不動産ニュース

2020/9/29

令和2年基準地価、業界各トップがコメント

 国土交通省が29日に発表した「令和2年 都道府県地価調査」結果を受け、業界団体・企業のトップが以下のコメントを発表した(以下抜粋、順不同)。

■(一社)不動産協会 理事長 菰田正信氏
■(一社)不動産流通経営協会 理事長 山代裕彦氏
■(公社)全国宅地建物取引業協会連合会 会長 坂本 久氏
■(公社)全日本不動産協会 理事長 原嶋和利氏
■三菱地所(株) 執行役社長 吉田淳一氏
■住友不動産(株) 代表取締役社長 仁島浩順氏
■東急不動産(株) 代表取締役社長 岡田正志氏
■東京建物(株) 代表取締役 社長執行役員 野村 均氏
■野村不動産(株) 代表取締役社長 宮嶋誠一氏
■森トラスト株式会社 代表取締役社長 伊達 美和子氏

■(一社)不動産協会 理事長 菰田正信氏

 今回発表された7月1日時点の都道府県地価調査では、全国全用途平均が平成29年以来3年ぶりに下落に転じ、商業地も平成27年以来5年ぶりに下落に転じた。国土交通省によれば、この1年間のうち後半の令和2年1月以降においては、新型コロナウイルス感染症の影響により、上昇幅の縮小や上昇から横ばい又は下落への転化となったとの見方が示されている。

 こうした地価の動向については、我が国経済が足元では戦後最大の落ち込みとなり、先行きも極めて不透明かつ不確実性が高い状況にあること等も踏まえつつ、引き続き十分注視する必要があると考えている。

 来年度には3年に一度の固定資産税の評価替えが、大都市のみならず広く地方都市まで地価上昇が波及した本年1月1日時点の地価公示をもとに行われる予定だが、評価時点の1月以降、新型コロナウイルスの感染拡大により、経済情勢が急変し、ほとんど全業種にわたる企業収益が急速かつ大幅に悪化している。

 本年1月1日時点の地価をもとに評価替えが予定通り行われると、先行きも含め実勢を十分に反映しない評価が3年間にわたり高止まりし、全業種において企業規模や収益の多寡にかかわらず広範な納税者に大きな負担を強いることとなる。こうした事態を回避するためにも、一定期間の固定資産税の税額の据置等の緊急措置が不可欠だ。

■(一社)不動産流通経営協会 理事長 山代裕彦氏

 本年の都道府県地価調査では、新型コロナウイルス感染症の影響により、地価は総じて、上昇幅が縮小、上昇から横ばい又は下落へと転化し、また下落が継続していた地域では下落幅の拡大も見られた。全国全用途平均で3年ぶりに下落に転じ、住宅地は下落幅が拡大、商業地は5年ぶりの下落となった。

 既存住宅の流通市場においては、東日本不動産流通機構の統計データによれば、成約件数は4月に前年比で約5割の大幅なマイナスとなったが、以後、減少幅は縮小し、8月は前年比で2割増加しており、一旦下落した価格も前年を上回る水準となっている。住宅仲介の営業現場でも、4月から5月にかけては、緊急事態宣言に伴う外出自粛や営業休止の影響で取引件数は大きく落ち込んだが、足元では前年水準まで回復してきている。ただし、コロナ禍が市場に及ぼす影響は予測し難く、今後も、金融・経済・消費者動向などの変化に十分注意を払う必要がある。

 今回の調査では、これまでの地価の上昇傾向から大きな変化が見られた。わが国の景気が厳しい状況にあるなかで、来年は固定資産評価替えが予定されている。今回の調査で確認された直近の地価の変化を評価額に反映するなど、固定資産税その他関連する税の負担が過度にならないよう措置することは、不動産業界はもとより、経済全体の足元をしっかりと固めていくうえで不可欠である。そのうえで、コロナ禍後を見据え、本格回復を牽引するため、近年の価値観の変化に伴うコンパクトマンションニーズや二拠点居住志向等の多様化する居住ニーズに対応しつつ、不動産流通市場を活性化していくことが求められる。

