屋根や外壁などの外装工事や、「板金」のオブジェ制作・販売などを手掛ける(株)ウチノ商店(東京都東村山市)は18日、商店街の空き店舗をカフェに再生した「和國商店」(同)を報道陣に公開した。隈研吾建築都市設計事務所がデザイン監修として参画。ウチノ板金をはじめとした板金職人の匠の技を随所に生かした。
同施設は、同市青葉2丁目を貫く「青葉商店街」の一角に立地する、築52年、木造2階建て(延床面積約51平方メートル)の店舗兼住宅を改修したもの。従前はタバコ屋だったが、所有者の高齢化に伴い閉店。未使用で放置されていた。商店街も、最盛期には80店舗余が営業していたが、現在営業中はわずか5店舗と空洞化が進行。こうした状況を憂い、同市を拠点に商売を続けてきたウチノ板金代表取締役の内野友和氏が、同物件を取得。建築板金業をはじめとした手仕事職人によるモノづくりの魅力の発信拠点と、地域の交流拠点を兼ねた施設へ改修し、商店街と地域を盛り上げようと取り組んだ。
その後、内野氏は同業の紹介で隈氏と交流ができ、内野氏の取り組みと、同社の板金技術の素晴らしさを評価した隈氏が、デザイン監修を快諾。また、ウチノ板金と同様、同エリアで建築業を展開し、同社とさまざまな建築プロジェクトで協業してきた岡庭建設(株)(東京都西東京市)が、建物の設計・施工を引き受けた。古い建物や部材の再利用、地域の業者による地域の建物の改修など、「循環」をテーマにしている。
岡庭建設が建物をインスペクションしたところ、経年により柱・梁・基礎などが傷んでいた箇所が多かったため、それらを追加・修復。耐震基準をクリアしたほか、新たに屋根と壁に断熱材を施工し、断熱性能を高めた。外壁には、広島県廿日市市の「速谷神社」で使われていた銅板を再利用。ウチノ板金の職人が、銅板を手作業で加工し、700枚の立体的な五角形ユニットを製作。それらをアトランダムにつなぎ合わせ、外壁に取り付けた。
店内は、板金職人が真鍮を加工し、キッチンカウンターや戸棚、階段、巾木などを真鍮を加工し製作。ランプシェードは、隈氏がデザインしたものを板金で仕上げた。また、カフェの椅子やテーブル、食器などの什器は、プロジェクトに共鳴した職人が手作りしたものを使っている。1階では19日よりカフェを営業していくほか、板金をはじめとしたモノづくりの発信拠点として、ワークショップなどを開催していく。
18日には、内野氏、隈氏、東村山市長の渡部 尚氏が会見した。内野氏は「私を育ててくれた商店街に何か恩返しができないか考えていた。また、さまざまな職人たちとその仕事が社会に羨望されるようにしたかった。ここを拠点に人と人との新たな交流、新たなチャレンジが生まれ、まちににぎわいをもたらしたい」と抱負を語った。
隈氏は「以前から日本の板金技術は世界に誇れるものだと思っていた。内野氏のプロダクトは板金を立体と考えるのが面白い。古い建物を使うことで、その建物の時間や懐かしさを手にすることができる。まさにこれからの建設、経済の在り方だと思う」などと語った。
また、渡部市長は「世界の隈研吾氏が商店街の小さな建物のデザインを手掛けると聞き、“のけぞるほど”ビックリした。この商店街はかつては大変なにぎわいだったが、今は見る影もない。隈氏のデザインした建物はモダンでありながら、どこか懐かしさがある。さまざまな人たちの出会いの場となることを期待している」と激励した。