記者の目 / 開発・分譲

2009/5/25

王者「ガス」の逆襲

東京ガス、「ミストサウナ」前面に差別化

 マンション業界に「オール電化」の波が訪れたのは、21世紀に入ってから。エコキュート、IHクッキングヒータ、電気式床暖房をセットにしたオール電化マンションは、クリーン性や省エネ性が評価され、一部のユーザーの支持を得た。が、長年の実績を持つガスの優位は動かなかった。  ところが、このところの「エコブーム」を背景に、オール電化マンションのシェアがじわじわと高まっており、さすがの“王者”ガスもうかうかしていられなくなった。そこで、首都圏の砦である東京ガス(株)は、「エコ」ではなく、「快適性」での差別化に乗り出した。その「武器」こそ「ミストサウナ」だ。

ディベロッパーやゼネコン向けにミストサウナのプレゼンテーションを行なっている「MISTY ROOM」。特例を除き、関係者しか入れない
ディベロッパーやゼネコン向けにミストサウナのプレゼンテーションを行なっている「MISTY ROOM」。特例を除き、関係者しか入れない
「マイクロソフト」タイプのミストサウナ。写真は稼働中に撮ったもの。まったく霧が見えないが、数分も経つと浴室内全体が暖かくなり、じんわり湿ってくる
「マイクロソフト」タイプのミストサウナ。写真は稼働中に撮ったもの。まったく霧が見えないが、数分も経つと浴室内全体が暖かくなり、じんわり湿ってくる
マイクロミストサウナを稼働して10分ほど経った浴室。かなり湿度が上がっているのがわかる
マイクロミストサウナを稼働して10分ほど経った浴室。かなり湿度が上がっているのがわかる
窓の上に設置されているのは、戸建リフォーム用のミストサウナ。高い気密性が求められるため、ユニットバスが推奨されるが、現地施工の浴室にも設置はできる
窓の上に設置されているのは、戸建リフォーム用のミストサウナ。高い気密性が求められるため、ユニットバスが推奨されるが、現地施工の浴室にも設置はできる
スプラッシュミストを稼働させた浴室。防滴仕様のデジカメで撮影。小雨の中を歩いているような感覚になる
スプラッシュミストを稼働させた浴室。防滴仕様のデジカメで撮影。小雨の中を歩いているような感覚になる
スチームタイプのミストサウナを稼働させた浴室。かなり高温のサウナが楽しめるが、湿度が高いため身体は楽だった
スチームタイプのミストサウナを稼働させた浴室。かなり高温のサウナが楽しめるが、湿度が高いため身体は楽だった
足元用に洗い場の低い位置に設置するミストサウナ。上部のミストサウナと併用すると身体をこすらなくても全身洗いが可能(同社パンフレットから)
足元用に洗い場の低い位置に設置するミストサウナ。上部のミストサウナと併用すると身体をこすらなくても全身洗いが可能(同社パンフレットから)
ミストサウナ普及のカギは、より効率的なガス給湯機の普及にリンクする。写真の「エコウィル」をはじめ、家庭用燃料電池を使った給湯機など、マンション用に開発していく必要がある(同社パンフレットより)
ミストサウナ普及のカギは、より効率的なガス給湯機の普及にリンクする。写真の「エコウィル」をはじめ、家庭用燃料電池を使った給湯機など、マンション用に開発していく必要がある(同社パンフレットより)

じわじわシェアあげる「オール電化」

 オール電化マンションが急速に増えだしたのは、記者の記憶では2002年ごろから。IHクッキングヒータの性能が飛躍的に向上し、エコキュート(ヒートポンプ型電気温水器)の貯水タンクが小型化したことで、設置場所を取らなくなったことが背景にある。

 とはいえ、オール電化のシェアは、まだまだわずか。高効率のガス温水システム「TES」を使った床暖房、給湯のトータル提案は、2004年販売された首都圏新築分譲マンションのうち、75%で採用。TES以外のガス給湯も含めれば、ガスは90%近い圧倒的シェアをキープしてきた。

 だが、ここにきて、オール電化マンションが、じわじわとシェアを伸ばしてきている。IHクッキングヒータを前面に、「エコ」イメージ作りに成功し、近年のエコブームにうまくのったためだ。
 (株)不動産経済研究所調査によると、首都圏新築マンションにおけるオール電化マンションの戸数とシェアは、05年:1万1,900戸=14.1%、06年:1万1,621戸=15.6%、07年:1万1,195戸=18.3%と年を追うごとに高まり、08年には8,519戸=19.4%と2割に迫っている。

 しかし、オール電化のエコキュートが小型化とコストダウンが進む一方、次世代ガス給湯機の「エコジョーズ」はまだしも、ガスで発電しお湯を沸かす「エコウィル」、家庭用燃料電池「エネファーム」などはコストダウンが進んでおらず、苦しい戦いを強いられている。

 そこで、首都圏都市ガスの過半を占める東京ガス(株)は、かつて「ガス温水床暖房」で成功した「快適性」での差別化に取り組み出した。そのツールが「ミストサウナ」である。