 当協会は、引き続き、安心で魅力ある不動産流通市場の構築に鋭意取り組んでまいる所存であり、国においても税制・法制等の政策的支援をお願いいたしたい。

■(公社)全国宅地建物取引業協会連合会 会長 坂本 久氏

 令和2年の都道府県地価調査の結果は、全用途平均が0.6%のマイナスとなり3年ぶりに下落に転じた。住宅地は下落幅が拡大し、商業地も5年ぶりに下落に転じた。1年間の前半は回復傾向が継続したが、後半は新型コロナの影響により需要が弱まり、上昇幅の縮小や横ばいから下落への転化であった。
 地方圏の住宅地の平均変動率も0.9%のマイナスと下落が継続し、商業地は2年ぶりに上昇から下落に転じる結果であった。

 新型コロナウィルス感染症の影響により、市場全体が様子見の傾向による取引の停滞などが見受けられる。
 国交省の地価LOOKレポートでもこれまでの上昇傾向から横ばい又は下落となり大きく変化した結果であった。
 全宅連不動産総合研究所による7月時点の土地価格動向実感値、予測値も下落を示すなど先行きに不透明感がうかがえる。

 全宅連としては、当面、新型コロナウィルス感染状況が不動産流通市場へ与える影響は懸念するが、感染防止を図りつつ経済活動拡大への後押しをすべく今年度新たに創設した「低未利用地の適切な利用・管理を促進するための特例措置」の周知、活用を進めて地方圏をはじめとして不動産流通の活性化に向けて最大限努力していく。
 また、6月に成立した賃貸住宅管理適正化法の施行に万全を期して取り組んでいく。

■(公社)全日本不動産協会 理事長 原嶋和利氏

 令和2年の都道府県地価調査(同年7月1日時点)については、8月下旬に公表された国土交通省「地価LOOKレポート第2四半期」の結果に続いて、コロナ禍による景気減退の影響が如実に示されているといわざるを得ない。

 すなわち、全国の全用途平均が平成29年以来3年ぶりに下落しており、地域別に見ても、これまでの上昇基調を力強く牽引して来た三大都市圏において、住宅地が平成25年以来7年ぶりに下落に転じ、商業地・工業地でも上昇幅縮小、また地方圏では、全用途平均及び住宅地の下落幅が拡大、さらに商業地、工業地でも上昇から下落に転じている。

 日本経済新聞社による「社長100人アンケート」の直近の結果によれば、自社の事業環境がいつコロナ禍以前の水準に回復するかという設問に対し「2年」以上を示した回答が3か月前の調査に続いて5割を超えたとされており、この点から見ても、市場における先々への警戒感は依然として緩んでいないと思われる。

 土地・住宅市場の活性化により、国民の明るい暮らしを下支えするため、地価の健全な上昇基調は引続き堅持しなければならない。折しも新内閣が発足し国民の期待が高まりを見せているところだけに、政府には経済全体の浮揚を期するため、是非とも抜本的な成長戦略を打ち立てていただきたい。

 本会としても会員の声を傾聴しながら、令和3年度の政策及び税制改正についてしっかりと要望を行っていく所存である。

■三菱地所(株) 執行役社長 吉田淳一氏

 令和2年都道府県地価調査は、全国全用途で3年ぶりに下落に転じた。この1年、前半まで回復傾向にあった地価が、後半に新型コロナウィルス感染症の影響を受けて変化した。引き続き、新型コロナウィルスとの共存を踏まえた各種取り組みを推進し、ポスト・コロナ時代のまちづくりを加速していく。

