海外トピックス

2025/8/1

vol.431 美容サロンブースの貸し出しシステムが生む自由と可能性【アメリカ】

サロン店舗内に並ぶ美容家たちの様々なブース

 サロンオーナーが、ブースと呼ばれるスペース(ネイルテーブル、ヘアカットをする場所、マッサージ用個室など)を個人の美容家に貸し出すビジネススタイル。アメリカ・ユタ州ではよく見られる、美容業界の仕組みだ。筆者が今まで利用した、ほとんどのネイルやヘアの美容家たちも、このスタイルをとっていた。

 Win-Win-Win(トリプルウィン)ともいえる、サロンオーナーと個人事業主の美容家たちからなる美容業会と、不動産オーナーがタッグを組むことで実現する社会貢献の仕組みだ。みんなが笑顔になれる三方よしのビジネスモデルを、メリットと課題にふれながら深掘りする。

ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方の実現

 ユタ州では、美容に携わる個人事業主たちが、サロンブースを拠点に自由な働き方を実現している。彼らの活躍の裏にあるのは、小規模な空間を貸し出す不動産モデルだ。

ネイリスト用のブーススペース
ヘアスタイリスト用の洗髪台
 
アイリスト(まつげ施術者)のためのリクライニングチェア

 個人事業主たちは、自分のスケジュールで働ける自由度と高い独立性で、ブランドやビジネスを構築しやすい。初期投資が比較的少なく、開業のハードルが低いことも魅力だ。

 逆に集客や経営管理など、すべてを自分で行う必要があり、ひとりでの業務が中心となるので孤立感を感じる場合もある。ブースの立地や環境が、事業の成否に直結しやすい点も、ブースをレンタルする前に考慮しなければならない。

不動産オーナーとサロンオーナーの関係

 不動産オーナーにとって、サロンオーナーへ店舗スペースを貸し出すことは、通常の住宅やオフィススペースに比べて小規模にも関わらず、利用率が高く収益性がある。そしてサロンオーナーにとっても、個人事業主の美容家たちへブースを貸し出すことで、安定した収入を得られるのだ。

 その他にも、空室リスクの分散や、多様な業態に対応できる柔軟性がある。ヘアスタイリストやネイリストなど、幅広い個人事業主を受け入れられるため、地域ニーズに応じた活用が可能になるのだ。

 もちろん、不動産オーナーとサロンオーナーの両者にとって、ブース仕様に改装するための初期改装コストが発生することもある。また施設全体のイメージを保つためにブランドの一貫性の維持など、柔軟で細やかな運営が必要になる。

需要に対応するため、部屋の壁を壊しサロンスペースを広げた店舗内

スモールビジネス支援による地域とのつながり

 このビジネスモデルは、起業支援型の施設として、地域からの評価が高まるケースもある。ブースを借りて働くのは、ほとんどが地域在住の美容家たち。「自分の街で、自分の夢をかなえる人」が増えることで、地域全体の活気や応援ムードが生れるのだ。

 大手チェーンでは難しい、個人に合わせた丁寧な施術や接客が評価されやすく、リピーターとなる地域住民とのつながりも強まる。

ユタ州北部の閑静な住宅街
サロンや歯医者などの店舗が一列に並ぶ小型のアウトドアモール
生活密着型のテナントが多く、駐車場に面していて店舗ごとに入口がある

 また、かつてテナントが入らなかった中小規模の店舗が、サロンブースとして再生されることで、シャッター通り対策や、まちの景観改善にもつながるというわけだ。

個人ビジネスの波が、テナント戦略を変える

 ミレ二アル世代やZ世代の起業家たちが、自分らしい働き方を選ぶ時代。物件オーナーも新たな戦略が求められている。

不動産開発やまちづくりの観点から注目されているユタ州オグデン市の風景

 ひとり起業家のための空間が、不動産価値を生み、そして地域貢献へとつながるビジネスモデル。

 ユタ州は、住宅地が多いエリアと商業地域がうまく共存しているので、サロンブース貸し出しのシステムは、都市部でも郊外でも柔軟に展開が可能なのかもしれない。

トロリオ牧
ユタ州在住ライター。2001年渡米、ユタ州ウチナー民間大使。アメリカでスーパーの棚入れ係やウェイトレス、保育士など、様々な職種を経験したあとアメリカ政府の仕事に就く。政府職員として17年間務めるが、パンデミックをきっかけに「いつ死んでもOK!な生き方」を意識するようになり2023年9月に辞職。現在はNHKラジオ出演や日本のWebメディアで執筆など、幅広く活動中。夫婦でRVキャンプやオフロードドライブを楽しむのが最高の癒やし時間。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員

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