ナイス、「全戸CASBEE最高ランク」の建売団地を完成
ここ数年「環境推し」が続く、住宅・不動産業界。環境配慮は、省エネルギーにも通じることから、東日本大震災以降、さらにその傾向が高まっているのはご存じの通りで、住宅の環境効率を“見える化”する「CASBEE(Comprehensive Assessment System for Building Environment Efficiency=建築環境総合性能評価システム)」も一躍事業者・ユーザーに注目されるようになった。そうしたなか、このCASBEE最高ランク(S)を全棟で取得した戸建団地がある。ナイス(株)が開発した「CASBEE・Sランクタウン」(横浜市鶴見区、総戸数8戸)がそれ。この団地のすごさは、環境性能の高さだけでなく、「圧倒的に価格が安い」ということ。環境と価格を両立させた同団地の秘密に迫る。










希少性高いCASBEEトップ評価の戸建て
まずは、ごく簡単に、CASBEEの仕組みを説明したい。まず、住宅の「敷地内の環境品質」の数値を弾く。それをもとに「敷地外に与える環境負荷」で割った値を出す。住宅そのものに加え、外構や設備、その製造段階や施工段階での環境負荷も対象となり、その値が大きい、つまり質の高い環境で、周囲への環境負荷を抑えた住宅ほど「環境性能が高い」と評価される。
「環境品質」の指標は、室内の暑さ・寒さ、明るさ・暗さ、健康と安全安心などの「室内環境」、長寿命化・維持管理などの「長く使い続けるための対策」、それに「まちなみ・生態系」など。「環境負荷」は、建物設備の省エネを中心とした「エネルギーと水を大事に使う」「資源を大切に使いゴミを減らす」「地域周辺環境への配慮」などの指標がある。
ここまでの内容で気付いた読者もいるだろう。「これって、長期優良住宅じゃないか」と。そのとおりである。長期優良住宅であれば、CASBEE取得は難しくない。
だが、戸建住宅となると結構難しい。周辺環境への負荷をまとめてコントロールできるマンションと違い、戸建住宅の場合、個々の住宅により条件が異なるため手間がかかる。手間がかかれば、コストもかかる。特に分譲住宅は、注文住宅と違い販売価格に限界があるから、ますます環境配慮に手をかけづらい。
そうしたなか、同社は全国初の「1団地まるごとCASBEE最高ランク(S)取得」を成し遂げた。戸建てのCASBEEは全国的に浸透しておらず、6月末現在で26棟が認証されているのみと希少性が高い。このうちSランクは21棟(つまり、意識の高い事業者・ユーザーだけが申請しているという裏返し)あるが、そのなかで同社は実に9棟のSランク取得を達成しているのだ。
「高性能でも安い」業界の常識覆す
「CASBEE・Sランクタウン」のベースになっているのは、同社が2009年から開発を進めてきたオリジナル住宅「パワーホーム」だ。
「パワーホーム」は、「高性能な家は値段が高いという業界の常識を覆し、30歳代の子育て世代が庭付き戸建てを無理なく取得できるようにしたい」という同社・平田恒一郎社長の想いを具現化したもの。耐震金物を使った「パワービルド工法」などにより長期優良住宅基準を上回る、耐震等級3を実現。LOW-E断熱サッシュ、床断熱(基礎断熱)などの導入で省エネルギー対策等級の最高等級4を、断熱区分II(東北地方)でクリアしている。住宅履歴は、グループ会社が蓄積・提供する。
一方、CASBEE認定取得にあたっては、高断熱浴槽や止水スイッチ付き蛇口、高効率エアコン、節水型便器、雨水タンクなどを採用したほか、リサイクル材を使ったサイディングやエクステリア商材も投入。緑被率50%以上を達成するため、ガレージ部分まで緑化。施工段階での効率化を図ることで工期を45日とし、環境負荷をトータルで軽減。躯体などに大幅な手を入れることなく、太陽光発電のような高価な環境対策なしに、最高ランクを取得した。
平田社長も「はじめからCASBEEありきでつくっていたわけではないが、今回多少手を入れただけでSランクを取得できたことから、パワーホームがそれだけのクオリティを持つ商品であると再認識した」と自信を深めている。
