
サロンオーナーが、ブースと呼ばれるスペース(ネイルテーブル、ヘアカットをする場所、マッサージ用個室など)を個人の美容家に貸し出すビジネススタイル。アメリカ・ユタ州ではよく見られる、美容業界の仕組みだ。筆者が今まで利用した、ほとんどのネイルやヘアの美容家たちも、このスタイルをとっていた。
Win-Win-Win(トリプルウィン)ともいえる、サロンオーナーと個人事業主の美容家たちからなる美容業会と、不動産オーナーがタッグを組むことで実現する社会貢献の仕組みだ。みんなが笑顔になれる三方よしのビジネスモデルを、メリットと課題にふれながら深掘りする。
ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方の実現
ユタ州では、美容に携わる個人事業主たちが、サロンブースを拠点に自由な働き方を実現している。彼らの活躍の裏にあるのは、小規模な空間を貸し出す不動産モデルだ。
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個人事業主たちは、自分のスケジュールで働ける自由度と高い独立性で、ブランドやビジネスを構築しやすい。初期投資が比較的少なく、開業のハードルが低いことも魅力だ。
逆に集客や経営管理など、すべてを自分で行う必要があり、ひとりでの業務が中心となるので孤立感を感じる場合もある。ブースの立地や環境が、事業の成否に直結しやすい点も、ブースをレンタルする前に考慮しなければならない。
不動産オーナーとサロンオーナーの関係
不動産オーナーにとって、サロンオーナーへ店舗スペースを貸し出すことは、通常の住宅やオフィススペースに比べて小規模にも関わらず、利用率が高く収益性がある。そしてサロンオーナーにとっても、個人事業主の美容家たちへブースを貸し出すことで、安定した収入を得られるのだ。
その他にも、空室リスクの分散や、多様な業態に対応できる柔軟性がある。ヘアスタイリストやネイリストなど、幅広い個人事業主を受け入れられるため、地域ニーズに応じた活用が可能になるのだ。
もちろん、不動産オーナーとサロンオーナーの両者にとって、ブース仕様に改装するための初期改装コストが発生することもある。また施設全体のイメージを保つためにブランドの一貫性の維持など、柔軟で細やかな運営が必要になる。

スモールビジネス支援による地域とのつながり
このビジネスモデルは、起業支援型の施設として、地域からの評価が高まるケースもある。ブースを借りて働くのは、ほとんどが地域在住の美容家たち。「自分の街で、自分の夢をかなえる人」が増えることで、地域全体の活気や応援ムードが生れるのだ。
大手チェーンでは難しい、個人に合わせた丁寧な施術や接客が評価されやすく、リピーターとなる地域住民とのつながりも強まる。
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また、かつてテナントが入らなかった中小規模の店舗が、サロンブースとして再生されることで、シャッター通り対策や、まちの景観改善にもつながるというわけだ。
個人ビジネスの波が、テナント戦略を変える
ミレ二アル世代やZ世代の起業家たちが、自分らしい働き方を選ぶ時代。物件オーナーも新たな戦略が求められている。

ひとり起業家のための空間が、不動産価値を生み、そして地域貢献へとつながるビジネスモデル。
ユタ州は、住宅地が多いエリアと商業地域がうまく共存しているので、サロンブース貸し出しのシステムは、都市部でも郊外でも柔軟に展開が可能なのかもしれない。

トロリオ牧
ユタ州在住ライター。2001年渡米、ユタ州ウチナー民間大使。アメリカでスーパーの棚入れ係やウェイトレス、保育士など、様々な職種を経験したあとアメリカ政府の仕事に就く。政府職員として17年間務めるが、パンデミックをきっかけに「いつ死んでもOK!な生き方」を意識するようになり2023年9月に辞職。現在はNHKラジオ出演や日本のWebメディアで執筆など、幅広く活動中。夫婦でRVキャンプやオフロードドライブを楽しむのが最高の癒やし時間。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員