 多様なワークスタイル、ライフスタイルに対応する商品として、従来より、地方と連携した「ワーケーション施設」や、テレワークのためのコミュニケーションブースで、どこでもオフィスになる個室型オフィス「テレキューブ」などを手掛けているが、住宅のワークプレス化の加速に対応し、新たにコワーキングスペースを併設した賃貸住宅「The Parkhabio SOHO」などを投入した。今後も引き続き、ニューノーマルはじめとした多様化するニーズに応え、新たなワークスタイル・ライフスタイルを提案・提供していく。

 三菱地所グループを挙げて、多様なワークスタイル・ライフスタイルを支える取り組みを進めているが、ビル事業においては、場所や時間を柔軟に選択するワークスタイルが進むなか、「センターオフィス」は、人・モノ・情報を共有し、イノベーションを生むハブ拠点として、リアルの価値を追求していく。先般、新東京ビル4階にオープンした「Shin Tokyo 4TH」には、DXやオープンイノベーションを促進する企業を誘致した。入居企業自らが意欲的にまちや社会に働きかけ、化学反応やイノベーションを起こしていく。また、2027年度に全体竣工を迎える東京駅前常盤橋プロジェクト「TOKYO TORCH(東京駅前常盤橋プロジェクト)」の一部である「常盤橋タワー」(2021年6月竣工予定)においても、ニューノーマルに対応し、カフェテリア・ラウンジにおける混雑検知や利用者通知、非接触対応などを実装する。「TOKYO TORCH」は、日本・東京の玄関口として、この場所ならではのリアル体験や地方連携・参加型まちづくりを進めることで、世代や、地方・国境といったエリアなどのボーダーを超えた新たな役割を担い、まちや地方、日本の求心力を高めていく。

 同時に、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の取り組みを加速し、リアルとデジタルが一体となったまちづくりを推進していく。ロボットを活用した人手のみに頼らない次世代型の施設運営管理だけでなく、デジタルと都市を高度に融合し、データを収集し活用する「データ利活用型エリアマネジメントモデル」を確立し、安全安心はもとより、一人ひとりの「個」のニーズに合った快適なライフスタイルをサポートしていく。

■住友不動産(株) 代表取締役社長 仁島浩順氏

 新型コロナウイルス感染症の影響により、世界的に経済活動が停滞した中、国内においても入国規制や緊急事態宣言下における外出自粛等により、経済活動が停滞した。
 その結果、先行き不透明感の強い状況を反映し、商業地の上昇幅が三大都市圏を中心に大きく縮小、住宅地は利便性や将来発展の期待が高い地域を除き、総じて下落に転じた。

■東急不動産(株) 代表取締役社長 岡田正志氏

 今回の基準地価では、全国の全用途平均が3年ぶりに減少に転じるなど、昨年までの地価の回復傾向が全国的に広がっていた流れから変化した。特に前半は東京など三大都市圏で住宅地・商業地ともに上昇が継続するなど地価上昇の流れが続いていたが、後半にはコロナ禍の影響で住宅地、商業地とも大きく地価を下げるところが目立った。これは前半までは景気の回復や外国人観光客の増加、雇用・所得環境の改善、低金利の継続などを背景に地価の上昇基調が全国に波及していた昨年までの流れが続いていたが、後半はコロナ禍における商業施設や観光施設の営業自粛や短縮営業、外出自粛の影響による需要の急減、そして外国人観光客の大幅減少による観光需要の激減が影響したものと思われる。

