日本初、「好きな写真を壁紙に」サービス
賃貸住宅市場を席巻している「カスタマイズ」ブーム。しかし、実際は業者の提供する選択肢の中から好みのもの(壁紙や建具など)を選ぶのが主流であり、ユーザーが本当に好きなものをチョイスできるわけではない。そうした中、ユーザーが本当に自分の思い通りの「写真」を「壁紙」として貼ることができるサービスを、賃貸管理会社の(株)アミックス(東京都足立区)が開始した。提供コストは安価でインパクト抜群。同社は、壁紙1枚でリノベーション並みの効果を発揮する、と自信満々だ。







コストと手間かけず最大限の成果を
アミックスは、東京城東地区中心に約9,000戸をサブリースする中堅賃貸管理会社。管理物件のほとんどは築20年前後のワンルームで、ここ数年はその空室率と収益改善に頭を悩ませてきた。
賃料も安いワンルームの場合、水回り等の交換など値の張る設備投資はしづらく、もしリフォームやリノベーションをしたとしても、必ず入居者が決まるわけではない。
「さらに、最近はさまざまな色彩の壁紙を使用する、セルフリノベーションを行なうといった“個性”が求められるようになってきた。これらを安価にする方法はないかと、ずっと考えてきました」(同社常務取締役・榎 和志氏)。
そんな昨年末、榎氏は人づてに、「壁紙へ自由に写真をプリントできるプリンターがある」という話を聞く。
「もともと、海外でDIY用に作られたプリンターでした。これまでも壁紙に印刷できるプリンターはありましたが、インク溶剤の匂いが強烈で住戸には使えませんでした。このプリンターは、インクが水性で匂いがなく、ホームページに写真をアップロードするだけで簡単にプリントアウトできる優れもの。印刷コストもそれほど高くなく、これならば、賃貸住宅に利用できると直感しました」(榎氏)。
諸経費込300万円と決して安価な投資ではなかったが、同社は思い切って購入。今夏から、新サービス「MyWallPaper」を自社物件でトライアル開始した。
「MyWallPeper」は、居室の長辺の壁1面に、ユーザーが自分の好きな写真を壁紙として貼ることができるサービス。アミックスは、自ら「販売店」となるほか、他の賃貸管理会社や賃貸仲介会社と販売店契約を結び、同時に物件オーナーと「壁の使用」と「費用負担」について承諾を取り交わす。
対象住戸に入居を希望するユーザーには、販売店(アミックス)から、写真のダウンロードサイトにアクセスするためのアカウントがメールされる。ユーザーは、サイトにアクセスし、自分の手で画像データをアップロードする。
画像データは、ごく一般的なデジカメ(スマートフォンや携帯、タブレットのカメラ)の画素数(1,000ピクセル)で十分きれいに印刷できるが、サイトで任意の場所の印刷精度も確認できる。また、トリミングや文字入れもできる。
すべてがユーザーの思い通りに仕上がった段階で、サイトからデータを印刷所(取り扱いが難しいため、プリンターは印刷所に設置してある)へ送り、印刷。その壁紙を内装業者が貼るという流れ。
壁紙の大きさは、94cm×230cm。当面は、これを4枚使うことで、標準的なワンルーム壁の長辺360cm×230cmという規格商品として提供していく。1回の印刷経費は、壁紙込み数万円で、高級輸入壁紙ほどは高くない。
肖像権・著作権の問題もなし
このサービスの最大の長所は、費用対効果が高いことに加え「入居者が決まってからの投資」(成功報酬型)である点。募集段階ではサービスそのものをアピールするだけでコストはかからず、ユーザーが普通の壁紙がいいといえばそれでもいい。オーナーにとっては、リフォームやリノベーションのように、投資が無駄になる心配がない。
また、壁紙の作成については、ユーザーと印刷所のやりとりで完結するため、管理会社の手間がない。きちんと仕上がっているかどうかの確認だけで済む。
そして、管理会社やオーナーも、リフォームやリノベーションについて、あれこれ頭を悩まさなくていい。これも大きい。ユーザーが自分の好みを自分で実現してくれるため、ユーザー満足度は原則100%。壁紙一枚で部屋の印象を一新し、リノベーション並みのインパクトが期待できるというわけだ。
初めてのサービスだけに、導入にあたっては検討課題もあった。もっとも大きな問題は「肖像権・著作権」。有名タレント等の写真を壁紙にして、問題はないのか?という点だ。「これについては、入居者が個人的に利用する、不特定他者の目に触れないのであれば問題ないという結論でしたが、念のため入居者から契約時に“写真(壁紙)は個人使用に限定する”という念書をいただいています」(同氏)。雑誌の切り抜きを壁に貼って、個人で楽しむのと同じ行為というわけだ。
ただし、退去にあたっては必ず壁紙を剥がすことが前提。もちろん、肖像権や著作権の生じる写真を貼って「○○のある部屋」などと募集をするのは(著作権者の承諾を得ない限りは)ご法度となる。
テナントリテンションでの活用やコミュニティの仕掛けに
同社では、7~9月にかけ空き住戸10室に同サービスを試験導入。プレスタートだったため、ユーザーの希望の写真ではなく、同社が選んだ写真を貼りこんだが、うち6室が早期に入居者が決まるなど、一定の成果を挙げた。
ただ、課題も見つかった。「いくつか違う写真を貼って気が付いたのですが、写真と天井、フローリングとの相性を考えないと、写真が映えないことがわかりました。明るい写真の場合は他の部位も明るく、暗い写真の場合は暗く。なんでも合うわけではないと」(同氏)。
また、一部住戸では、『白い壁紙に戻してくれ』とオーダーされた。同社は、客付けを仲介会社に依頼しており、業者との連絡不足が原因だった。
同社は、このサービスを新規募集だけでなく、更新時のテナントリテンションサービスや、既存入居者への有料販売など幅を広げていく方針。「メインターゲットは、オタクユーザー。部屋や設備の古さを全く気にしないけど、こだわりを持つ事にはとことんお金をかけるから」(同氏)。壁紙サイズのオーダー化や天井、フローリング、照明などを含めたトータルコーディネートなど、廉価版のセルフリノベーション手法として発展させていく。
「この壁紙、実は外壁にも問題なく使えます。ですから、外壁を1つのテーマにアレンジできる。かつてのときわ荘のように、1つの趣味や仕事を同じくするユーザーを結びつけることができる。今後は、こうしたコミュニティづくりの仕掛けとして、使っていきたいと考えています」(同氏)
リノベーション市場全体が、デコラティブな方向に向かっていく中で、壁紙一枚でインパクトを与えるという同社の手法は、注目される。オーナーや管理会社にとっても、ローコストの活性化策としての福音だし、ユーザーの反響を追跡取材したいと思う。(J)
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