入浴では味わえない快適性 意外に省エネ

 同社が提案するミストサウナは、ユニットバスに設置された浴室換気・乾燥・暖房ユニットに付加したもの。ガスで温められたお湯を細かい霧状にして噴霧。浴室内の温度・湿度を高めサウナ状態にする。お湯を霧雨のように吹き付ける「スプラッシュミスト」、細かい霧を使うことで読書も楽しめる「マイクロミスト」、やや高温の蒸気状の霧を用いる「スチームミスト」などの種類がある。

 室温が最高でも45度程度にしかならないため身体に負担がかからず、ゆっくり楽しめるのが最大のウリ。上半身が露出する入浴と違い、全身くまなく温まるため血行が促進されるほか、毛穴が開き、身体の汚れも落ちやすいことから、浴槽に入れない高齢者が入浴がわりに使うこともできる。また、ガスで温水を気化させるため、硬度が水道水の6分の1まで下がり、いわゆる肌触りの「柔らかい」ミストが楽しめる。

 省エネ性も高い。通常の入浴では、浴槽にお湯を張ると200L、シャワーなら1分間に10Lのお湯を使う。だが、ミストサウナ10分間では、もっともお湯を使うスプラッシュミストで10L、マイクロミストやスチームであれば2~5Lで済む。消費電力も30~60wだから、浴室乾燥に毛が生えた程度だ。価格も、乾燥器本体に約25万円のプラスと手ごろ。

ディベロッパー・ゼネコンへ「体感」でアピール

 さて、つらつらミストサウナの長所を書き連ねてきたが、いざ普及を図るとなると問題となるのが、この「快適性」をマンションディベロッパーやゼネコン(を通じてユーザー)にどう理解してもらうか、ということ。そこで同社は、新宿・横浜・大宮に、関係者向けのミストサウナ体験施設「MISTY ROOM」を設けた。これまで2年間に、現地販売スタッフも含めた関係者2,000名が体感済みだという。

 この関係者オンリーの「MISTY ROOM」だが、開発物件にミストサウナ導入を検討中の総合地所(株)の紹介で、筆者も同社とともに、東京都新宿区某所にある「MISTY ROOM」を体験取材することができた。

 同施設には、「スプラッシュミスト」「マイクロミスト(スチーム)」「マイクロミスト(ソフトタイプもあり)」の3タイプのミストサウナが合計5室。さらに、戸建リフォーム用ミストサウナや足元用ミストサウナなどがそれぞれ配置されており、現在販売されている商品すべてを体感することができる。
 来場者は、ガウンとバスタオル、発汗作用を高めるためのドリンクが渡され、各種サウナを体感して回る。各脱衣所には体重計・体脂肪計、血圧計や肌水分を計測するための機器が置かれており、その効果を数字で確認できる。

 筆者はまず、「マイクロミスト」から体感した。浴室内に入っても、ユニット吹き出し口を見ても、「霧」らしきものは確認できないが、室内はむっとしているし、壁には水滴が光っている。10分ほどすると、体がポカポカし、じわりと汗をかいてきた。なるほど霧の粒が小さい。これなら中で本も読めるだろう。

 次は、スチームタイプのミスト。写真を見てもらえば分かるが、温度が高いため、一般的な「低温サウナ」に近い感触が楽しめる。短時間でもっとも汗をかくことができたのが、このタイプだ。
 
 記者が一番気に入ったのが「スプラッシュタイプ」。スイッチを入れてしばらくすると、「スプラッシュ」の名の通り、霧雨のような「温かい霧」が、かなりの勢いで降り注いでくる。そのままじっとしていると、ものの1分で全身びしょびしょになる。これが気持ちいい。さらに5分もして室温が40度を超える頃には、汗も噴き出してくる。が、噴き出した汗はミストで即座に流されるので、これまた爽快。「バスタブいらず」である。

 意外に「使える」と思ったのが、足元用ミストサウナ。全身を洗った後にスプラッシュサウナと併用すると、シャワーを使うことなく、全身を洗い流すことができる。この手法は、体の不自由な人たちの介護にも流用できるのではないか。

 ちなみに、たっぷり1時間近くミストサウナを味わった記者の肉体は、顔・体の肌水分量が、体感前比で10%もアップしていた。体重は一切変化していなかったことは残念だったが…。

新しい「浴室文化」に

 今では、TESシステム浴室の4台に1台に設置されるまでになった「ミストサウナ」だが、さらなる普及へのハードルは低くない。

 それは、ミストサウナが浴室のような「生活必需品」ではないためだ。1台20万円を超えるミストサウナを導入して、どれだけ売行きが上がるかを、ディベロッパーは冷静に判断する。ゼネコンも、然り。「マンション売行きが悪くなり、施主から販売価格を抑えるよう指示されると、ミストサウナのような設備は、まっ先にVE(バリュー・エンジニアリング)のターゲットになる」(東京ガスリビング営業本部 集合住宅営業グループマネージャー・佐藤弘直氏)からだ。

 とはいえ、先進的な住設機器は、ユーザーの理解が深まれば、すぐに「あって当然」の設備へ変化する。「ぜいたく品」だったガス床暖房も、登場から10年もたたずに、当たり前の設備になった。

 「ミストサウナという、新しい入浴文化を作りたい」(同氏)と意気込む同社。今後は、ユーザーへの周知と、コストダウン、エコジョーズやエコウィルとリンクした「エコ」からの提案などが課題になるだろう。(J)

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