世界的ブランドホテル「リッツ・カールトン」ついに進出
国内外から年間5,000万人もの観光客が訪れる世界有数の観光都市である、京都。ところが、観光で経済が成り立っているといっても過言ではない京都にあって、今まで無かったものがある。それは、国際的なブランドネームを持つ高級ホテルである。都市間競争がグローバル単位へと拡大する中で、世界に通じるホテルを備えることは、国際都市としての必須条件。そうした中で、ついに京都にも国際的ブランドネームを持つホテルが誕生した。それが、「リッツ・カールトン京都」(京都市中京区)だ。記者は2月7日の開業を前に、運よく施設を見学することができた。













老舗ホテルの歴史を承継。リッツ初の単独建物
同ホテルは、市営地下鉄東西線「京都市役所前」駅徒歩6分、京都を南北に流れる鴨川沿いに立地する。建設地周辺は、江戸時代の武家屋敷街。祇園、先斗町、河原町など、京都を代表する繁華街にほど近く、かつ繁華街からは少し離れた川沿いというロケーション。東北方向には、大文字焼きで有名な東山も望める。6,000平方メートルという規模も、開発規制の厳しい京都では貴重だ。
それもそのはず、このホテルが建つのは、京都を代表する老舗ホテルだった「ホテルフジタ」の跡地。長年京都市民に愛されてきたホテルの歴史を、世界に名だたる高級ホテルが引き継ぐ。建設地は、2006年に積水ハウス(株)が取得。そのままホテルを運営していたが、11年にホテルフジタを閉鎖。建て替えと同時に、リッツ・カールトンホテルの招聘を決定した。積水ハウスは関西が地盤。関西で、自社を代表する事業を興したいという想いが、トップブランドの招聘につながった。
リッツ・カールトンホテルは、すでに東京や大阪、沖縄にも出店しているが、いずれも複合ビル内への出店(沖縄は既存建物のコンバージョン)。それだけに、単独建物となるこのホテルは、リッツ・カールトンの想いがふんだんに、かつストレートに盛り込まれている。積水ハウスは建物所有者として建築設備や外観デザインに日建設計を起用。客室等のデザインはレメディオス・デザインスタジオが起用され、リッツ・カールトンのコンセプトのもと建物を作り上げている。
「和」と「東洋」が交じり合う独自の様式
建物は、日本一厳しいといっても過言ではない京都の景観規制を反映し、地上4階地下3階建てに高さを抑える。その外観は、深い庇を持つ寄棟状の屋根を持ち、古都の風景になじむ徹底した「和」のしつらえ。さらに、ホテルフジタ時代の石積みや植栽、灯篭などが数多く移設されており、土地の持つ歴史を承継している。
新たに設けた4つの庭園は、作庭家の野村勘治氏が手掛けた「四神相応」をテーマにしたもの。通常、ホテルの庭園は、パブリックスペースから見渡せるものだが、この庭園は限られた客室からしか見ることができない(内廊下など、庭園に面した方角には窓が一切ない)。宿泊客だけの贅沢という位置づけが面白い。
さて、建物内はというと、日本・アジア・欧米のデザイン様式が巧みに織り交ざった、独特の雰囲気に包まれている。基本デザインは、日本独自の格子や七宝模様、西陣に代表される織物模様などがモチーフとなっているが、ロビーラウンジなどは、和をベースとしながらも、どこかオリエンタルなイメージが漂っている。このあたりが、「欧米人の好むアジア」のイメージなのだろう。パブリックスペースには、「源氏物語」をモチーフとした400近いアート作品が展示されているのが目を引く。
レストランは、日本料理、イタリア料理、バーの大きく3つ。オリエンタルにデザインされた開放的な造りで、よりプライベートな会食の際には、チャージが必要な個室を利用するスタイル。
圧巻は、イタリアンレストランの「ラ・ロカンダ」。関西財界を代表する実業家・藤田傳三郎氏の京都別邸(夷川邸、もともとホテルフジタ敷地内にあったもの)をそのままレストラン内に移築。会食用の個室として利用しているのだ。モダンなレストランの中に、明治時代に作られた書院造の部屋をそっくりそのまま持ってくるというのは、斬新を通り超えた提案だ。
宴会場などとともに地下に設けられたスパには、20メートルのプールが備わっており、そこからは、石積みを流れ落ちる滝を借景に、鴨川のせせらぎが聞こえてくる。スパへのアプローチは、アート作品が並ぶ長い廊下を歩くが、帰りにはわざわざ違う廊下を歩かせるという贅沢な造りにしているのもびっくりした。そういえば、ホテルエントランスのアプローチも、わざと長くしてあった。そこを歩かせることで、違和感なく「リッツの世界」へ誘おうという演出なのだろう。
平均50㎡の客室。半数が鴨川と一体化
一方の客室も、並みのホテルを圧倒する贅沢な造りである。客室は全134室。広さ45~62平方メートルのデラックスルーム(47室)、52~55平方メートルの「ラグジュアリー」(55室)をメインに、62~212平方メートルのスイートルームが16室。平均は50平方メートル。75室が鴨川側のリバービュー、15室が中庭を堪能できるガーデンビューだ。鴨川沿いの客室からの風景は、完全に川辺と一体化している。
室内も、無垢の縦横格子と、漆黒を多用した和のイメージ。スイートの一部では和室も設け、ホテルでは珍しい靴を脱いでくつろぐスタイルを採用した。その床には、日本初採用となる栃の無垢フローリングが敷き詰められている。リビングのサッシュには、電動ブラインド。スイートのバスタブは檜風呂、自由自在の調光システム、バスローブは今治綿、アメニティは英国王室御用達、洗面所の鏡にまでテレビが仕込んであるなど、見るもの、触るものすべてに、記者はただただ感嘆するしかない。そして、耳を澄ませば、鴨川のせせらぎだけが聞こえてくるというわけだ。
記者は、しがないサラリーマンなので、「贅沢」の本質がわからない。だが、このホテルが贅沢を知り尽くした富裕層の琴線に触れることだけは理解できる。記者などは、このホテルに泊まる機会があったとしても、おそらく緊張して寝ることなどできまい。
ちなみに、このホテルの宿泊料金に「定価」は存在しない。「時価」である。各種、旅行会社のパッケージやホテル予約サイトなどを見たところ、平均的な宿泊料金(ルームチャージ)は6万5,000円程度から、関係者の話を聞くとスイートは「数十万円から」ということらしい。もちろん、これだけの施設に加え、「クレド」で名を馳せるリッツ・カールトンのホスピタリティが味わえるのだから、その価値はあると見た。
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2020年の東京五輪開催が決まり、我が国はさらに増え続けるであろう外国人観光客への対応を迫られることになる。絶対的な宿泊施設不足の解消はもちろんだが、そのクオリティ、ホスピタリティのレベルが試されるはずだ。
記者は、不動産会社との懇親会等で、リッツ・カールトンをはじめとしてトップブランドホテルを利用することが多いが、そのホスピタリティは、国内の一流ホテルと比べても、まるで質が違う。世界相手に「お・も・て・な・し」と宣言してしまったのだから、こうした一流ホテルに「世界に通じるホスピタリティ」を学ぶことは、より重要になってくるのではないだろうか?(J)
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