記者の目 / 開発・分譲

2006/3/3

野村、三井、地所の「ケミストリ」

3社初のJV「ザ・センター東京」が販売開始

 新ブランド「プラウド」をあっという間に業界屈指の人気マンションに育て上げた「野村不動産(株)」、あらゆるタイプのマンション分譲に精通し、商品企画から販売戦略まで隙のない「三井不動産(株)」、タワーマンションを得意とし、品質確保に独自の取り組みをしている「三菱地所(株)」。マンション業界をリードするこの3社による、初の共同事業(JV)「ザ・センター東京」の販売が開始された。「東京のど真ん中」という垂涎の立地で、「各社いいとこ取り」の商品企画を具現化したとなれば、その出来栄えも想像できよう。オープン直前のモデルルームを、早速チェックしてきた。

「ザ・センター東京」完成予想図
「ザ・センター東京」完成予想図
公開空地と2階屋上緑化など、マンション周辺には十分は緑を配している
公開空地と2階屋上緑化など、マンション周辺には十分は緑を配している
天井高2600ミリで開放感がある
天井高2600ミリで開放感がある
天井近くまで高さを取った居室ドアが目立つ
天井近くまで高さを取った居室ドアが目立つ
天然石張りで高級感のあるキッチン
天然石張りで高級感のあるキッチン
オーダーメイド対応住戸の玄関ホール。廊下にまで大理石が敷き詰められている
オーダーメイド対応住戸の玄関ホール。廊下にまで大理石が敷き詰められている

「東京のど真ん中」市谷本村町という好立地

 「ザ・センター東京」は、東京都新宿区市谷本村町(都営新宿線「曙橋」駅徒歩5分、東京メトロ丸の内線「四谷三丁目」駅徒歩11分など)に位置する、敷地面積約6000平方メートル、地上38階建て(130m)、総戸数426戸のマンション。設計・施工・監理は大林組。設計監理監修は、三菱地所系の三菱地所設計。建築デザイン総合監修は、公共建築物からショッピングセンターまで幅広いジャンルで活躍する建築家、フェルナンド・バスケス氏に依頼した。
 建設地は、尾張徳川家上屋敷跡地という由緒ある場所で、防衛庁士官学校などを経て直近は厚生省が所有していたものを野村不動産が入札で取得した。ゆるやかな丘陵地で、周囲は低層住宅地のため眺望は抜群。外苑東通りに面するものの、その環境も良好で、ビジネスエリアにも近く、かつ生活利便性も高い。さらに、新宿区が04年に高度地区見直しを行なったため、今後タワーマンションは希少性が高くなる。
 3社は、このプロジェクトを「東京真ん中プロジェクト」と呼んできたという。なるほど、山手線に囲まれたエリアのほぼ中心を探すと、このエリアになる。グレード次第では軽く「億ション」になってしまうエリアだろう。この立地を、果たしてどう料理したのか。

「各社のいいとこ取り」めざした商品企画

 今回の事業比率は、野村不動産が40%、三井不動産と三菱地所がそれぞれ30%と、限りなくイーブン。この比率に応じて、販売戸数、企画・販売スタッフも割り当てられている。野村不動産が代表事業者ではあるものの、同社が独断で商品・販売企画を練ったということはない。なにしろ、3社が3社ともマンション事業のリーディングカンパニーだから、どこにイニシアチブを握らせても間違いはないが、それではこの3社が組んだ意味がない。
 「商品企画や販売に関する打ち合わせには、3社で必ず意見を出し合ってきました。出来上がった商品を見ても、“どこの会社っぽい”というものではありません。高額マンションにありがちの派手な演出は控え、そのなかで各社のいいとこ取りをめざしたつもりです」とは、野村不動産住宅カンパニー住宅販売部の北井大介担当課長の弁。
 確かに、商品企画やプロモーションを仔細に眺めていくと、その「いいとこ取り」が見えてくる。
 全426戸に対し、28階より上層階を中心に118戸設定された「オーダーメイド」は、野村不動産がもっとも得意とするもの。1物件に対するオーダーメイド対応戸数が100戸を超えたのは、今回が初めてだろう。共用施設の絞り込み、そして住戸グレードの平準化も、野村不動産物件の特徴的な点だ。オーダーメイド住戸のモデルルームは、野村不動産のそれの見せ方だった。ただし、「プラウド」の得意とするモダンファニチュアが似合うようなポップな雰囲気は、モデルルームからは感じられなかった。
 建物品質管理や情報公開に関しては、三菱地所の「チェックアイズ」を参考にしているという。ホワイトを基調にしたモデルルームは、同社のタワーマンションのそれに近かった。
 俳優の佐戸井けん太氏を起用したプロモーションビデオ、共用部を紹介するCGを多用したビデオ、縮小模型による建物プレゼン、構造説明など、モデルルームまでの一連のプロモーションは、まさに三井不動産のそれである。標準仕様のモデルルームは、同社のそれに近かった。
 なるほど、北井氏の言葉に間違いは無かった。
(ただし、モデルルームは、フォワードスタイルの南部昌亮氏がプロデュースしており、その意味で各社の個性が弱められている部分があると思う※記者注)