コストダウンに涙ぐましい努力
もっとも、こうした手間を惜しまなければ、どの事業者でもCASBEE最高ランク取得はそう難しくはない。同社のSランクタウンがすごいのは、価格が驚くほど安いということだ。
今回のSランクタウンは鶴見エリア屈指の住宅街に位置するため土地価格が高く、平均販売価格は5,200万円台だったが、2階建て・専有面積97平方メートル(約30坪)の建物価格は、わずか1,600万円。長期優良住宅基準を余裕でクリアする住宅と考えると、破格の安さだ。
「同じ性能を持つ従来商品と比べ、500万円はコストダウンできているはず」とは、パワーホーム開発に携わってきた同社事業開発本部部長の有賀康治氏の弁。木材事業が主力の同社だから、建物の主要構造材をリーズナブルに入手できるアドバンテージはあるが、その他にも数々の涙ぐましい努力をしている。
例えば、外壁のサイディングは、すべて大きさを揃えてある。企画型住宅であることから、デザインが異なってもサイズは同じであることから、現場の手間(人件費)を減らす工夫だ。
また、床断熱・基礎断熱を採用するため、床下に配管を回さない。つまり、配管はすべて外壁に露出している。都市型住宅は隣との間隔が狭いため、それほど問題ないだろうという“割切り”だが、美観を保つため外壁と同系色で塗装している。同様の理由から、浴室を2階に設置。1階だと基礎を「ハツる」(削る)必要があるためだ。配管が露出していれば維持管理は容易であり、床下の点検口や掃除口も必要ないから施工コストは下がる。
間取りの考え方も、コストダウンに則っている。
すべての住戸のベースプランは同じ。1階はLDKとトイレ、2階に洗面・浴室・トイレ、間仕切りなしという1LDKだ。周囲の壁だけで十分な耐力を持たせているため、建物内に余計な構造壁はない。「後は必要なだけ部屋を作ってください」という同社の提案である。床が先行して施工されているため、間仕切りは自由。ライフスタイルに合わせて、2部屋にでも3部屋にでもできる。同社はこれを「進化型住宅」と呼称している。
とどめは、室内。どの居室も、標準照明やクロスもすべて統一し、それはシンプルそのもの。建物の絶対性能を司る部分(構造体や窓)に徹底的にコストをかけているのとは対照的だ。
「パワーホームを検討されるほとんどのお客様が、そのままの状態か、もしくは『とりあえず寝室だけ作ってほしい』というオーダーをされます。間仕切り施工には100万~200万円のコストがかかりますが、分譲住宅の場合であれば販売価格で吸収することも可能です」(有賀氏)。
パワーホーム普及で日本の住まいを変える
「パワーホーム」は、同社の建売住宅事業をも変えつつある。
永住率の高い建売住宅ユーザーは、間取り等に自分の好みを反映させようという意思が強いため、事業者は「建築条件付き土地販売」いわゆる「売建て」という手法を用いる。だが、売建ては、建物がオーダーメイドとなるため時間がかかり、事業回転が悪い。キャンセルされた場合も、特定のユーザー向けに作った間取りでは、売りづらい。
だが、パワーホームであれば、ベースが企画型で間取りが自由自在であることから、モデルハウスがなくてもユーザーにプレゼンが可能。つまり、100%「建売住宅」で販売することができるのだ。
同社の戸建供給戸数は、概ね年間200戸程度だが、今年度はパワーホームを武器に300戸程度まで引き上げる。販売が効率化し、事業回転率が上がれば、コストダウンができる。そのコストを、さらなる環境対策に振り向けることも可能だろう。
同社は、従来から耐震強度の高い住宅供給を社是としてきた。また、東北エリアでの住宅供給数も少なくない。それだけに、今回の東日本大震災を機に、さらなる住宅の耐震化への使命に燃えている。
「当社をはじめ、フランチャイズ組織も通じ、パワーホームをもっともっと普及させ、日本の住まいを変えたい。住まい選びにおいて、耐震強度は“絶対指標”にならなくてはダメだ」(平田社長)。(J)
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