記者の目

2005/11/4

日管協「中国賃貸住宅管理視察研修会」レポート(後編)

分譲市場を陰で支える賃貸市場

 レポートの後半では、上海における賃貸住宅市場の現状に触れたい。中国を代表する国際都市である上海では、各国からの駐在員や一部の富裕層が賃貸住宅市場を支えている。彼らが住まうのは、分譲マンション以上の設備に、ホテルライクなファシリティサービスが提供されるサービスアパートメント。視察団は、上海を代表するサービスアパートメント数現場を見学。そのグレードの高さやファシリティサービスのきめ細やかさに驚いた。

上海の日本人駐在員向けサービスアパートメントとして人気の「東桜花苑」(アメニティ・ガーデン)
上海の日本人駐在員向けサービスアパートメントとして人気の「東桜花苑」(アメニティ・ガーデン)
日本人入居を前提にした物件企画と、きめ細やかなファシリティ・アメニティが人気の秘密。2LDK以上の部屋には原則「和室」が設けられている(写真上)ほか、日本の電化製品がそのまま使えるようになっている(写真中はオール電化キッチン)。スポーツクラブなどの付帯設備も充実(写真下)
日本人入居を前提にした物件企画と、きめ細やかなファシリティ・アメニティが人気の秘密。2LDK以上の部屋には原則「和室」が設けられている(写真上)ほか、日本の電化製品がそのまま使えるようになっている(写真中はオール電化キッチン)。スポーツクラブなどの付帯設備も充実(写真下)
上海松下電工住宅社長・鯉塚康文氏の説明を聞く視察団
上海松下電工住宅社長・鯉塚康文氏の説明を聞く視察団
上海でも指折りの最高級グレードのマンション「衡山路41号」(41ヘンシャン・ロード)は、「上海富裕層のステイタスシンボル」。エントランスにはドアマンが駐在
上海でも指折りの最高級グレードのマンション「衡山路41号」(41ヘンシャン・ロード)は、「上海富裕層のステイタスシンボル」。エントランスにはドアマンが駐在
特別に見学できたペントハウスのリビング(写真上)。ベッドルームにはバーカウンターも用意されている(写真下)
特別に見学できたペントハウスのリビング(写真上)。ベッドルームにはバーカウンターも用意されている(写真下)
広々としたベッドルーム(写真上)。猫足バスタブが鎮座しシャワーブースが別に備わる浴室は、なんと「メイド用」!(写真下)
広々としたベッドルーム(写真上)。猫足バスタブが鎮座しシャワーブースが別に備わる浴室は、なんと「メイド用」!(写真下)

賃貸市場を支えるのは駐在員と富裕層

 今回も、日系不動産会社のベターハウス社(奥村尚樹社長)のデータ等を基に話を進めていきたい。
 まず、中国における普通賃貸住宅の仲介・管理市場は、極めて未成熟だ。一般市民はほとんどが持ち家に住んでおり、強い持ち家志向をバックにした分譲・中古市場はともかく、賃貸を志向する人達のマーケットは非常に小さい。ところが、上海全体には売買や賃貸住宅の仲介を取り扱う業者が、アウトサイダーまで含めれば約1,000社もいるという。彼らは何で食べているのかといえば、富裕層への投資向け物件の仲介、そして各国の駐在員や富裕層をターゲットにした「サービスアパートメント」の斡旋だ。
 「賃貸仲介業は、かなりの過当競争下にあり、限られたパイを喰いあっています。われわれは日本人中心にやっていますので、ライバルは30社程度ですが…物件の確保はなかなか難しい」と奥村社長も嘆く。

