記者の目 / 開発・分譲

2010/6/22

「不人気立地」をどう料理するか?(3)

長谷工コーポレーション・住友林業「ザ・ハウス港北綱島」の場合

 最寄駅までの距離は、分譲マンションの魅力を左右する大きなファクターだ。その意味で、大きなハンデを背負っているのが「バス便」立地。同じ駅圏でも販売価格は大きく違うし、それを覆すにはインパクトのある商品企画が必要だ。そうしたアクセス難のハンデを吹き飛ばすべく作り込まれた分譲マンションを見つけた。(株)長谷工コーポレーションと住友林業(株)による「ザ・ハウス港北綱島」(横浜市港北区、総戸数487戸)。「マンションのプロ」と「戸建住宅のプロ」が手を組んだ、多彩な生活提案がウリだ。

「ザ・ハウス港北綱島」完成予想図。敷地中央のプロムナードを通じて、すべての棟が結ばれており、コミュニティの舞台となる
「ザ・ハウス港北綱島」完成予想図。敷地中央のプロムナードを通じて、すべての棟が結ばれており、コミュニティの舞台となる
専用庭を持つ住戸はプロムナードと接している
専用庭を持つ住戸はプロムナードと接している
個々の部屋にリビングの持つ「くつろぎ」「コミュニケーション」機能を与えたのが「aルーム」。プライベートの快適さとコミュニケーションが容易な開放感を併せ持っている
個々の部屋にリビングの持つ「くつろぎ」「コミュニケーション」機能を与えたのが「aルーム」。プライベートの快適さとコミュニケーションが容易な開放感を併せ持っている
玄関側の居室を「aルーム」としたモデル。玄関から靴を脱がずに直接アクセスできるほか、趣味のための用具を収納する「aクローゼット」を挟んで、キッチンへの動線が作られている。カルチャースクールなどを開く主婦をイメージした
玄関側の居室を「aルーム」としたモデル。玄関から靴を脱がずに直接アクセスできるほか、趣味のための用具を収納する「aクローゼット」を挟んで、キッチンへの動線が作られている。カルチャースクールなどを開く主婦をイメージした
「aルーム」は、有効面積を増すため原則引き戸を採用するほか、人の気配を感じさせるよう、必ずガラス窓が設置されている。また、飾り棚などを簡単に取りつけられるよう、あらかじめクロス内側にべニアボードを仕込んでいる
「aルーム」は、有効面積を増すため原則引き戸を採用するほか、人の気配を感じさせるよう、必ずガラス窓が設置されている。また、飾り棚などを簡単に取りつけられるよう、あらかじめクロス内側にべニアボードを仕込んでいる
リビングと専用庭に接した「aルーム」。全開口サッシュによりリビングとのつながりを意識する一方で、専用庭に接することで、外部とのコミュニティスペースとしての機能も狙っている
リビングと専用庭に接した「aルーム」。全開口サッシュによりリビングとのつながりを意識する一方で、専用庭に接することで、外部とのコミュニティスペースとしての機能も狙っている
ユーザーと販売スタッフの声を商品企画にいかした「ユーズスタイル」。玄関収納は、収納力だけでなく、収納のしやすさへの工夫やスツールの設置など利便性も高めている
ユーザーと販売スタッフの声を商品企画にいかした「ユーズスタイル」。玄関収納は、収納力だけでなく、収納のしやすさへの工夫やスツールの設置など利便性も高めている

バス便&工場跡地、立地条件だけなら苦戦は必至

 同物件は、東急東横線「綱島」駅から徒歩20分、もしくはバス7分バス停徒歩1分に立地する、地上7階建てのマンションだ。綱島駅までのバスは1日290本、通勤時間帯には4分間隔で運行されているものの、駅の手前にある橋がボトルネックとなり、朝夕のラッシュ時や休日、雨の日など、恒常的に渋滞する。時間が読めない、深夜帰宅に制限がある点で、大きなハンデとなるのは否めない。

 また、建設地は工場跡地で、周囲には今でも工場が点在する。周辺の工場跡地が、大型スーパーやディスカウントストアなどに続々と姿を変え、実は生活利便性は上々なのだが、幹線道路も近くやや騒々しいほか、敷地南側に閉鎖された工場がそのまま残っており、将来的にどのように開発されるかという点でも不安が残る。

 このように、単純に立地条件だけを書き連ねていくと、地元住民以外のユーザーは、それだけで敬遠してしまうだろう。また、このロケーションで、平凡なファミリーマンションを分譲すれば、まず苦戦は必至だ。だが、同マンションには、立地のハンデを覆しておつりがくるほどの工夫が盛り込まれていた。

家族、個人、街、自然…「つながり」がテーマ

 

 同物件は、基本テーマを「つながり」としている。

 最近では、「個」が重視されるマンションライフを変えるべく、家族間のコミュニケーションを重視した間取り、あるいは共用施設やサークル活動など、マンション内での住民同士のコミュニティ円滑化を支援する商品企画に取り組むディベロッパーは珍しくはない。だが、同物件では、その一つ一つで、独特のアプローチを試みている。

