声が響く会場
生まれて2ヵ月か3ヵ月の牛や豚は本当に可愛い。やぎは寒がりらしく、夏だというのにキルティングの分厚い「おくるみ」を着せられていた。品評会中、婦人会手作りのクッキーと地元で搾ったミルクが皆に配られるが(無料)、ミルクは味が濃く美味しいこと!さすが農村ならではだ。
会場には、巨大なトレーラーで運ばれてきたメリーゴーラウンドや観覧車、ぐるぐる回る4人乗りのカップなども設置されており、あちこちから大歓声が聞こえてくる。ボールを投げて的に当たればぬいぐるみがもらえる仮設テントや、地元のミルクで作ったアイスクリームは大人にも子供にも大人気。
4Hクラブ(Hands, Heart, Head, Health)は5歳から18歳までの子供達がさまざまなグループ活動をするクラブで、トウモロコシやトマトなど野菜の生育ぶりを競うコンテストや家畜のぬり絵が展示され、最優秀作品にはブルーリボンが与えられる。
ボランティアやボーイスカウトも大活躍
ロータリークラブの会員がチキンBBQやソーセージを焼き、地元のボーイスカウトの子供達がテーブルを拭いたりゴミを始末したり忙しく立ち働いているが、全員ボランティアであろう。中央にはステージが設けられ、カントリー&ウエスタンのバンドが生演奏だ。ギターに合わせたのどかなメロディやリズミカルなバンジョーがカウンティフェアの素朴な雰囲気にぴったり。
戸外のレース場ではモトクロス競走が行なわれ、土を小山のように盛り上げて作ったいくつもの山坂を高く飛び上がっては着地し、何周か走る。オートバイの排気量で分けられたグループが次々に出走してゆく。5~6歳の少年達のグループでは、頑強なお父さん達に耳元で指示を受けた子供達が緊張の面持ちでスタートするが、その光景は微笑ましくて、声をからして全出走者を応援してしまう。
土地に根付いて生きる…都会とは違うアメリカ人の姿
カウンティフェアのようなローカルな祭りに集う人々を通して、都会とは違うアメリカの姿が見えてくる。
豚の世話をする少女達や牛を引くオーバーオール(つなぎ)を着た農場のおじさんはごく普通の人々で、代々土地に根付いて生きている。早朝から働き、家族そろって食事をし、日曜は教会に行って近隣の人々とおしゃべり。流行に振り回されることもなく、時間はゆったりと流れていく。
村のカフェで年若いウエイトレスに「シカゴとか都会に行きたくないの?」と聞いたら「別に…。ここには友達もいるし。」別の村の小さな食堂でも「ここで生まれて育ったから、ここが住みやすいのさ。」とコックさん。
都市集中化が進む現在だが、都会はペースが早く情報が多すぎて振り回されストレスも強い。農場付近の住宅地をドライブすると家周りの手入れがよく、簡素だが清潔…、美しい自然の中で採れた新鮮な野菜、生みたての卵や搾りたてのミルク、ウィスコンシン州は水がおいしく生ビールは最高!
これらを楽しみ、空がどーんと広い土地で生活する人々の暮らしに強烈な印象を受けた。
Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。