 今後の不動産市場については、国際情勢などのマクロ要因や東京オリンピック・パラリンピックの開催の可否、コロナ禍の影響に注視する必要があるが、長期的な視点では市況を悲観的には捉えていない。特にオフィス関連では在宅勤務の広がりを受け、一部に「オフィス不要論」などの極端な意見も出ているが、コロナ禍で在宅勤務を余儀なくされた期間があったからこそ、オフィスでコミュニケーションを取る重要性を改めて実感したという声も方々から伺っている。企業が時代に適応した新しい価値を創造してゆくには「チームワークの強化」「クリエイティビティーの発揮」「信頼関係の構築」が必要で、そのためには組織全体の一体感を生み出す、社内外のあらゆる人と「コミュニケーションの活性化」ができるオフィスの存在は今後も必要不可欠であると考えている。今後、オフィスに求められる役割は、在宅では実現できない「Face to Faceのコミュニケーションをとる場」「高い生産性を創出する場」となるのではないかと考えている。BCPとしてソーシャルディスタンスを保ったオフィス環境整備の動きも一部では出ている。当社は新しいオフィス提案のため、緑の力に着目し、緑を効果的に取り入れたオフィスビルを開発・運営する「Green Work Style」を推進しているほか、国家戦略特別区域計画の特定事業として東京・竹芝に開発した最先端の都市型スマートビル「東京ポートシティ竹芝」では今後、リアルタイムデータと最新のデータを活用することなどで新しい都市型ワークスタイルを提案していく。また、このビルに本社を置くソフトバンクグループとともに、最先端のテクノロジーを竹芝の街全体で活用するスマートシティのモデルケースの構築に取り組んでいく。また、当社が本社を置く東京・渋谷は多様な機能を持った街であり、その点を評価して成長企業が集積してきた。そのため現状、オフィス需要縮小の懸念は抱いていない。これからも2023年度竣工予定の「渋谷駅桜丘口地区第一種市街地再開発事業」など、新たな日常で求められるオフィス空間を提供していく。

 住宅では駅・利便施設近接が重要視される従来の価値観に大きな影響はないと考えている。職住近接から職住一体への期待が進み、住宅の中に働くための空間を求める動きもあり、一部の顧客層から都心一辺倒の流れが是正される可能性はあるが、地方への人口流出は利便性や生活充実度の観点から限定的と想定しており、基本的には東京近郊でのエリアの強弱に留まると考える。その中でも当社はリモートワークの普及に合わせ、住宅事業では在宅ワーク施設を充実した「ブランズタワー所沢」、仕事場所として在宅ワークにも活用可能な「ユニットスペース」を初導入した「ブランズ大阪福島」の開発、オフィス家具大手のコクヨと連携して在宅勤務用のインテリアオプションの開発を進めるなど、新たな日常で求められる住まいを検討・導入している。

 地方圏では地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)を中心に地価上昇が継続している都市もある。当社は札幌・すすきのの繁華街の入り口に新たな商業施設「(仮称)札幌すすきの駅前複合開発計画」の開発に着手したほか、観光需要の根強い京都市では日本酒造「キンシ正宗」の伝統ある京都の町家を改修しホテル「nol Kyoto sanjo」を11月に開業するなど、地方圏でも採算性をみながら事業を進めていく。

 コロナ禍のほか、少子高齢化による単身世帯の増加や空き家問題、「働き方改革」によるオフィス環境の変化等で市場環境の変化が続くなか、ハードだけでなく当社グループの持つ幅広い事業領域という利点を生かしたソフトサービスという付加価値付けをして事業展開を進めていく必要があると考えている。

■東京建物(株) 代表取締役 社長執行役員 野村 均氏

 今回発表された地価調査では、全国全用途平均で3年ぶりに下落に転じたが、これは主に新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛やインバウンド減少等の影響により、ホテルや商業店舗を中心に需要の減退が見られることが要因として挙げられている。
 一方で、都心部を中心とした立地・設備スペックに優れるオフィス、交通・商業利便性の高いエリアでの分譲マンション、EC拡大に伴う物流施設等への需要は引き続き堅調に推移している。
 現下の不動産市況は、用途や地域・立地条件により様相が大きく異なっており、新型コロナウイルスの感染状況、景気動向等を含めて一層注視していく必要がある。