 まず、ランドプランがユニークだ。
 敷地の中央にプロムナードと、小道を張り巡らせている。プロムナードはメインエントランスからサブエントランスまで抜けており、すべての棟の住民が(晴れていれば)そこを歩くことになるだろうから、住民同士が自然と顔を合わせる、日常的なコミュニティ空間となる。多くのマンションの場合、敷地中央に中庭を設けるなどしてコミュニティスペースとするが、動機付けとしては弱い。同物件のアプローチは、日常生活そのものからコミュニティを生み出す点で大きな効果が期待できる(URの大規模団地などを見ても、街区同士を結ぶ街路が重要なコミュニティ空間となっている)。

 プライバシー確保の点から歓迎しない居住者も多少はいるかもしれないが、住民同士のコミュニティが活性化すれば、そうした声も小さくなるだろう。

家族それぞれがリビングを持つという発想

 一方、個々の住戸プランでは、「つながり」を意識した新発想の居室「aルーム」が、最大の特徴だ。

 これまで、マンションにおけるコミュニティの中心は「リビング」だった。広いリビングに家族が集まる、あるいはお客さんを呼んで語らう。また、近年では、子供の勉強スペースや家族全員が使うライブラリーをリビングに設置するといった試みも多く見られる。同マンションの「aルーム」は、こうしたリビング中心のコミュニティとは、まったく考え方が違う。

 「aルーム」の基本コンセプトは、「家族それぞれが快適な空間を持つ」こと。趣味や勉強、仕事など、個人個人が最も快適に使える空間としてのしつらえをしつつ、家族や住戸の外とのつながりを重視した空間としての可能性を持たせた部屋である。

 例えば、あるaルームは、玄関からそのまま入れる作りにしてあり、多目的に使える収納空間(aクローゼット)を介してキッチンとつながっている。奥さんが趣味を生かして手芸教室などを開いたりできるよう、考えられた空間だ。また、ある住戸では、専用庭に隣接した部分にaルームを設けている。タイルが敷き詰められたこの空間はフルオープンサッシュを介してLDKとつながり、かつ専用庭越しに街路ともつながっている。居室としての趣味の空間としてはもちろん、住民を呼び込んでのコミュニティスペースとしても機能する。

 個々の居室ではあるものの、外とのつながりを意識しているのが特徴で、居室にはすべて、家族が中の様子を確認できるようガラス窓を設置。多くの居室を引き戸として、戸を開け放ち使えるようにしている。また、ラックなどを簡単に設置できるよう、壁内部にボードを仕込んでいる。

 現時点で間取りが発表されている340戸のうち、aルームが用意されているのは、65プラン・130戸。全間取りプラン(120通り)の半数以上に用意されていることになる。そのそれぞれが、家族構成や趣味用途などさまざまなパターンを想定して作り込まれている。このあたりは、従来の長谷工コーポレーションのマンション企画では見られなかったものであり、請負住宅で数多くのユーザーのライフプランを実現してきた、住友林業のノウハウが反映されているようだ(ちなみに、室内デザインや建具デザインも一般的な長谷工マンションとは微妙にテイストが違う)。

ユーザーの声を生かした快適アイテム

 設備機器では、首都圏では初採用となる「U's-style(ユーズスタイル)」が目を引く。

 ユーズスタイルとは、マンションユーザーからの声と、同社販売スタッフの意見をいかしてラインナップした設備仕様のこと。一つ一つは決して目新しいものではないが、「あると便利」なものが多数用意されている。

 たとえば、玄関には、スライド式のスツールが備わったシューズボックスや、靴を履いたまま、住戸内全室の消灯ができるスイッチを設置。トイレには、防音性の高いシャットスルードアとオートライト(夜間は20%の明るさで眩しさを防ぐ機能も)。内部にコンセントを備えた照明スイッチや、リビングドアへのドアチェック、使い勝手を工夫した洗面ドレッサーなども、すべて標準採用される。

 長谷工は、すでに4年前から、このユーズスタイルを関西圏で展開していた。記者は、それを取材・紹介し、同社の関係者に「首都圏でも絶対やったほうがいい」と何度も提言していたのだが、ほんのわずかなコストアップでも、首都圏の事業主は容認してくれなかったようで、一向に採用されなかった。

 そうこうしているうちに、マンション市況は悪化。ディベロッパー各社もこうした工夫を盛り込まなければユーザーが評価してくれないことに気が付き、今では多くの会社が、こうしたユーザーの意見を取り入れた設備機器の採用に踏み切っている。その意味で、長谷工の提案は時代を先取りしていたわけで、皮肉にもこういう状況になってようやく願いが通じたというところか…。

実物を目にすると買いたくなるマンション

 最後に、販売状況について。

 販売開始は、2月20日。現在販売中の58戸(3LDK・4LDK、専有面積71~100平方メートル)は、販売価格3,758万円~5,428万円、坪単価182万円。バス便ではあるものの、東急東横線を最寄りとするマンションとしては高くはない。これまでに96戸が売り出され、68戸が販売済みだ。
 「反響のほとんどが、地元港北区と隣接の鶴見区。地元の人は、周囲の交通環境を良くご存じなので、バス便を気にされる方は少ないですね」とは、販売センター担当の小山利器氏の弁。

 冒頭にも書いたが、このマンションは、スペックだけ眺めていても、魅力が見えてこない。モデルルームはもちろんだが、実際にマンションが竣工し、ランドプランや「aルーム」を見れば、評価は変わってくる。こういうマンションが売れるようになれば、市況回復はホンモノだ。(J)

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