 しかし、賃貸ユーザーの主力である国内外の富裕層や各国の駐在員の数は、上海が中国一多い。各国の企業が、アジアの拠点をシンガポールや香港から上海に移すケースが増えているためだ。在留邦人の数も、2002年以降急増しており、05年は大使館が把握している登録邦人数だけで4万人を突破。比較的短期間しか在留しない未登録邦人も含めれば、10万人に達するとも言われている。北京の登録在留邦人数が1万人であることを考えれば、その多さも理解できよう。
 そのため、上海のサービスアパートメント入居率も、2000年以降ゆるやかな上昇トレンドを維持している。02年84%強だった入居率は、05年第2四半期には92%にまでアップした。新築マンションの転貸を中心とした大量供給がなされたにもかかわらず、入居率が上がっているのだから、いかにニーズが強いかがわかる。賃料についても、03年が平均20USドル/1平方メートルが、05年第2四半期には25ドル程度と、やはり緩やかな上昇カーブを描いている。
 賃貸契約に係る保証金は、賃料の2~3ヵ月分。今は賃料の先高感が強いため、1年契約が主流だ。仲介手数料は、1ヵ月の賃料の7割。通常はテナントとオーナーが折半で業者に支払うが、過当競争下ではテナントから取ることは難しいという。「それではオーナーからとなりますが、オーナーの支払いも悪い。契約解除した後の保証金も2~3ヵ月は戻ってこないのでテナントからの苦情も多いし、アフターメンテナンスも徹底的にやらされます」(奥村社長)。ちなみに、賃貸管理フィーは、賃料の8%前後。お世辞にも、旨味の大きい商売とはいえそうもない。

日本人に人気のサービスアパートメント

 上海市内に数多くあるサービスアパートメントは、はじめから賃貸目的として開発されたものと、分譲マンションを購入した投資家がサービスアパートメントとして賃貸するものの2種類がある。いわば、上海のマンションブームを陰で支えているのが、こうしたサービスアパートメントというわけだ。視察団一行も、代表的なサービスアパートメントを見学したので、紹介したい。

 まず、上海の日本人駐在員向けサービスアパートメントの代表である「東桜花苑」(アメニティ・ガーデン)。松下電工グループが開発し、1997年から入居が開始された、総戸数482戸のサービスアパートメントだ。立地する浦東エリアは、上海中心部まで多少時間のかかるエリアだが、新空港の開設や住宅地の拡大によって人気が高まってきており、同アパートメントも、日本人向け物件として知名度と人気があがっている。
 1LDKから3LDKまで28のバリエーションを持ち、専有面積82~95平方メートルの1LDKが月額2,000~2,300USドル、同107~181平方メートルの2LDKが同2,700~4,000ドル、同142~263平方メートルの3LDKが3,600~4,500ドルで賃貸されている。
 竣工当初はなかなか賃借人が集まらず、稼働率は60%台と低迷したが、前述したように徐々に人気が高まり、現在では入居希望者がウエイティングするほどまでになった(稼働率は93%)。
 同物件の人気を支えているのは、日本人入居を前提にした物件企画と、きめ細やかなファシリティ・アメニティサービスの数々だ。まず、驚いたのが、2LDK以上の住戸には、原則「和室」が設けられていること。そして、日本のマンション同様に「収納」の数と容積が大きいことだ。ほとんどスケルトンに近い欧米仕様のサービスアパートメントが多いなか、こうした配慮は貴重だ。コンセントは、日本の電化製品がそのまま使える100V用と220V用と併設。住設機器は、信頼度の高い日本製(松下電工だから当然だが)。オール電化だ。高速ネット対応はもちろん、日本語BS・CS放送も充実している。
 天井高は2,550mm。フローリングや建具の仕様は、日本の中級分譲マンションとほぼ同レベルだ。設計は日本のスーパーゼネコンだが、施工を手がけるのは現地業者であり、その施工レベルはあまり高くない。
 付帯施設として、スポーツクラブ、日本語幼稚園、レストラン、コンビニエンスストアがある。すべて、同社が自主運営することで、日本人入居者にストレスを与えないサービスを提供している。また、日本人学校など、周辺の施設へのシャトルバス運行も行なっている。
 ただ、最新のサービスアパートメントと比較すると、築9年を経た室内設備が明らかに陳腐化している。例えば、クッキングヒーターは現在主流のIHではなくRH(熱源で直接温めるもの)だし、ユニットバスも脱衣室との段差が大きく、浴槽のまたぎも大きい旧式のものだ。もっとも、このあたりは親会社が住宅設備メーカーだから改装は容易だろう。
 「確かに設備が陳腐化しており、これから徐々に改修していかねばならないが、それ以上に充実したアメニティサービスで差別化していきたい」と上海松下電工住宅社長の鯉塚康文氏は語ってくれた。