(商業地)
 インバウンド需要の激減など、新型コロナウイルス感染拡大はホテルや商業店舗に大きな影響を及ぼしている。オフィスビルについては、在宅勤務・リモートワークなどの実施に伴い、一部のスタートアップ企業やIT系企業等によるオフィス解約の動きもみられるが、全体的には影響は限定的で、需給は引き続きタイトな状況が続いている。むしろ、リモートワークの長期化により、社員同士の雑談から生まれるひらめきやチーム内での共同作業によるイノベーション等、リアルなオフィス空間の重要性が再認識されてきているのではないかと感じている。
 当社が豊島区庁舎跡地にて開発し、5月に竣工した32階建てオフィスビル「ハレザタワー」は現在満室で稼働している。このように、駅至近で人が通いやすく集まりやすい、快適なオフィスビルへの需要は今後も堅調に推移すると思われる。

(住宅地)
 分譲マンションは、新型コロナウイルス感染拡大による営業自粛期間を経て、概ね5月下旬から販売センターを順次再開したが、お客様の来場は各物件とも好調に推移している。
 駅近や商業施設近接などの利便性を重視する需要層の動向に大きな変化はないが、直近では、在宅勤務等の経験から、駅距離があっても広めで部屋数のある間取りを選んだり、自然環境の良い立地を志向するなど、お客様のニーズに拡がりも見られている。
 この10月から販売を開始する「Brillia City 西早稲田」(総住戸数454戸)は、池袋駅や新宿駅まで2~4km圏、東京駅6km圏に位置する利便性の高さに加え、リモートワークに対応した間取りや共用施設等が高く評価されている。大変多くのお客様にご来場いただいており、ニーズに合致した住宅への需要の底堅さを改めて実感している。

 今年に入り、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大したことにより、日本経済の先行きは不透明感を増している。不動産マーケットについても、これまで以上に注視が必要な状況ではあるが、当社としては、社会構造、ライフスタイルの変化を的確に捉え、衛生環境も含め人々が安全・安心・快適に過ごせるまちづくりや住生活の実現を通して市場の活性化に貢献していきたい。

■野村不動産(株) 代表取締役社長 宮嶋誠一氏

 今回の地価調査では、これまでの上昇傾向から、全国全用途で3年ぶりに下落に転じた。1年前の前回調査時点から、利便性の高い住宅地やオフィス需要の強い商業地を中心に前半の地価は上昇傾向にあったものの、後半は新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う先行き不透明感から全般的に需要が弱まった影響を受け、東京圏および大阪圏の商業地など一部を除き、概ね横ばいまたは下落へ転じたものとみられる。

 住宅市場に関しては、新型コロナ感染症拡大の影響が懸念されたものの、潜在需要の顕在化、価値観やニーズの多様化を受け、新築中古ともに足元では好調に推移している。都心・駅前立地の新築マンションへの評価は依然として高く、一方で、都心から少し離れたエリアでも交通利便性・生活利便性に優れる物件や、郊外の戸建も好調である。また中古についても、緊急事態宣言解除後は急速に回復し、首都圏では8月の成約件数が前年を大きく上回るなど好調に推移している。総じて、価値観やニーズの多様化などを背景に需要の底堅さが感じられる状況ではあるが、今後については市場環境を注視していく必要がある。

 オフィス市場に関しては、従来のテレワーク普及の動きがコロナ禍により加速した結果、働き方に応じた多様なオフィスの在り方が求められており、今後はそうしたニーズに対応した提案が求められる。主要都市を中心に過去最低水準を記録していた空室率は上昇に転じている一方、賃料については足元では大きな動きはないものの、企業業績や働き方の変化による影響は中期的に検証していく必要がある。商業・ホテル市場に関しては、インバウンド需要に支えられたアセットを中心に稼働は低下しており、需要の回復を注視したい。物流市場に関しては、コロナ禍でeコマースのニーズはますます拡大しており、旺盛な投資意欲が継続するものと想定する。

 テレワークの進展により「住む/働く」の境が薄まり、住むだけ、働くだけではない新しい「住まい方」「働き方」のニーズが生まれている。当社は、顧客や市場との対話を基にしたマーケットインの発想で、大きく変わり続ける社会や顧客のニーズを的確に捉えた独創性の高い商品・サービスを生み出すべく、積極的な事業展開を続ける。