緑に包まれた敷地に全戸共通の高い基本性能

 建物は、総合設計制度適用により容積率350%が650%に緩和されたことを生かし、敷地の25%にあたる1500平方メートルをオープンスペースとし、さらに2階部分に1,000平方メートルの屋上庭園を設けるなど、建物を緑で包み込んだ。外観は、オフホワイトをベースに、縦横にグレーラインを施した落ち着いたデザインとしている。
 住戸は、全48タイプ。専有面積49~175平方メートルの1LDK~3LDKをベースに、前述したオーダーメイドと建具のセレクト、間取りセレクト等が行なえる。基本性能は非常に高く、ボイドスラブ厚は320mm、基準天井高は2,600mm以上を確保。建具は突板仕様で、レバーハンドルには無垢の真鍮を使用した伊製を使用。カーペットは英国産100%ウール、キッチンカウンターには天然石、システムキッチンはジーマテック社製、ユニットにタイルを施した浴室、ハイサッシュなど、全戸共通でおごっている。
 標準仕様の建具は、「億ション」のものと考えると若干クオリティに物足りなさも感じるが、「高さ」にこだわっており、とくに高層階の住戸では、天井高3.5mに対し、ドア高も建具高も3m近く、十分な存在感を与えている。また、その天井高により、埋め込み照明の折上げ天井としても十分な開放感がある。狭小間取りでもスパンを広く取り、廊下面積を小さくすることで、有効居住面積の大きな使い勝手の良いプランが目立っている。
 用意されたモデルルームは、ほぼ標準仕様に近いものから、フルオーダーメイドで販売価格が3億円超となるものまで3つ。フルオーダーの住戸はさすがの雰囲気だったが、一般モデルも高額物件にありがちの「コテコテ感」はなく、生活感のある提案だった。

坪330万円は格安! 平均価格7,000万円台をどうみるか

 現在、発表されている販売予定価格は、メインボリュームとなる専有面積80平方メートル台の住戸で7,000万円台。坪単価は330万円。1億円超の住戸は、60戸になるという。坪330万円だけみれば、はっきりいって「格安」だ(記者は、仕様次第では400万円の立地とみていた)。ただ、グロス7,000万円台という価格で考えると、「来場者が引きもきらず」という売り方にはならないだろう、という見方もできる。湾岸エリアのタワーマンションなら、高層階で100平方メートル超の住戸が買えるのだから。
 3社の顧客への小規模な事前告知とインターネットだけで5,000組の事前反響をあつめているが、これは各社の実績からみても特段驚く数字ではない。4,000万円台の住戸には、独身キャリア女性が反響を寄せ、6,000万円~8,000万円台は大企業勤務のサラリーマンが中心。8,000万円台を超える住戸は、やはり企業経営者や医師・弁護士といったライセンサーが反響を寄せているという。実需層が中心だが、地方の富裕層が都心部のセカンドハウスとして検討しているケースも多いとか。ともあれ、完成まで在庫が残るようなマンションではないことは記者が保証する。

「いいJV」のお手本になれるか

 JVというのは、怖いシステムだ。「3人寄れば文殊の知恵」という例え通り、各社が最大限の努力をすれば単独事業以上の好結果が望める反面、「船頭多くして船山に登る」のように、各社の方向性がばらばらになり商品企画がお粗末になるケースや、「他社に任せておけばいい」と知恵を絞らず、それこそ「烏合の衆」になって無残な結果を招く危険性も孕んでいる。これでは、本来、リスク分散として機能するはずのJVが、リスクを呼んでしまうことになる。
 とくに最近は、「出資だけすればいいだろう」と安直にJVに名を連ねるディベロッパーも増えている。それで儲けるのも悪くは無いが、果たしてそれを「自社の事業」と喧伝していいものか。どうせ、JVを組むのなら、日頃は「敵同士」の他社のノウハウを、しっかり学び取ろうという意気込みを感じさせるような事業にしてもらいたい。
 その点「ザ・センター東京」は、3社によるいい意味での「ケミストリ」が見られる。業者必見である。(J)

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