最高級マンションに唖然

 次に紹介するのは、「衡山路41号」(41ヘンシャン・ロード)。上海でも指折りの最高級グレードのマンションだ。「ヘンシャン・ロード」とは、日本でいえば「表参道」のような通り。周辺は、当局による景観保護がなされるエリアで、低層住宅と緑が連なっている。従って高層マンションは将来的にも建設されることはなく、立地・眺望とも文句なしのこの物件は「上海富裕層のステイタスシンボル」と言われているそうだ。
 竣工は1998年で、総戸数は164戸。管理は、ドイツの五つ星ホテル・ケピンスキーが行なっており、入居者はホテルライクなアメニティサービスを享受できる。現在、入居率は95%。そのほとんどが、欧米系企業の幹部クラスという。
 外観は、ローマ建築をモチーフにしたような重厚な石造りで、マンションというよりホテルに近い。ドア高さ3mはあろうかというエントランスには、ドアマン常駐。エントランスやエレベータホール周りはすべて石張り、床は大理石。天井にはシャンデリアが輝く。コモンスペースや住戸内にあるインテリアは、アールデコ調に統一されているようだ。
 すでにほとんどの住戸が分譲されており、この物件に住むには中古住宅を購入するか、オーナーが賃貸するサービスアパートメントを借りるしかない。一番コンパクトな1LDKの中古参考価格は45万USドル(約5,400万円)、平方メートル単価で5,150ドル(約62万円)。日本人の感覚でもそれほど安く感じない価格だから、現地の貨幣感覚でいえば“スーパー億ション”だ。賃料となると、さらにプレミア度が高くなる。1LDK(87平方メートル)で月額2,600~3,400USドル、2LDK(166~182平方メートル)で5,100~6,800ドル、3LDKが6,500~8,600ドル。3LDKの月額賃料が100万円を突破するのだから、日本の「六本木ヒルズ」と同等かそれ以上のプレミア度といっていいだろう。
 分譲住宅のため、一般住戸?は見学することができなかったが、ディベロッパーの許可をもらい、特別に最上階のペントハウスを見学することができた。
 ペントハウスは、建築面積143平方メートルのメゾネット住戸。ただでさえ広い居室をコネクティングしたリビングは30畳はありそう。建具は重厚感のある突き板仕様で、高価な天然石や革が室内の至る所に使われている。(おそらく料理をしないであろう)住人に不釣合いなほど広いキッチンは、「お雇いシェフ」が腕を振るうのだろう。それよりも、猫足バスタブが鎮座しシャワーブースが別に備わる浴室が「メイド用」と聞いた時は、さすがに空いた口が塞がらなかった。恐る恐る賃料を聞くと、「1日」3,000USドル!だという。
 ちなみに、この物件を購入・賃借する場合は、「中国人民安全局」の審査が要る。周辺エリアに、政府要人が多数住んでいるからだ。敷地内には、無線イヤホンを装着したセキュリティがゴロゴロ。それも、いたし方あるまいと納得してしまうほど、ある種一般社会とは隔絶した感のある物件だった。
 この他にも、いつくかのサービスアパートメントを取材したが、いずれも日本のそれとほぼ同レベルの(価格に応じた)仕様・サービスであった。残りのレポートは本誌「月刊不動産流通」で紹介したいと思う。

 以上、視察研修会の取材成果をレポートさせていただいた。バブル崩壊後に社会に出た記者にとって、「ああ、日本のバブル時代は、きっとこんな感じだったのだろうな」と思わせてくれた上海であった。ただし、個人的には「崩壊」は見たくないものである。(J)

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