タワー型シェアハウスの新しい試み
昨年頃から大手企業を中心に大型シェアハウスの竣工が相次いでいる。シェアハウスが住宅市場で評価されたきた証といってもいいだろう。今回紹介する「シェアプレイス駒沢」(東京都世田谷区、全73室)もシェアハウスの中では大規模、かつ業界初といっていい新築タワー型だ。 シェアハウスの魅力といえば入居者同士のコミュニティや交流。従来のシェアハウスは大半が小規模で、大規模でも低層、ワンフロアの床面積が広いというタイプが多く、例えば1階を共用部にあてても、すぐに降りられる距離にあるため、入居者が集まりやすかった。ところが、今回のシェアハウスは12階という縦に長いタイプ。従来のように低層階部分1ヵ所に共用スペースを設けると、高層階の入居者には距離ができてしまう。その問題点を解決するためにクラスター制という形態を採用している。












◆縦の距離感を解消。“クラスター”という考え
同物件は東急田園都市線「駒沢大学」駅徒歩7分に立地。地上15階建てで、シェアハウス部分は2~13階となる。事業主は地域密着型で賃貸物件の運用・管理などを行なう、創業60年の(株)サナイコーポレーション。企画、リーシング、運営はすでに12棟・全736室のシェアハウス運営の実績がある(株)リビタが行なう。
「クラスター(Cluster)」とは、英語で同種のものや人の集まりを指す。同物件では、3階から13階の居室スペース部分を数階ごとに趣味・趣向で区切った4つのグループに分け、その各集合体をクラスターと表現している。具体的には、「美容を意識した『beauty』」(3~4階)、「充実したキッチングッズのある『cook』」(5~7階)、「シェア本棚を備えた『think』」(8~10階)、「開放的な眺望を満喫、くつろげる床座スタイルの『feel』」(11~13階)というもの。3、6、9、12階にクラスターごとの専用ラウンジ(約45平方メートル)を設けた。入居希望者は入居時にクラスターの希望を申請できる。
いずれもラウンジ内にはキッチンやその周辺器具などを標準装備。また、ラウンジのある階に基本、シャワーブースやランドリールームなどその他水回りも設置されており、これもクラスターごとで共用するかたちになる。
◆趣味、スキルを高めるラウンジ
今回は、4つのクラスターの中でも記者が特徴的と感じた2つのクラスター専用ラウンジについて紹介したいと思う。
まずは、3階の『beauty』。こちらは女性に人気のイスラエル発・ボディケアコスメブランドの「SABON(サボン)」が空間をプロデュース、女性専用のクラスターになる。「SABON」の店内をイメージしているというそれは、アンティーク調を意識した華やかな雰囲気。各所に「SABON」商品が置かれており、それもインテリアのアクセントになっている(ただ、今後も「SABON」コスメを常備するかは未定だそう。コスト的に難しい部分もあるようだ)。
「SABON」とのコラボは、リビタが運営する複合施設「THE SHARE」(東京都渋谷区)に「SABON」が入居していることがきっかけだという。オープニングイベント以降のイベント開催などは入居者に委ねるというのが基本的なスタンスのようだが、せっかく両社に継続的な接点があるならば、有料制で「SABON」スタッフによる美容教室開催なども喜ばれそうだ。
次に9階の『think』。このクラスターのテーマは「本好き」だ。ラウンジにシェア本棚を設けて、入居者同士で各人が所有する本をシェアしていこうというもの。このシェア本棚にはさまざまな業種・ジャンルの人々、しかも本好きばかりとあれば、魅力的な本が集まるだろう。そこから新たな面白い発見・発想が生まれていきそうだ。本棚には部屋番号がふられているため、入居者は自身の部屋番号の棚に置き、借りる側も元の場所に返却すれば誰のものかわからなくなるという心配もない(なお、退去時は自身の本は原則回収するが、他の入居者に譲るなどは自由)。
ラウンジ内装もすでに積まれた本をテーブルの脚にみせていたり、テーブルの上には本のオブジェがあったりと本好きにはたまらない空間になっている。
なお、クラスター専用ラウンジに、他クラスターの入居者が遊びに行くということも可能。もちろん女性専用スペースは女性のみとなる。
◆“価値”をシェアする時代
同物件の総事業費は非公開だが、通常のワンルームマンションを建てるのと大差ないという。賃貸住宅の空室化が深刻な中、この立地であれば、学生・社会人の入居が見込めそうだ。あえてシェアハウスを選択した事業主は、「さまざまな夢を描けて、後にあそこに住んで良かったと振り返ってもらえる賃貸住宅を作りたい。また、単なる住宅ではなく駒沢の地域交流の拠点にもしたい」という思いがあったという。入居者同士や入居者と地域のコミュニティを形成してきた、リビタのシェアハウスづくりに魅力を感じたようだ。
そのリビタはここ数年のシェアハウス市場の移り変わりをどう考えているのか。
同社は、現在のシェアへの概念を「シェア3.0」と定義する。初期を指す「シェア1.0」はエコノミーを重視し、人とモノを共有することで節約やエコにつながるとその合理性が重視されていた。そこから「シェア2.0」と進化し、場所を同じくすることで生まれるコミュニケーションや情報・人脈をシェアするという点に注目が集まった。
そして、ここ1~2年は「シェア3.0」に進化したとしている。それは“価値”のシェアだという。「コミュニケーションから生まれた価値を共有し、個人のパフォーマンス最大化のために積極利用する」「高めた価値(知識・スキル)を相互交換し、さらに高め合う」「SNSを活用し、情報・人脈を積極的に広める」といった傾向にあるという。供給側もこの観点を意識したシェアハウスづくりが求められているというわけだ。
その意味で今回のクラスター制は、「3.0」に対応したステージが整っているといえるが、一方で、クラスター同士で固まってしまう恐れもあるように思う。そうなってくると入居者間のトラブルも生まれやすいだろう。全体の交流を促進していくためには、2階の全体共用スペースを活用しながら、クラスター間の交流も生んでいくことがカギとなりそうだ。
同物件の専有面積は7~11平方メートルで、賃料は7万~8万5,000円(別途共益費1万5,000円)。2月初旬より募集開始し、現在、58室に申し込みが入っている状況。3月1日から順次入居も開始している。
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余談だが、このクラスター制を導入した大規模シェアハウスが今秋にもオープンする。イヌイ倉庫(株)が事業主の「月島荘」(東京都中央区)だ。何とこの物件、敷地面積6647.62平方メートル、地上8階地下1階建て、3棟構成の総室数644室で、シェアハウスでは過去最大規模となる。室数の多さからもわかるようにクラスター数も相当の数になりそうだ。
もっとも、同物件は社宅として提供する方針で、入居募集対象は企業となる。現在説明会が開催されており、10月より入居開始予定だ。もちろん、企業ごとにクラスターを分けるなどではなく、あくまでも契約を結んだ企業の社員であれば、所属するクラスターの希望を申請できる(ただし、先着順)。つまりはさまざまな業界、業種の社員がミックスされるかたちになる。
この物件も企画・運営コンサルティングをリビタが担当しているが、この大人数の中、クラスターシステムがいかに機能して、新たな“価値”を生むのか、「シェアプレイス駒沢」と併せて注目だ。(umi)
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