 今回は、調査対象期間の途中で大きな環境変化が生じており評価が難しいが、時代の転換点にあり、様々なデータをどう読み解くのかがこれまで以上に重要な局面にある。地価調査は、不動産の取引動向や中期的な展望を反映したものであり、GDP成長率などのマクロ指標と合わせて今後も重要指標のひとつとして注視していく。

■森トラスト株式会社 代表取締役社長 伊達 美和子氏

■商業地の全体感
 商業地の地価は、全国平均で5年ぶりに下落に転じた。三大都市圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏) の平均では0.7%上昇し8年連続の上昇となったが、上昇幅は縮小した。
 地方圏の平均においても昨年の上昇から下落に転じた。一方、地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)においては上昇を継続し、6.1%の上昇となったが上昇幅は縮小した。さらに、観光需要が高い京都、沖縄においても、上昇幅は縮小したものの7年連続の上昇となった。

■背景と具体的な現象
 東京都心部のオフィス賃貸市場は、新しい働き方への対応に伴う移転ニーズの高まりが見られる。新型コロナウイルスの影響による空室の増加が見られつつあるものの、好立地については一定の稼働率が維持されるものと予想される。
 売買市場では、郊外地における需要にかげりが見られる一方で、千代田区、中央区、港区、新宿区などの需要は依然として高い。また、オフィスビルの規模に着目すると、大規模オフィスの需要が特に高まっている傾向がある。投資家の不動産投資意欲についても大きく損なわれておらず、マーケットの全体感としては今後も堅調な推移が期待される一方で、立地と規模の両面から不動産価値の二極化が進むと予想される。
 地方圏では、沖縄県宮古市や長野県白馬村といった魅力的な観光資源を備えたリゾートエリアにおける地価の上昇幅が大きく、不動産需要は堅調であった。

■今後の見通しと課題・展望

 新型コロナウイルスの影響によって急速にテレワークが普及し、今後もオフィス勤務とテレワークを併用した働き方が継続されていくと見られる中で、次世代のオフィスのあり方が模索されている。特に、テレワークにはメリットがある一方で、業務生産性の低下に加え、コミュニケーションの質や社員の帰属意識の低下に対する課題意識を持つ企業も見られており、リアルな場の重要性も再検討されている。また、出社時の感染対策なども考慮したレイアウト見直しのため、より広いスペースを要望する企業も出てきている。供給側は、先進技術の導入などによってサービスの充実を図り、リアルなオフィスの付加価値を高めていくことはもちろん、テナントからの多様なニーズに対応できる柔軟性のあるオフィス賃貸のあり方を提案していくことが求められる。
 観光業には未だ逆風が吹いているが、地方リゾートにおいては国内観光客数が少しずつ回復傾向にあり、直近の連休期間には首都圏の観光地にも賑わいが戻るなど、人々の観光に対するニーズが消失していないことが明らかとなっている。事業者側と観光客の双方による万全な感染対策によって、ウィズコロナ時代の新たな観光のあり方を確立していくことが求められる。
 また、心身の健康不安が世界的に高まる中、温泉や和食など日本独自のウェルネスが世界から改めて注目されている。さらに最近では、心身の健康向上に寄与する新しい働き方の一つとしてワーケーションも認知されつつあり、今後のライフスタイルにおいては、働く場所、暮らす場所、憩う場所の境界が曖昧になっていくと予想される。地方都市やリゾートにおいては、今後ワーケーションやウェルネスへの需要拡大を見据えた、新しいプランやサービスの拡充が求められる。
 海外における訪日ニーズも高く、将来的にはインバウンドのV字回復の可能性は高い。コロナ禍が収束した際のインバウンドの呼び込みは世界各地の競争となるため、国内の観光業が抱えている課題の克服、および観光地の魅力向上に取り組み、将来に備えておく必要がある。
 当社グループは、今後も都心や地方における様々な不動産開発や日本独自のウェルネス体験の提案を通じて、新時代のリアルな場を提供していく。

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