シンプルで機能的。「女性目線」のサービスで成功するコンパクトホテル
今年5月、新橋の新虎通りに「東急ステイ」がオープンした。白を基調とした開放感のあるロビーフロアには宿泊者が自由に淹れられる無料の珈琲のサービス。1階のイタリアンカフェには新鮮な素材を活かしたヘルシーな料理が並び、夜は大人のバールへ変身。客室には、洗濯乾燥機やミニキッチンにゆったりと足を伸ばせる浴槽。滞在型ホテルも、ここまで心地よい空間を提供するようになった。 今回は、最新のコンパクトホテル(滞在型ホテル等)事情をチェック。必要最小限のサービスと金額で、リラックスステイできる施設が誕生している現状を伝えたい。









「ホテルにいながら、自宅の快適さを提供できる空間の提供」を経営理念に掲げる東急ステイサービス(株)。東京都心部で展開する滞在型のホテルは14店舗(客室数1,865室*東急ステイレジデンスを除く)に上る。 同社が勝負をするのは、ウィークリーマンションとシティホテルの中間に位置する「都市型コンドミニアム」。「滞在の心地良さを追求しながらも、ビジネスホテルの価格で、シティホテルなみの高い居住性」(同社担当者)を提供している。
今年5月の「東急ステイ新橋」(総客室数221室)の開業に続き、来年春には「(仮称)東急ステイ新宿三丁目」(同179室)、「(仮称)東急ステイ銀座」(同194室)をオープンする予定だ。
共用部ではなく各客室内に洗濯乾燥機を装備するほか、電子レンジやミニキッチンなど生活に必要なものを備えつつ、しっかりセキュリティも強化。安心して心地良く滞在できる客室の提供にこだわり、展開をしている。
エステのような清潔感、滞在型ホテルでは珍しい使い捨てスリッパ
「東急ステイ新橋」は、虎ノ門ヒルズの誕生などもあり、エリアの注目度も高いが、カフェレストランで提供する新鮮な食材を使った朝食メニューといった女性目線のサービス、浴槽の広さや使い捨ての紙のスリッパを用意しているところなどに注目したい。豪華な設備は要らない。それほど広くなくてもいい。客室に必要最小限なサービスがあれば、それで十分という利用者には最適の空間といえよう。
東急ステイサービス(株)は、2020年までに新たに10店舗の新設を目指しているという。
ウィークリーマンションから、ホテル事業へ
一方、全国展開している滞在型ホテルにも目を向けてみよう。
注目したいのが、(株)リブ・マックス(東京都新宿区)。
同社は1998年に兵庫県芦屋市で設立。翌年から不動産仲介事業、2002年にはウィークリーマンション事業を展開し、06年にホテル事業に参入している。「ウィークリーマンションで培ったBUYINGパワーをきかせている」と話すのは、同社常務取締役の小山茂和氏。
JR山陽新幹線「姫路」駅徒歩3分の「ホテルリブマックス姫路駅前」に宿泊してみた。
姫路は記者にとって馴染みのある土地で、これまでも頻繁に足を運んでいたが、その存在には気づかなかった。昨年6月に開業したという同ホテル。駅から近いものの、大通りからは一本入った立地のせいかそれほど目立たない。姫路市民からの「これはホテルだったのか」との声もある。というのも、1階には「全国のお部屋探しLiVE MAX」の緑の縁取りの看板が目立つ不動産賃貸仲介店舗が営業しているからだ。
92室の客室にはミニキッチン、電子レンジ、ズボンプレッサー、冷蔵庫、液晶テレビにインターネット回線と、生活に必要な最小限のものが揃う。ダークブラウンで統一された家具とシックな配色の壁。モノトーンでまとめられた空間は、シンプルで、飽きのこないデザイン。浴槽も深型タイプで、長期滞在者には嬉しい。サービスの質は落とさず、価格を抑える。その裏には、「フロントスタッフの人数を必要最低限数にする」(同氏)などの工夫もあるようだ。
リゾートホテルにも誘導
現在、(株)リブ・マックスが展開するホテルは、リゾートも含めると全国に39軒(14年8月20日現在)。今年になってからその勢いには拍車がかかり、3月に千葉市美浜区、4月に軽井沢と熱海、7月には静岡県下田市、沖縄、千歳、8月20日には宇都宮にオープンした。
同社は、駅近にコンパクトなビジネスホテルを全国展開する一方、リゾートエリアではカップルやファミリーで楽しめる温泉大浴場やプール併設といったスパリゾートを新規で続々とオープンさせている。その開業の告知をグループ内の別のビジネスホテルで行ない、ビジネスホテルに泊まった客が、「今度はリゾートにも」といった流れを作り、全国に「リブ・マックス」ファンを増やしていく作戦だ。
会員囲い込み、アパホテル
アパグループでは、10年4月1日から「SUMMIT5・頂上戦略」をスローガンにした中期5ヵ年計画を実行中だ。
日本の中心である皇居を取り巻く都心3区(千代田区、港区、中央区)を中心に、15年3月末までに東京都新で新築ホテル客室数1万室の事業展開を目指している。今年8月12日には「東日本橋駅前」(219室)を開業し、現時点の都心ホテルは33棟7,840室になった(建設や設計中も含む)。同事業計画発動期の目標客室数は4,000室であったが、それをはるかに超える客室数を実現。同社はあと半年ほどすれば事業戦略を終え、次なる戦略「第二次SUMMIT5」をスタートさせるとしている。
アパカードの会員を囲い込み、駅前など都心アクセスにこだわった立地と、標準仕様としての付帯サービスの高さが成功の秘訣か。まくらとベッドとの相性を科学的に検証して開発された同社オリジナルの3Dメッシュまくらや、オリジナルのナイトガウンなど、滞在中の心地良さにもこだわり続けている。
価格を抑え、質の高いサービスを提供するコンパクトなホテルがこのように都市、郊外を問わず激増している。ビジネスでもプライベートでも、ユーザーの心をつかむ心地良いホテルづくりがトレンドになっているようだ。キーワードは「女性目線」。きめ細やかなサービスが充実しているホテルは、老若男女を問わず人気となりそうだ(Y)。